金曜日, 11月 22, 2024
ホームつくば一人ひとりの物語残したい つくばの尾曾さん 日系ブラジル人の語りを動画に

一人ひとりの物語残したい つくばの尾曾さん 日系ブラジル人の語りを動画に

日系ブラジル人の歴史と今の姿を知ってもらいたいと、つくば市の尾曾菜穂子さん(25)が動画制作に取り組んでいる。「当事者の語りを動画に残し、日系人が生きた足跡を後世に伝えたい」と語る。

今年3月ブラジルに渡り、2週間にわたって取材した。当初は10人ほどに証言してもらう予定だったが、協力者が増えて35人の日系人から話を聞くことができた。完成したインタビューは「ブラジル日系人の歴史と今の記憶」と題して15分程度の番組にし、随時動画共有サイトで無料配信する予定だ。

すでに公開している初回の動画には、福島県出身の夫婦が登場する。戦後、農業の担い手となる「コチア青年」としてブラジルに渡った夫(91)と、「花嫁移民」として移住した妻(88)の会話から2人が歩んできた道のりをたどる。当時の苦労を口にしつつも夫は「今の生活は天国」と話す。ブラジルで出会い結婚したとばかり思っていた妻に対し、実は夫は、日本にいた時に花婿の候補だったがブラジル行きが決定していたため結婚を断った経緯があったことをインタビューで初めて明かし、2人の運命的な関係に妻が感激する場面もあった。

配信された1回目の動画。ポルトガル語と英語訳も表記している

尾曾さんは「100分のインタビューを15分にまとめる作業が大変だった。どこを切り取るか迷ったが、できるだけ視聴者が共感しやすいエピソードを盛り込んだ。日系人の歴史に初めて触れる人にも分かりやすい内容を心掛けた」と話す。

取材は日本語とポルトガル語の両方の言語で書いた質問状を用意し、移住の経緯や家族構成、仕事内容、将来の夢などを質問した。過去を思い出して言葉に詰まったり沈黙したりする人もいたが、無理に言葉を引き出すことはしなかった。「初対面の日本人の私に人生を打ち明けてくれる。ありがたいこと。移住当初は似たような境遇でも、それぞれ考え方や現状が異なり多様な人生に触れることができた」と語る。

若者の生きるヒントになれば

つくば市で育ち古河市の小学校に入学した尾曾さんは、学校という小さなコミュニティーの中に居心地の悪さを感じ早く抜け出したいと思っていた。中学で英語に出合い、それまで生きてきた世界とは異なる文化があることに改めて気付いた。海外への憧れが募り、留学を後押ししてくれる県外の高校に進学。ブラジルに留学した先輩の体験談を聞き興味が湧き、大学に進学する前の1カ月間ブラジルを旅した。折しもカーニバルの時期で町はにぎやか。耳に入るポルトガル語の響きも心地よかった。外国人の自分に現地の人は「どこの国から来たの」ではなく「どこに住んでいるの」と聞いてくれた。国籍ではなく個人として見てくれたことがうれしかった。人々の懐の深さに触れ、一気にブラジルという国にのめり込んでいった。

大学卒業後の2022年から1年間、ブラジル日本交流協会の研修生としてサンパウロ州ピラール・ド・スールの語学学校で日本語を教えた。学校の敷地内にはさまざまな年代の日系人が集う場所があり、そこに通う人たちと親しくなった。その中の一人に、60年ほど前の16歳の時に家族と共に生活の糧を求めて鳥取県から移住した男性がいた。学校の勉強が好きではなかったという男性は、日本の社会科の教科書に載っていた大型のトラクターの迫力に釘付けになった。将来は農業をやるとの思いを強くし、その夢を持ってブラジルへ渡り希望を現実にした。

「大変な苦労があったと思うが、その人の言葉でいつも明るく前向きな気持ちにさせてもらった」。文化が異なる異国でたくましく暮らす男性の生きた言葉に勇気づけられ、自分も同じように大きな夢を持ち、その実現のために行動したいと思ったという。

現地で多くの日系人の人生に触れ、個々のライフストーリーこそが日系人の歴史そのものだと痛感した。「ポジティブに人生を切り開いた人の言葉は、前向きに生きるヒントがつまっている。かつての自分と同じように生きづらさを感じている若者の背中を押すきっかけになれば」と制作への思いを語る。

現在、尾曾さんは奈良県の種苗会社のインターンシップに参加している。働きながら見識を広げ、日系ブラジル人のストーリーを広める活動を展開している。「日本に滞在するブラジル人にもインタビューしたい」。誰かが記録しなければ消えてしまう一人ひとりの物語を残したいという。

動画は1本あたり15分程度。写真や資料を交えながら日系1~3世のインタビュー動画をユーチューブチャンネル「OSO NAOKO」で紹介する。4月から来年7月までに15本配信する予定。現在2話が公開されている。

ブラジルへの集団移住は1908年に始まり、主に農工業に従事した。外務省によると現在約270万人の日系ブラジル人が現地で暮らしており、海外で暮らす日系人数の半数以上を占める。(泉水真紀)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

0 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img
spot_img

最近のコメント

最新記事

県営赤塚公園の秋《ご近所スケッチ》13

【コラム・川浪せつ子】今年のつくば市周辺の紅葉は例年より遅めのようです。つくば市で一番大きい洞峰公園のイチョウ並木も、今年は11月中頃でもまだ緑色。温暖化のせいでしょうか? ですが秋は日々深まりつつあり、至る所で紅葉が見受けられるようになりました。 つくば市役所のホームページによりますと、市内の公園は209カ所だそうです。面積の小さな、駐車場もないような近隣公園もあります。私のお薦めは県営の赤塚公園。駐車場は40台分。市営になった洞峰公園と遊歩道でつながっています。小さな池とかわいらしい水路もあります。 春の桜の季節は見事。とても静かで、近隣の方でないと気付きにくい穴場の公園です。絵のような東屋、ベンチも配置されていますので、ユックリできます。先日は、家族連れの外国の方々が、お子さん達を遊ばせながら、ランチタイム。また、大きな袋を持った女性が、木の枝や実を拾っていました。 近くには、映画館、日帰り温泉… お隣には茗溪学園や住宅。子供たちが遊びに来るからでしょうか、大きな時計も設置されています。先日は、全く水鳥は見えなかったのですが、鳥たちも集まっていることが多いです。自然をそのままに残しているような公園、小さいながら本当に素晴らしいです。 最近、研究学園駅周辺など、新しく移住してくる方が多いですが、どうぞ少し足を延ばしてみてください。赤塚公園の前には、映画館、日帰り温泉、ジム施設などもあります。ジムのボルダリング施設は、オリンピックに出場したスポーツクライミング選手、森秋彩(あい)選手が練習もした所です。(イラストレーター)

中止による減収2億3千万円 土浦花火大会 市が追加負担を決定

市長らの給与減額し道義的責任 土浦市は20日、第93回土浦全国花火競技大会の中止に伴って桟敷席などの収入が無くなり2億3000万円の減収があったとして、同額の補正予算を19日、専決処分で決定したと発表した。併せて、中止により多くの人に心配と迷惑をかけた道義的責任を明らかにするため市長と副市長の給料を減額するとした。 同花火大会は11月2日に開催する予定だったが台風21号の影響により中止。荒天の場合、3日または9日に延期する予定だったが、労働力不足により順延日の警備員を確保できず大会自体を中止とした(11月1日付、5日付、17日付)。 桟敷席の設営や撤去などすでに実施済みの委託業務や、中止に伴い新たに発生する経費を速やかに支払うため、議会の議決を経ないで決定する専決処分としたとしている。2億3000万円は、市が事務局を務める土浦全国花火競技大会実行委員会(会長・安藤真理子土浦市長)に追加補助する。市は当初予算ですでに同実行委に8500万円の補助金を計上しており、中止となった大会の事業費は計3億1500万円になる。全額を市が負担する。 給与の減額は市長が月額20%、副市長が10%を12月から来年2月までの3カ月間減額する。12月の期末手当も市長が20%減、副市長が10%減となる。3カ月間減額する条例についても19日、専決処分とした。 安藤市長は「中止による減収を補うため新たに補助金を増額する結果となってしまったことについて、市民の皆様に心よりお詫びします。開催を心待ちにしていた皆様、 煙火業者の皆様、全ての関係者の皆様に対し、多大なご心配とご迷惑をお掛けしたことについて会長として責任を強く感じています。 今後は花火大会への信頼回復に努め、大会の運営等、様々な課題を検証し、次回の大会につなげて参ります」とするコメントを発表した。

オリジナルレンコン料理専門店開業へ 土浦市産業祭で一部メニューお披露目

日本一の産地である土浦のレンコンを使用したレシピを開発し提供するオリジナルレンコン料理専門店を開業しようと、同市でインターネットテレビ「Vチャンネルいばらき」を運営する会社社長の菅谷博樹さん(55)と、つくば市下広岡で軽食店「ニッチDEキッチン」を運営する増田勇二郎さん(53)が準備を進めている。開業に先立って23、24日開催の第48回土浦市産業祭でオリジナルメニューの一部をお披露目し販売する。 店名は「土浦れんこん物語」。来年1月ごろ土浦駅西口近くの同市川口、ショッピングモール「モール505」の空き店舗に開業し、ランチを提供する予定だ。店を運営する合同会社「土浦れんこん物語」を近く設立する。 菅谷さんによると、土浦にスイーツ店を構えたことがある増田さんと今年9月頃、土浦の活性化について話した際、「レンコン専門店で土浦をもっとアピールしたい」と意気投合したのがきっかけ。 菅谷さんは「レンコンといえば土浦市だが、あまり県外に浸透していないと感じている」と言い、「レンコンを使ったオリジナルメニューを提供し、市内はもちろん全国、海外にも発信したい」と、食を通じた観光促進と地元産業の活性化を目指したいと語る。新店舗のコンセプトについて「農家+料理の職人がコラボレーションしてオリジナルの新しいレシピを作り出していくこと」だと話す。 提供するメニューには、土浦市とJA水郷つくば主催の「日本一のれんこんグランプリ」で2022年と23年に2年連続最優秀賞を受賞した「市川蓮根」(同市田村、市川誉庸代表)」が生産したレンコンを使用する。メニューの開発と監修は、筑波山温泉ホテル一望(つくば市筑波)の料理長を務めた逸見千壽子さんに依頼した。 提供するランチは700円から2000円程度とする予定で、ほかにキッチンカーでの販売も予定し、インターネット販売なども模索している。 コロッケとお焼きを販売 すでにいくつかのオリジナルメニューが完成しており、そのうち「れんこんコロッケボール」と「れんこんお焼き」を23日、24日、モール505で開かれる産業祭で、「ニッチDEキッチン」のキッチンカーで販売する。 れんこんコロッケボールは、レンコンのすりおろしとジャガイモを9対1の割合で配合し、真ん中にカットしたかみ応えのあるレンコンが入っている。食べやすいよう一口大のボール型にしカップに複数入れて販売、クシで刺して食べてもらう。「れんこんお焼き」は、逸見さんオリジナルのレンコン甘辛味噌が入ったお焼きだ。 菅谷さんは「レンコンを使ったオリジナルメニューを今後も開発、提供し、モール505の活性化にもつなげたい」と意気込みを語る。(伊藤悦子)

もったいない(2)《デザインを考える》14

【コラム・三橋俊雄】今回の「もったいない」は、「一物(いちぶつ)全体食」の話からいたしましょう。一物全体食とは、穀物なら玄米のように胚芽まで全部を食べる、野菜や果物なら皮ごと、魚なら骨や頭まで1匹丸ごと食べるという意味で、生物が生きているというのは、丸ごと全体で様々なバランスが取れているということであり、そのまま人体に摂取することで人の身体にも望ましいという考えです。 ウド(独活)の一物全体食 植物のウドも、穂先から茎、皮まで丸ごと食べられる「一物全体食」の食材です。捨てるところがほとんどありません。地中で育つウドの白い茎は酢の物に利用され、穂先の若芽は天ぷらに、硬い皮は細く切ってきんぴらの材料にします。さらに茎の根側の堅い部分は煮付けに用いられるなど、ウドは、それぞれの部位がその特質に合わせて料理に生かされているのです。 ウドという植物を余すところなく食材として使い尽くすこと、そして、前回のコラムでご紹介した「桐材」の多様な利用の仕方も、人間の創造的な知恵の産物であり、「一物全体活用」と言っていいと思います。 さらに、以下にご紹介するのは、一つの「材」ではなく、一つの固有な地域風土が有する「様々な資源」を総合的・循環的に捉えて活用する、三澤勝衛(1885~1937)の『風土産業(1941)』についてです。 塩尻峠横川部落の風土産業 三澤は、横川部落における気候風土の中から、凍(し)み豆腐づくり、養豚、養蚕に着目し、上図に示すような、その地域ならではの循環型資源活用のあり方を提唱しました。 それは、 (1)大豆を購入し、豆腐に加工し、寒い塩尻颪(しおじりおろし)が吹く晩に、凍み豆腐を製造する。 (2)一方、豆腐の搾り粕(かす)の「おから」は、飼っている豚の主要飼料となり、その豚は、肉・皮が利用され、それ以外にも、骨は骨粉にして肥料に、また、油脂も利用する。排泄物は養蚕用の桑や夏期野菜の肥料に使う。 (3)蚕は桑を食べて繭をつくり、その繭は製糸工場で生糸に紡がれる。 (4)繭を売った収入は、冬期の凍み豆腐づくりに向けて大豆購入の資金となる、というものです。 三澤が示したこの「風土産業」は、地域固有の気候風土の中で産み出された様々な資源を、一つの廃物も出さずに全て利用し尽くす循環型の産業であり、今日言われている「循環共生(エネルギーや食を地産地消しながら地域内で資源が循環する自立・分散型の社会づくり)」の先進的モデルと言えるでしょう。そして、広い意味での「もったいない」のデザインと言ってもいいでしょう。(ソーシャルデザイナー)