水曜日, 12月 17, 2025
ホーム土浦まちを巡って演劇鑑賞を 今年は神立駅周辺で 

まちを巡って演劇鑑賞を 今年は神立駅周辺で 

26、27日 飲食店5店で4劇団が回遊型イベント

まちの各所で上演される演劇を巡り、まちを歩きながら、演劇とまちの魅力を知ってもらおうと、土浦市神立地区で26日、27日、回遊型の演劇イベント「つち浦々まちなか演劇めぐり 神立編」(つち浦々まちなか演劇めぐり実行委員会主催、久保庭尚子委員長)が開かれる。昨年に続いて2度目の開催。昨年は土浦駅周辺の飲食店や寺社など10カ所を会場に、2日間で10団体が会場ごとの特色を生かした演劇を上演した(23年1月1日付同9月27日付)。今年は神立駅周辺の飲食店5店舗で、4団体が演劇や朗読劇などを上演する。

昨年はお寺や中華料理店で

「まちを巡りながら美術作品を楽しむというイベントが各所で行われている。演劇もそういった形で上演できたらと思った」と話すのは、主催団体の委員長で、朗読会や舞台の演出も手掛けるかすみがうら市在住の俳優、久保庭尚子さん。寺社や飲食店など普段は演劇会場としてはあまり使われない場所で開いた昨年の上演を振り返りながら、「お寺では背景に仏様があったり、中華料理店では1階と2階を利用したりするなど、会場に合わせた上演方法をアーティスト自身が考えた。照明も劇場のように暗くせずその場の照明を利用し、声の響きも劇場とは異なる中で、演じる方も、お客さんも、新鮮さを感じていたと思う」と話す。

車での移動が市民に根付く土浦で、実際にまちを歩きながら複数の上演会場を巡ってもらえるのか不安もあったというが、昨年は会場の地図が描かれたチラシを手にまちを歩く人たちが行き交い、「土浦を知るきっかけになった」「改めて演劇が好きになった」という声が、演劇を見にきた人からだけでなく、会場を提供した人たちからも聞こえてきた。

昨年、生家の古民家を上演会場として提供した、市内で設計事務所を営む高橋農さん(39)は「私は土浦に生まれて、東京で仕事をして、また土浦に帰ってきた。土浦を盛り上げたいという思いは強かった」と言い、「その一端が担えれば」と、今年は実行委員会のメンバーとしてイベント開催に臨んでいる。

いつものお店で気軽に楽しんで

今年は、神立地域の飲食店や製造業者などによる神立商工振興会が協力し、神立駅周辺にある「鳥吉 神立店」「喫茶・酒場 のすたるじあ」「居酒屋 寿々喜」「金澤屋」「中国料理 盛榮」の5店舗を会場に、「劇団ルート6」「三月劇場(斜三次)」「玉響~たまゆら~」「よませてヨマセテ」の4団体が朗読劇や演劇を上演する。

「鳥吉 神立店」「喫茶・酒場 のすたるじあ」「金澤屋」で上演されるのは、劇団ルート6の「Trash Fish A・B」。会場ごとに「A」と「B」の二つの演目を演じて、一つの物語を複数の視点で見つめるオリジナルストーリーで、同劇団の福田バツマルさん(48)が演出・脚本を手がける。

イベントの打ち合わせに参加する「劇団ルート6」の福田さん(左)

実行委員長の久保庭さんは「地元を盛り上げたいという思いがある。演劇を劇場で見ることに敷居の高さを感じる方もいるかもしれないが、いつも食事しているお店や、飲みに行っているお店で何かやっているぞ、という気軽な気持ちで、普段とは違ったお店の顔や雰囲気を味わいつつ演劇を楽しんでいただけたら。今後も続けていきたい」と語った。(柴田大輔)

◆「つち浦々まちなか演劇めぐり 神立編」は10月26日(土)、27日(日)、土浦市神立地区で開催。
鳥吉 神立店(神立中央1-10-16)=26日午前11時~、午後3時30分~、27日午前11時~、午後2時~、劇団ルート6が「Trash Fish -sideA-」を上演。
喫茶・酒場 のすたるじあ(神立中央2-3-2)=26日午後1時~、午後4時30分~、27日午後4時~、劇団ルート6が「Trash Fish -sideB-」を上演。
居酒屋 寿々喜(神立中央1-12-6)=26日午後2時~、27日午後7時~、3会場で上演の3作品を「美味しいお芝居」としてまとめて上演。27日正午~、三月劇場(斜三次)が「極私的演劇温故知新」を上演。
金澤屋(神立中央1-11-18)=27日午前11時~、玉響~たまゆら~が「金子みすずの詩歌(うた)〜音楽とともに〜」を上演、27日午後5時~、同劇団が「朱川湊人『栞の恋』」を上演。
中国料理 盛榮(神立中央1-14-4)=27日午後3時~、よませてヨマセテが「グリム童話『ねずの木』他」を上演。
◆各会場でスタンプを集めるとオリジナルのステッカーやトートバッグがもらえるスタンプラリーや、演劇を巡りながら演劇や神立のまちで撮影した写真をハッシュタグ(#)「つち浦々フォトめぐり」とともにSNSに投稿すると抽選でギフト券が当たるなどの企画も同時開催される。
◆チケットは、各会場での1演目を1回鑑賞できる「1演目券」が1000円、26日午後2時からと、27日午後7時から「居酒屋 寿々喜」で上演される3作品を見ることができるチケットは2000円。購入は専用の販売サイトへ。詳細はイベントの公式サイトへ。問い合わせは、つち浦々まちなか演劇めぐり実行委員会のメール(tsuchiuraura@gmail.com)か、電話029-896-3099へ。

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【投稿・鳥居徹夫】今年9月の定例市議会で、つくば市保健センター条例から茎崎保健センターの記載が削除され、つくば市地域交流センター条例に「茎崎交流センター別館」を新たに加える議案が同時提出され、審議もなく全会一致で決定となった。 「広報つくば」12月号によると、17日に「茎崎保健センターが新しく生まれ変わり、茎崎交流センター別館としてオープンします」と広報されている。 場所は「茎崎保健センター」があった建物だが、条例に定められていたはずの保健センターの機能は15年前からなく、条例にあった「茎崎保健センター」の字句も、建物の名称も、ついに消滅した。 既存施設の代替を理由に、15年続いた条例違反の異常事態が解消され、つくば市長や市幹部にとっては「のどに突っかかった小骨」が取れてほっとしていることであろう。 市長は条例違反を知っていた 2023年10月14日のタウンミーティングで私は、「つくば市保健センター条例が守られていない状況というのは、やっぱり改善してほしい」と発言した。五十嵐立青市長は「ご指摘の部分はおっしゃる通りの状況で…」と条例違反を自白した。 しかし市長は「建物は存続するが、機能は廃止する」と強弁。条例違反を追認したばかりか、逆に(条例違反の)現実に条例を合わせ、保健センター条例を改悪すると居直ったが、今日まで条例に手が付けられなかった。(2024年4月4日付) 市保健センター条例には、第2条に「名称および位置」として茎崎保健センターなど4カ所が明記されていた。第4条に「業務」として(1)検診等(2)健康相談や健康教育(3)保健指導、栄養指導(4)機能回復訓練(5)衛生知識の普及等ーを明記、第5条で、各保健センターに「必要な職員を置く」となっている。 「茎崎保健センター」では、第4条(1)の検診等は春と秋の2回、茎崎保健センターの建物を使っていたが、貸し会議室のような存在。検診の結果が出ると谷田部保健センターから保健師が来て、会場を借りて、相談希望者に対応している。さらに常駐の保健師がいないので、第4条 (2)(3)(4)(5)は有名無実。また第5条に定める必要な職員は不在だった。 茎崎保健センターから責任者(センター長)と保健師が不在となったのが2010年であり、条例違反が15年も続いていた。 この経過を「NEWSつくば」に投稿したところ、多くのコメントを頂いた。「頼れる福祉」ではなく「頼りにならない市長だった」としたツッコミには、思わず噴き出した。現市長の「公約ロードマップ(工程表)」の5本の柱の3番目が「頼れる福祉」だが、それを皮肉ったコメントであった。 その場しのぎの市幹部、問われる議会のチェック機能 何度も言うが、条例違反の状況は、2010年から15年間も続いていた。「意図的な長期間の違反放置」が、住民や市議会議員が条例空文化に疑問を持たせないための行政側による仕掛けとなってはならないことは言うまでもない。 「茎崎保健センター」から保健師等が不在となり、利活用を検討した当時の担当が公有地利活用推進課だったことは、市が保健センター条例違反を追認していたことになる。仮に「利用者が少ない」としても、条例違反を常態化して良いことにはならない。 その当時、市議会の本会議で、茎崎保健センターの解体問題が取り上げられた。五十嵐市長は「(保健センターとしての)相談件数が減っている」と強弁したが、橋本佳子議員(当時)が「保健師が撤退したから、相談件数が減るのは当然」と反論した。 地域にドラッグストアがあれば、住民は利用するが、ドラッグストアがなければ、住民は利用しない。そもそも利用できない。そして市街地がさびれるという悪循環となる。 しかし、今年9月議会では、市長を追及した会派も含め全会一致で、「茎崎保健センター」の名称削除を決定し、保健センター機能の復活の芽が摘まれることとなった。 ちょうど5年前の2020年に、茎崎庁舎跡地利用に関する住民説明会があった。市から「保健センターの建物を解体し、その跡地を商業施設の用地にする」の提案があり紛糾した。 住民から「保健センターの機能は蒸発するのか」(保健部が担当)、「解体工事中の茎崎窓口センターは、どうなるのか」(市民部が担当)などの質問に対し、都市計画部(公有地利活用推進課)から責任ある答弁がされず、さらに「行政のタテ割りの弊害が問題ではないか」と批判された。 この住民説明会には、事前に内容を知っていると思われていた複数の現職の市議会議員までもが疑問に感じたのか発言があり、意見を述べた。 当時担当課は「40歳以上の集団健診については最悪、谷田部保健センターになる可能性もある」などと説明したが、とうてい納得できるものではなかった。 茎崎保健センターの建物が、都市計画部公有地利活用推進課の担当となったことで、当時の茎崎庁舎の跡地利用問題に対し、商業施設誘致と保健センターの建物と、どちらかを選択せよという誤ったメッセージを、茎崎地区の区長会、住民に与えることになったことになったのではないか(2020年8月7日付)。  結局、茎崎保健センターの建物は、解体は阻止され、現在地でリニューアルとなり、この12月に茎崎交流センター別館としてオープンとなる。また集団検診の会場として利用することにもなった。 そして新たな商業施設は、当初の計画より規模を縮小し、昨年2023年に車の通行量の多い県道沿いにオープンした。 だれも責任をとらないまま これら一連の動きの中で、茎崎保健センターは、保健師の配置等、条例違反だったという問題はだれも責任をとらないままであった。 この条例違反は、いまの市長就任前からであるが、現市長には再発防止も含めた説明責任がある。とくに①条例違反になったことを知ったのはいつか、②条例違反を知っていたのに、条例を守らず、現状を放任していたのはなぜか、など説明する義務がある。また市議会こそ追及すべきであった。 条例違反を既成事実化し、既成事実をもとに条例改悪を押し付けた市長と市幹部。条例があるのに勝手に無視し、長期に役割を放棄してきた不都合な真実がばれた。ばれなかったら、表沙汰にならなかった。 役所の密室の中で、住民が知らないうちに、いや、知らせないお上(おかみ)体質の中で、住民は口出しするな、批判するなということではないか。 条例違反を15年続けていながら、だれも責任をとらないまま、ある日、交流センター別館に代わるのであった。とりわけ市議会のチェック機能、市民への情報公開の意欲が欠如していると感ずる。 地方政治に関心が高まる流れも 「地方自治は民主主義の学校」と言うが、多くの一般住民は地方行政や住民サービス、納めた住民税の使われ方についての関心が薄い。市長の名前も知らない有権者も相当数であろうし、市行政への提言要望やチェック機能を担う市議会議員も存在感が薄い。 つくば市は、首都圏の通勤圏内にあるTX沿線で若い世代を中心に人口が増加、子供の人口も増えて、学校の新設が相次いでいる。一方、周辺部は高齢化が進み、子供の数が減り人口減少が進んでいる。 いま市内の保健センターは、子供の多い地区など3カ所のみの配置となり、高齢化が進む市内周辺地域には存在しない。 地方政治には国政ほど関心がないし、国政選挙と重ならない地方選挙では、投票率が3割を切るケースも出ている。 ところが昨今、国政では大きな変化がみられる。投票率でみると、昨年の衆議院選挙(53.9%)よりも、今年の参議院選挙(58.5%)の方が高いという逆転現象がみられた。参議院選挙は身近でないと思われ関心も薄く、今年は7月の3連休の真ん中の日曜日であった。 いま18歳選挙権の定着もあって、若い世代が投票に行くようになった。6年前の参議院選挙(48.8%)と比べると、投票率が10%も増えている。ここ数年の国政選挙の投票率の上昇局面は、若者ら有権者の関心の高まりがあり、ニューメディア・オールドメディアを問わず、政治や行政が大きく取り上げられている。 地方自治への無関心は、地域住民の生活や福祉の停滞に、深くかかわってくる。自治体の政治や行政に、国政と同様に関心を強めることは当然である。 この国政への関心の高まりは、地方政治・行政にも押し寄せるのではないだろうか。「世界のつくば」の中身が問われてくる。 (政治労働問題研究者・認定コメンテーター)

自然と等身大で向き合う遊び仕事(4)《デザインを考える》27

【コラム・三橋俊雄】今回取り上げる「遊び仕事」は、京都府宮津市由良地区に伝わる「にごりすくい」と「手長エビ漁」についてです。 にごりすくい 由良川は、大雨で濁ると水中の酸素が不足し、魚たちはふらついて川のよどみに集まります。そこを「タモ」と呼ばれる大きな網で上流から下流へすくい、ぐるりと岸へ寄せて捕える漁法があります。アユもコイもウナギも一度に捕れるため、「これほど面白い漁はない」と評されたものです。 昭和30〜40年頃までは広く行われていましたが、現在では大雨時の危険性から禁止されている地域もあります。タモは、杉の枝を巧みに曲げ、直径数ミリのしなやかな枝先を両側から重ね合わせて糸で縛り、輪を作ったものです(図1)。柄の長さは約4メートル。網の部分には絹糸が用いられ、女性たちが編み上げ、毎年柿渋に浸して干すことで補強していたとのこと。 手長エビ漁 網を使った漁法では、サナギや身欠きニシンを餌に糸でつり下げ、手長エビをおびき出します。エビが姿を現したところを、直径20センチほどの細長い小さな網で捕えます。エビは驚くと後方へ逃げようとするため、その習性を利用し、背後からそっと網を差し入れて捕えます。 一方、「モンドリ」を用いた漁は、由良川で6月から12月にかけて行われます。モンドリにサナギを入れて円錐形のふたをし、10カ所ほどに沈めて紐(ひも)の一端を川辺の石に結び固定します(図2)。2日ほどたったら、Y字型の枝先にひっかけて仕掛けを引き上げます。一つのモンドリに7〜8尾、合わせて80尾ほど捕れることもあります。 捕れた手長エビは高級食材ですが、売るのではなく、天ぷらにして家族や友人に振る舞われます。私も学生たちとともに、何度もその味を楽しませていただきました。 地域の伝統的生活文化を継承 これこそが「遊び仕事」の世界です。自然に分け入り、プリミティブな道具を用いて相手と同じ土俵で獲物を追う。これまでの体験で培ったスキルを駆使し、身体感覚を総動員して得られた成果は、自らの喜びとなるだけでなく、仲間内での誇りや自慢にもつながります。さらに、その成果をお裾分けすることによって、また新たな喜びが生まれていきます。 すなわち、「遊び仕事」とは、①人間行動の本質である「遊び」を通じて、自らが自然との関係を結ぶ第一歩であり、②自然と人間が等身大で向き合える貴重な共生の場でもあります。さらに、③「遊び仕事」を通じて身近な自然や生活文化の豊かさを再認識することができ、地域の伝統的生活文化の継承・保全、そして地域の活性化にもつながります。 翻って、今日の私たちは情報化やバーチャル社会のただ中にあります。だからこそ、「遊び仕事」の経験は、④自然との「生身の」付き合い方を体験できる、大切な学びの場ともなるのはないでしょうか。(ソーシャルデザイナー)

「支える人が守られる環境を」児童相談所元職員 飯島章太さん講演会 21日 土浦

「誰かを支えたいと願う人こそ、大切にされる職場であってほしい」—。千葉県の児童相談所・一時保護所で勤務していた元職員の飯島章太さん(32)はこう訴える。 飯島さんは、過酷な労働環境で体調を崩し退職を余儀なくされたとして、千葉県に未払い賃金や慰謝料の支払いを求めて提訴している。21日、土浦市川口の古書店「生存書房」で、飯島さんの講演会「労働としてのケアを考える~千葉児童相談所裁判が問うこと」(茨城不安定労働組合主催)が開かれる。「心身が守られない職場環境のしわ寄せが、本来守られるべき子どもたちに及んでいる」と語る。 精神疾患の長期療養 3倍 飯島さんが、千葉県 市川児童相談所の一時保護所で児童指導員として勤務を始めたのは2019年4月。虐待などで家庭に居られなくなった子どもを保護し、生活支援や自立に向けたサポートを行う役割だった。現場では、定員の倍となる約40人が入所し、多い日は一人で20人の子どもを見なければならなかった。 職員不足の中、休憩はほとんど取れなかった。午前8時半から午後5時15分までの日勤では、学習支援、食事や掃除のサポート、レクリエーションなどに対応した。精神的に不安定な子どもも多く、けんかや事故など不意のトラブルにも注意を払わなければならない。不慣れな職場で十分な研修もないまま、先輩の仕事を「見よう見まね」で覚えていった。残業も頻繁で、行動観察記録や学習プリントの確認などの事務作業を終える頃には、午後8時を過ぎることも多かった。 月に4~6回の宿直勤務は、2人の職員で40人を担当した。約21時間勤務の上、残業もあった。子どもたちの就寝後は、翌日の会議や行事の準備、子ども一人ずつの記録作成に追われた。緊急一時保護の受け入れや体調不良の子どもへの対応で、仮眠時間は廊下に布団を敷いて待機し、「横になれても眠れたことはほとんどなかった」と振り返る。 こうした勤務の中で飯島さんはうつ病を発症。休職と復職を繰り返し、2021年11月に退職することになる。翌22年7月、千葉県を相手取り総額1200万円の損害賠償を求め千葉地裁に訴訟を起こした。 「自分の経験を個人的な問題で終わらせたくなかった」と飯島さんは話す。千葉県では2020年度、児童相談所の専門職員の精神疾患による長期療養取得率は、他の県職員の3倍以上にのぼり、その約半数が20代だった。体調を崩したのは、決して飯島さん個人の問題ではなかった。 子どもを管理する葛藤 勤務する中で飯島さんが最もつらかったのは、「子どもを支えたい」という思いで選んだ職場で、いつしか子どもを「管理する側」に回ってしまったことだった。飯島さんは、大学2年から6年以上、子どもの電話相談ボランティアを続けていた。修士論文のテーマにもしたこの経験を生かし、「子どもの側に立ち、丁寧に話を聞き、支えになれる仕事」として選んだのが児童相談所だった。 しかし実際の現場では、思い描いた仕事はできなかった。子どもたちは多数の細かいルールに縛られていたからだ。ティッシュ1枚を使うにも職員の許可が必要とされ、起床時間まで布団から出てはならず、食事は完食が原則で、残すには許可と謝罪が必要とされた。根拠があいまいな規則に従わないと、強く叱責される子どももいた。集団生活を送る上で規律は必要とはいえ、「刑務所みたい」とつぶやく子どもを目の当たりにし、「家庭で傷ついた子どもを、さらに傷つけてしまっているのではないか」と葛藤した。しかし激務の中で、抱いた違和感はまひしていったという。 「本当は一人ひとりの話を丁寧に聞き、その子の背景を理解しながら支援につなげたかった。学生時代にしていた電話相談の延長線のような仕事がしたかったんだと思う」と飯島さん。学生時代に積み重ねてきた経験が無価値になっていくことに追い詰められていく。ふと我に返った時、自分を信じられなくなる恐怖に襲われた。そして、心身は限界を迎えた。 応援してくれる人は必ずいる 訴訟では12人の弁護士が弁護団「じそう弁護団ちば」を結成し飯島さんを支えている。千葉地裁は、飯島さんが、人員不足や多忙により十分な研修がないまま現場に配属されたこと、休憩や仮眠時間にも作業があったことなどが「安全配慮義務違反」にあたると認め、県に50万円の支払いを命じた。県は即日控訴し、東京高裁での控訴審は10月9日に結審。現在、和解協議が進められている。 飯島さんは「紆余曲折の中でも、今こうして生きてこられたのは、多くの人の支えがあったから」と語る。一方で、「児童相談所に対して世間からは厳しい声も多い。職場では、社会に味方がいるのかと不安になる職員もいた。でも裁判を通じて、応援してくれる人は必ずいると実感できた」と振り返る。 今回の講演会に向けて「今も不安を抱えながら現場で働く職員はたくさんいる中で、120%の力で働く職員に『頑張って』とは言えないが、こういう仕事を選び、子どもたちのために働く人がいることを多くの人に知ってほしい。社会の中で、児童相談所が抱える問題に関心が広がり、職場環境が改善されることで職員が安心して働けるようになれば、それが何より子どものためにつながる」と語る。(柴田大輔) ◆飯島章太さんの講演会「労働としてのケアを考える~千葉児童相談所裁判が問うこと」は21日(日)午後2時から、土浦市川口2-2-12、古書店「生存書房」で開催。参加費無料。参加申し込みは専用サイト、またはメールibarakifuantei@gmail.com(茨城不安定労働組合)、電話050-1808-8525(生存書房)へ。

外国人排斥の風潮に強い危機感 市民団体「牛久入管を考える会」が報告会

法務省の東日本入国管理センター(牛久市久野町)に収容されている外国人の処遇改善に取り組む市民団体「牛久入管収容所問題を考える会」(つくば市、田中喜美子代表)の年間活動報告会が14日、つくば市役所コミュニティ棟で開かれ、昨今の外国人排斥の風潮に強い危機感が示された。 牛久にある同入管センターは、在留資格のない外国人や難民申請中の外国人を収容している。考える会は、収容されている外国人との面会活動などを通して処遇改善などを要望している。 記念講演をしたノンフィクションライターの安田浩一さんは、SNS上でまん延する外国人への偏見を助長する様々なデマについて「デタラメが差別につながり、差別と偏見のその先にあるのは殺戮(さつりく)」だと、102年前の関東大震災での朝鮮人虐殺を例に挙げ強く非難した。 その上で、モスク建設やインターナショナルスクール開設反対運動、移民反対デモが各地で行われる一方、製造業や農業の現場などで多くの外国人労働力に依存している現状に触れ「私たちは好むと好まざると外国人と関わっている」と述べた。 考える会の田中代表は、選挙運動を通じて複数の政党や候補者が公然と外国人排斥を掲げ、政府が「違法外国人ゼロキャンペーン」を展開していることについて「国策として外国人排斥が始まった」と厳しく批判した。 活動報告会には市民や外国人ら約80人が参加した。 東日本入管センターの2025年の被収容者数は現在、毎月約40人から60人前後で推移しているなどの報告があった。2024年6月、入管施設に収容しない代わりに、監理人の管理下で一定の制約を受けながら社会生活を送り退去強制手続きを進める「監理措置制度」が始まって以降は大きく減っている。一方、今年6月以降は被収容者が強制送還される事例が増えているという。 登壇した「監理措置」の中国籍の男性は、入管施設内での生活について「入管職員とコミュニケーションを取ればいじめられなかった。ただ、自由は無かった」と振り返る一方で、「監理措置制度」の下で、入管施設の外で一定の制約を受けながら社会生活を送る現在の状況を「入管の中には塀がある。(入管の)外にも塀がある」と述べた。(崎山勝功)