【コラム・髙橋実穂】学校心臓検診は海外にはない日本独特のシステムです。1958年、就学時に健康診断を行うことが定められ、73年から学校健診の必須項目に学校心臓検診が指定されました。95年から、小・中・高校の1年生全員に心電図検査が義務付けられました。該当する学年の生徒は、春に学校で一斉に心電図をとっています。小学4年生にも行う自治体も増加しています。
学校心臓検診の目的と1次検診の役割
当初の目的はリウマチ熱によって起こる心臓病の発見・管理でしたが、未発見の先天性心疾患や川崎病による冠動脈後遺症の発見・管理へと変化してきました。最近ではほとんどの先天性心疾患は学校心臓検診の前に診断されているため、遺伝性不整脈や心筋症などの発見・管理が重要になっており、心臓突然死の予防にシフトしつつあります。
現在の学校心臓検診の流れを図1に示します。1次検診で行うのは、心電図、学校医の内科検診、心臓検診調査票などです。遺伝性不整脈や心筋症の発見のためには12誘導心電図(胸6カ所と両手両足4カ所に電極をつけて、合計12個の波形を得る心電図)が望ましいですが、まだ省略4誘導の地域もあります。学校医の診察はとくに聴診が重要です。無害性心雑音とそうでない心雑音、心音の異常などを抽出する機会になります。
心電図や学校医の聴診所見に異常がなくても、調査票の項目で2次検診に抽出することもあります。とくに運動時胸痛や動悸、失神などの項目が重要になります。

学校心臓検診と心臓突然死
学校管理下の心停止の発生場所は、グラウンド、プール、体育館を合わせて約8割が運動に関連しています。運動によって増悪する疾患を見逃さないために、学校心臓検診は非常に有用ですが、すべて発見できるわけではありません。
学校心臓検診で発見可能な疾患は、先天性心疾患、心筋症(多くは肥大型心筋症)、WPW症候群、QT延長症候群、Brugada症候群、川崎病の冠動脈後遺症、肺動脈性肺高血圧症―などがあげられます。QT延長症候群は図2のようなtorsade de pointes(TdP)と呼ばれる特徴的な心室頻拍(ひんぱく)から心室細動に移行して、失神や突然死を発症する遺伝性疾患です。
いくつかの遺伝子型が報告されていますが、一番多い遺伝子型のLQT1は水泳中や運動中にTdPが誘発されるので、学校生活での制限が必要です。

学校心臓検診の心電図で発見がむずかしい不整脈として、カテコラミン誘発多形性心室頻拍(CPVT)を図3に示します。これも遺伝性不整脈のひとつです。安静時の心電図では徐脈傾向以外に異常を示さないことが多く、運動あるいは精神的ストレス時にしか、心室期外収縮や心室頻拍、心室細動がおこらないことが発見が難しい理由です。失神をてんかんと誤診され、抗てんかん薬を内服しているケースもあります。
心臓検診調査票での突然死の家族歴や失神の既往とその状況が発見の契機になるため、調査票が重要であることがわかります。普段は元気なので、病識(びょうしき)が薄く運動制限が守られないこともあります。
学校心臓検診で発見できない疾患は、先天性冠動脈異常、大動脈解離、心筋炎、心臓震盪(しんとう)、特発性心室細動などです。心臓震盪は、前胸部に鈍的衝撃が加わることで心室細動が発生し、突然死の原因になります。中学生から高校1年生にピークがあり、野球のボールで起こることが知られていますが、ソフトボール、アイスホッケー、サッカー、バスケットボールなどの報告もあります。

突然死ゼロをめざすためには?
学校心臓検診の役割としては、聴診や心電図以外に調査票からもハイリスクを抽出し、2次検診、精密検査へ進め、正確な診断・管理をすることが重要です。しかし、学校心臓検診だけで心臓突然死を防ぐことはできません。
胸骨圧迫などの蘇生術や自動体外式除細動(AED)を速やかに、かつ適切に行うためには、AEDの設置推奨場所の順守や、職員全員・児童生徒による定期的な救命講習を行う必要があります。大人だけでなく、小児期から救命を学ぶことにより、他人の命を大事にする、いわゆる命の授業にもつながっていきます。(筑波メディカルセンター病院 小児科専門部長)