火曜日, 1月 20, 2026
ホームコラム香取市の「伊能忠敬記念館」《日本一の湖のほとりにある街の話》23

香取市の「伊能忠敬記念館」《日本一の湖のほとりにある街の話》23

【コラム・若田部哲】初めての実測による日本地図「大日本沿海輿地全図(だいにほんえんかいよちぜんず)」、通称「伊能図」を作った香取市の偉人・伊能忠敬(いのう ただたか)。今回は、忠敬の人生の結晶である伊能図のほか、測量で用いられた様々な器具や記録などを紹介している「伊能忠敬記念館」のご紹介です。同館学芸員の石井さんに、忠敬の人生と展示についてお話を伺いました。

入館するとまず目に入るのが、一定時間で2つの日本地図が切り替わって表示されている縦3.5メートル×横約4.5メートルの巨大なモニター。表示されているのは伊能図と現代のランドサットによる衛星写真であり、それらはほとんど重なり合っています。伊能図が200年以上前の江戸時代に作製されたということに、驚嘆の念を禁じえません。

次に驚くのが、忠敬が地図作りに取り組み始めた年齢です。もともと天文学や算術に強い興味を抱いていた忠敬でしたが、婿養子入りした伊能家を経営しなければなりませんでした。その商才で財産を築き家督を譲り隠居した後、測量に取り組み始めましたが、その時、なんと御年実に55歳!

ところで、伊能忠敬というと「初めて日本地図を作った人」というイメージがありますが、最初から日本地図を作ったのではないそうです。その測量人生の最初の目的は、正確な暦を知るために子午線一度の距離を求め、地球の大きさを知ること。この際は江戸から蝦夷(当時の北海道)までを測量しました。

酒を飲まないが測量隊の条件

その後、71歳に至るまで10回にわたり全国を巡ることになりますが、測量は「導線法(どうせんほう)」という技術を基本とし、地図の補正や測点の位置の確認、地図上の山や島などの位置の特定する「交会法(こうかいほう)」という技術もあわせて用いました。それらに加え「象限儀(しょうげんぎ)」で測った星の高度から緯度を求め精度を高めたそうですが、これは地図作製の分野で忠敬が初めて採用した技術だったそうです。

展示されている様々な測量器具も人気とのことで、代表的なものに測量の際の目印となる「梵天(ぼんてん)」、距離を測る「鉄鎖(てっさ)」などがあります。また、忠敬が最も用いた方位を測る「杖先方位盤(わんからしん)」は、常に水平が測れるよう真ちゅう製の万能関節を用い、軸受けには水晶が使われるなど、当時の最先端技術の粋を集めた特別製とのこと。

並べられた数々の資料からも、忠敬の几帳面(きちょうめん)さと厳格さはうかがい知れるところですが、象限儀での天体観測においても、その性質が発揮されているのだそうです。測量中は晴れの晩に正確な観測を行う必要があるため、「酒を飲まないこと」を測量隊の条件としていたにもかかわらず、ある時その禁を破り飲酒騒動を起こした者たちがいました。すると忠敬は、その弟子たちを2名破門、3名謹慎にしたそうです。

人生、何か始めるのに遅いはない

最後に、石井さんに注目すべき点について伺うと、当時としては大変珍しい真鍮を用いた測量器具を用い精度を高めた点や、現代では見られない、星の高度を用いて測量しているという点に、歴史的価値を感じてほしいとのことです。また、ともすれば忠敬個人の才能が語られがちですが、測量隊をまとめる手腕もまた、全国測量を成し遂げるための優れた資質であった点に注目すると、より展示への理解が深まるとのアドバイスをいただきました。

生涯に歩いた距離は実に4万キロ、地球1周分にも及ぶとされる、情熱と信念の人・伊能忠敬。その業績を見るにつけ、人生、何かを始めるのに遅いということはないと、勇気づけられる思いがします。(土浦市職員)

<注> 本コラムは「周長」日本一の湖、霞ケ浦と筑波山周辺の様々な魅力を伝えるものです。

➡これまで紹介した場所はこちら

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

1コメント

1 Comment
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

生物多様性保全、情報発信で協力 つくば市と実験植物園が連携協定

つくば市と国立科学博物館筑波実験植物園(同市天久保)は19日、「相互協力の促進に関する基本協定」を締結し、同植物園で締結式を行った。生物多様性の保全や研究成果の活用、市民への理解啓発など幅広い分野で連携し、今後、企画展や情報発信などを共同で進めていく。 協定では①自然環境の保全②相互の情報・資源・研究成果の活用③市民の安全・安心に関する情報共有④学術研究・科学技術の振興⑤学校教育・社会教育の増進⑥市内大学・研究機関との連携促進⑦これらの目的達成のための必要な事項など7項目を掲げた。 筑波実験植物園は14ヘクタールの敷地内に、日本の植生や世界の熱帯・乾燥地などの自然環境を再現し、絶滅危惧種を含む約7000種類の植物を保有する。そのうち約3000種類を自然に近い形で公開する国内有数の研究施設。企画展やイベントを通じ、年間9万から10万人が訪れている。 市の担当課は今回の協定締結の目的について「昨年3月に市が策定した『生物多様性つくば戦略』が掲げる『生物多様性を守り育むことが当たり前になる社会』という理念は、植物園の『知る・守る・伝える』という方針と合致する」と説明。昨年12月に開催した蘭(らん)展の共催や、今月27日まで開催されているインターネット投票を活用した写真コンテスト「全国に自慢したい!つくばの植物」を協力して実施しており、「市民の理解促進と、子どもたちが自然を身近に感じ継承できる取り組みをさらに進めたい」と述べた。 五十嵐立青市長は「生物多様性は言葉だけでは実感しにくいが、植物園は肌で感じられる場所」だとし、約3000種の蘭を保有する世界有数の保全施設としての同園の特徴を生かし「『蘭のまち』としての発信も検討できる」と述べた。また、市民団体と専門家が協働する循環づくりや、生物多様性センターを拠点としたツアー開催などの構想をあげながら、「都市の中の生態系づくりを専門家の助言のもと進めたい」と語った。 筑波実験植物園の遊川知久園長は「まずつくば市民の皆様に植物園を知っていただきたい。そのために、研究・保全活動、学習支援活動、企画展やイベントの情報発信で市と協力していきたい」とし、「市内にも絶滅危惧種がある。その保護、繁殖に植物園のデータを生かすなど、課題に筑波実験植物園の職員が貢献していくことを考えている」と展望を語った。(柴田大輔)

まちづくりはラジオ体操から《デザインを考える》28

【コラム・三橋俊雄】京都からつくばに戻って、私が最初に取り組んだのは、ラジオ体操から広がるまちづくりのデザインでした。千現・欅(けやき)公園でのラジオ体操をきっかけに、竹園ショッピングセンター広場でも、友人と2人で、朝のラジオ体操を始めました。その初日が、令和元年の幕開けとなった2019年5月1日でした。 地域の接着剤としての役割 まちづくりというと、大きな計画や立派な施設づくりを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、地域を支える本当の力は、もっと身近なところにあります。その一つが「ラジオ体操」だと思います。 つくばの都市部は転入者が多く、地域のつながりが自然には育ちにくい環境にあります。だからこそ、広場でのラジオ体操のように、誰でも気軽に参加できる「ゆるやかな集まり」が、地域の接着剤としての役割を果たすのではないでしょうか。朝、顔を合わせ、あいさつを交わし、少しずつ名前や顔を覚え、やがて人々の輪が広がっていく。まさに、まちづくりの第一歩だと感じています。 竹園でラジオ体操を始めて数年が経ったころ、3人の子どもを連れた若いご夫婦が参加してくれました。そのお母さんから「夏休みにこどもラジオ体操をやってみませんか」と提案があり、7月と8月の夏休み前後にそれぞれ5日間ずつ開催することになりました。普段のラジオ体操(毎週水曜と日曜)は10人ほどの集まりですが、夏休みには子どもたちや保護者を含め、多いときで60~70人が参加してくれます(上の写真)。 夏休みのラジオ体操では、体操が終わると子どもたちに3列に並んでもらい、郵便局からいただいた「ラジオ体操出席カード」にスタンプを押します。 スタンプ係は小学生の上級生が進んで引き受けてくれており、子どもたちの間には自然な役割分担が生まれています。また、夏休みが終わってからも、学齢前の兄妹がそのスタンプカードを大事そうに持って、毎回参加してくれました。 人と人をつなぐ仕組みを創る ラジオ体操の場では、年齢も職業も国籍の違いも関係ありません。知っている顔があり、あいさつを交わす。そうした毎日の小さな積み重ねが、「地域の安心感」や「自分もこの地域の一員である」というコミュニティ意識を高めていくのではないでしょうか。 子どもから高齢者まで、みんなが同じ音楽に合わせて体を動かすことで、自然と「ここに居てもいいという自分の居場所」「頼れる仲間がいるという一体感」が生まれてくるのではないでしょうか。 「人と人をつなぐ仕組みを創ること」。それはデザインです。ラジオ体操はまさにまちづくりデザインの原点であり、これほど優れた「まちづくりの仕掛け」は、他にありません。(ソーシャルデザイナー)

3年 生井さんが最優秀賞 「ひとり暮らしガイドブック」の表紙に 日本国際学園大

日本国際学園大学(つくば市吾妻、橋本綱夫学長)が今年度実施した学内コンペ「ひとり暮らしガイドブック表紙デザインコンペ」(ジェイ・エス・ピーグループ協賛)で、3年の生井妃萌乃さんの作品が最優秀賞に選ばれた。 作品は昨年11月につくば市エリアで発行された学生向けマンション・アパート情報誌「学生下宿年鑑2026ダイジェスト版—つくば市エリア ひとり暮らしガイドブック」(同グループUniLifeつくば店発行)の表紙になり、年間で約5000部が発行される。 最優秀賞を受賞した生井さんの作品は、同グループのマスコットキャラクターでクマの「ユニライダー」やダルマの「スンダルマ」を用いながら一人暮らしの生活を表現している。生井さんは「パズルのような感覚で作ってみた。親しめるようなデザインにした。受賞は光栄。とても驚いている」と話す。 学内コンペは、学生たちの創造力を形にする場として、各地で各エリア版の「ひとり暮らしガイドブック」を発行している同グループの協賛で一昨年から実施している。今年度から奨励賞が加わった。 15日、同大で表彰式が催され、生井さんのほか、優秀賞の3年 柴田心歩さん、奨励賞の2年 関口千奈さんにそれぞれジェイ・エス・ビーグループの担当者から記念品が手渡された。 優秀賞を受賞した柴田さんは「家族と朝食を食べている雰囲気を出した」、奨励賞の関口さんは「人と違ったデザインにしたいと思いユニライダーの大量生産というアイデアを思いついた」と語る。将来は3人とも、デザイン系の仕事を目指したいと抱負を語る。 同グループの飯塚貴史さんは「作品はみんなレベルが高く甲乙付けがたい。来年も開催する予定なので、さらに多くの素晴らしい作品が集まることを期待している」と講評した。(榎田智司)  

批判には名誉毀損で対応 トランプとつくば市の事例《吾妻カガミ》215

【コラム・坂本栄】元日付コラムで、トランプ氏の内政・外交には呆然(ぼうぜん)としていると述べ、一例として「…ベネズエラの大統領を力で排除すると公言している」と指摘しましたが、新年早々、彼はこの言を実行に移しました。関税・移民政策で自国を壊すだけでなく、国際秩序も壊す動きに出たことに愕然(がくぜん)としています。 ベネズエラを植民地化する米国 トランプ氏と取り巻き連の主張を整理すると、米軍特殊部隊を使ったベネズエラ大統領の拉致作戦は「麻薬組織のボスを米国内法で裁く」ということでした。ところが、実行後の彼らの発言により、大統領排除の本音が▽ベネズエラに埋蔵されている石油が欲しい▽同国への中国の影響力を排除したい―だったことが分かりました。 つまり、地下資源と国際政治上の利益を得るために、もっともらしい理屈を付け、ベネズエラの政治機構を壊したわけです。トランプ氏によると、これからは米国がベネズエラを「運営」するそうですから、帝国主義による植民地政策の定義そのものです。 トランプ氏の言動で問題なのは、ベネズエラにしろ、デンマーク領グリーンランドにしろ、隣国カナダにしろ、「あそこが欲しい」と言っている先が中小国あるいは準大国であることです。一方、対ロシアでは同国が主張するウクライナ領切り取りに配慮し、対中国では貿易上の駆け引きで譲歩しており、強く出る大国には恐る恐る対応しています。 こういった米国のゆがんだ姿(米国が第一、弱者に横暴、強者には弱腰)を見てくると、日本が米国に追従(ついしょう)するのはとても危険です。特に防衛分野(例えば核の傘の信頼性)では再考が必要でしょう。 共通するのは「言論封圧」誘惑 トランプ氏のベネズエラ侵攻問題で熱くなり、今回の話題に充てる紙幅が少なくなりました。1メディア人として、トランプ氏の言動を批判的に伝えるメディアに対し、彼が名誉毀損(きそん)訴訟=損害賠償請求=で圧力を加え、言論封圧に出ていることにも強い違和感を覚えています。多様な意見によって練り上げられる民主主義を壊してしまうからです。 トランプ氏は1カ月前、英公共放送BBCの番組で自分の演説が意図的に編集され、名誉を毀損されたと、その損害の賠償をBBCに求める裁判を起こしました。2回目の大統領選でバイデン氏に負けたとき、トランプ氏が選挙結果の無効化をはかり、議会を襲撃するよう支持者を扇動したという筋書きになっていたとの主張です。放送でも記事でも限られた時間やスペースに素材を収めます。彼の主張はこういった編集作業を否定するものであり(無知?)、これでは政治家失格です。 BBC提訴の新聞記事を読み、4~5年前、つくば市でも似たような訴訟が起きていたことを思い出しました。トランプ対BBCに比べるとマイナーですが、元市議が発行したミニ紙聞に掲載された市政批判記事は虚偽が多いと主張し、五十嵐市長が名誉毀損で訴えた事件です。 詳しくは「つくば市長の市民提訴 その顛末を検証する」(2022年2月7日掲載)を読んでいただくとして、審理途中で勝てないと思ったのか、1年数カ月後に訴訟を取り下げました。私は市長の所業を「法律をよく調べないで市民を訴える=市長としての適格性に疑問符」「市民による市政批判を萎縮させる=民主主義の基本である『言論の自由』を軽視」と総括しました。(経済ジャーナリスト)