金曜日, 7月 4, 2025
ホームコラム香取市の「伊能忠敬記念館」《日本一の湖のほとりにある街の話》23

香取市の「伊能忠敬記念館」《日本一の湖のほとりにある街の話》23

【コラム・若田部哲】初めての実測による日本地図「大日本沿海輿地全図(だいにほんえんかいよちぜんず)」、通称「伊能図」を作った香取市の偉人・伊能忠敬(いのう ただたか)。今回は、忠敬の人生の結晶である伊能図のほか、測量で用いられた様々な器具や記録などを紹介している「伊能忠敬記念館」のご紹介です。同館学芸員の石井さんに、忠敬の人生と展示についてお話を伺いました。

入館するとまず目に入るのが、一定時間で2つの日本地図が切り替わって表示されている縦3.5メートル×横約4.5メートルの巨大なモニター。表示されているのは伊能図と現代のランドサットによる衛星写真であり、それらはほとんど重なり合っています。伊能図が200年以上前の江戸時代に作製されたということに、驚嘆の念を禁じえません。

次に驚くのが、忠敬が地図作りに取り組み始めた年齢です。もともと天文学や算術に強い興味を抱いていた忠敬でしたが、婿養子入りした伊能家を経営しなければなりませんでした。その商才で財産を築き家督を譲り隠居した後、測量に取り組み始めましたが、その時、なんと御年実に55歳!

ところで、伊能忠敬というと「初めて日本地図を作った人」というイメージがありますが、最初から日本地図を作ったのではないそうです。その測量人生の最初の目的は、正確な暦を知るために子午線一度の距離を求め、地球の大きさを知ること。この際は江戸から蝦夷(当時の北海道)までを測量しました。

酒を飲まないが測量隊の条件

その後、71歳に至るまで10回にわたり全国を巡ることになりますが、測量は「導線法(どうせんほう)」という技術を基本とし、地図の補正や測点の位置の確認、地図上の山や島などの位置の特定する「交会法(こうかいほう)」という技術もあわせて用いました。それらに加え「象限儀(しょうげんぎ)」で測った星の高度から緯度を求め精度を高めたそうですが、これは地図作製の分野で忠敬が初めて採用した技術だったそうです。

展示されている様々な測量器具も人気とのことで、代表的なものに測量の際の目印となる「梵天(ぼんてん)」、距離を測る「鉄鎖(てっさ)」などがあります。また、忠敬が最も用いた方位を測る「杖先方位盤(わんからしん)」は、常に水平が測れるよう真ちゅう製の万能関節を用い、軸受けには水晶が使われるなど、当時の最先端技術の粋を集めた特別製とのこと。

並べられた数々の資料からも、忠敬の几帳面(きちょうめん)さと厳格さはうかがい知れるところですが、象限儀での天体観測においても、その性質が発揮されているのだそうです。測量中は晴れの晩に正確な観測を行う必要があるため、「酒を飲まないこと」を測量隊の条件としていたにもかかわらず、ある時その禁を破り飲酒騒動を起こした者たちがいました。すると忠敬は、その弟子たちを2名破門、3名謹慎にしたそうです。

人生、何か始めるのに遅いはない

最後に、石井さんに注目すべき点について伺うと、当時としては大変珍しい真鍮を用いた測量器具を用い精度を高めた点や、現代では見られない、星の高度を用いて測量しているという点に、歴史的価値を感じてほしいとのことです。また、ともすれば忠敬個人の才能が語られがちですが、測量隊をまとめる手腕もまた、全国測量を成し遂げるための優れた資質であった点に注目すると、より展示への理解が深まるとのアドバイスをいただきました。

生涯に歩いた距離は実に4万キロ、地球1周分にも及ぶとされる、情熱と信念の人・伊能忠敬。その業績を見るにつけ、人生、何かを始めるのに遅いということはないと、勇気づけられる思いがします。(土浦市職員)

<注> 本コラムは「周長」日本一の湖、霞ケ浦と筑波山周辺の様々な魅力を伝えるものです。

➡これまで紹介した場所はこちら

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

1コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

1 Comment
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

東田旺洋、兵藤秋穂 両選手にエール 関彰商事 4日から日本陸上選手権

第109回日本陸上競技選手権が4日開幕するのを前に、関彰商事(本社筑西市・つくば市、関正樹社長) 所属でいずれも筑波大出身の東田旺洋選手(29)と兵藤秋穂選手(26)の壮行会が3日、同社つくばオフィスで催され、社員約100人がエールを送った。 東田選手は男子4×100メートルリレーに、兵藤選手はやり投げに出場する。同選手権は6日まで国立競技場で開催され、9月に東京で開かれる2025世界陸上につながる重要な大会となる。 一生懸命走ることだけ 東田選手 東田選手は昨年開かれたパリ五輪に出場、今年4月にはアジア陸上競技選手権に出場した。昨年の日本選手権では2位になっている。奈良県出身、筑波大学卒、同大学院を修了し、関彰商事ではヒューマンケア部に所属する。自己ベストは100メートル10秒10。 「この1年で若い選手が台頭し、現在年間ランキングは国内10位なので、ともかく決勝に残ることが重要。準決勝に焦点を当てている。出来ることは一生懸命走ることだけ」と意気込みを話す。 自己新記録目指す 兵藤選手 兵藤選手は2023年、日本インカレ優勝。持ち味は、力強い振り切りと、そこから放たれる鋭く勢いのあるやりの飛行だ。宮城県出身、筑波大学卒、同大学院修了、関彰商事ではライフサイエンス事業企画室に所属する。やり投げの自己ベストは56メートル16。 「やり投げは北口榛花選手がオリンピックで金メダルをとったので、注目を集める種目となっている。昨年は12位に終わってしまって残念だった。今年は十分練習を積むことができたので、入賞と自己新記録を目指して頑張りたい」とコメントした。 壮行会で関社長は「社員一同が応援している。2人にはぜひ頑張って、9月に東京で開催される世界陸上に選ばれてほしい」と激励した。さらに同社所属の高橋理恵子選手がスウェーデン・マルモで開催されたゴールボールの大会で銀メダルをとったこと、同社野球部が天皇杯茨城県大会で決勝に進んだことなどの報告もあった。(榎田智司) ◆日本陸上競技選手権大会スケジュール▽4×100メートルリレー予選は4日午後3時35分~、準決勝は同午後8時25分~、決勝は5日午後6時30分~▽やり投げ決勝は4日午後5時35分~。

応援されるチーム、人の心動かす野球目指して 土浦日大 小菅監督【高校野球展望’25】㊥

第107回⾼校野球選⼿権茨城⼤会開幕まであと2日。大会を前に、強豪校の名監督インタビュー2回目は、土浦日大の小菅勲監督にお聞きした。 団子状態 ーチームの状況を教えてください。 小菅 正直に言えば、今の時点で完成度は高くありません。欠けている部分も多く、まだまだ課題の多いチームです。 ただ、高校野球は「発展途上人」の集まりです。大会に入ってから成長してくれればという期待がありますし、「これでいけるぞ」という手応えも少しずつ感じています。優勝には足りないピースもありますが、それを大会中に埋めていきたいと思っています。 ──茨城全体のレベルについて、今年は突出したチームがいないと思いますが。 小菅 その通りで、まさに「団子状態」です。だからこそどのチームにもチャンスがあるとも言えます。 完璧に抑えられた ー春に準々決勝で常総学院に3対7で敗れました。反省点や手応え、対策など教えてください。 小菅 まず良かった点は、前半が競り合いになったことです。打撃では事前に分析したデータに基づいて狙い打ちができていました。 一方で、守備は機動力を使われた際に対応できなかったことが反省点です。データに出ないような「余白の部分」への対応力も足りませんでした。ここをどうアプローチしていくかが課題ですね。 ー相手ピッチャーの小澤頼人投手は、対戦してみてどうでしたか? 小菅 手強いピッチャーでした。ゾーンにしっかり投げ込む力があり、変化球でもカウントが取れるタイプです。うちの打線も前半はよく対応していましたが、7回以降は完璧に抑えられてしまいました。そこをどう攻略するかが、今後の課題だと感じています。 素材的に差はない ─打撃陣の調子はいかがでしょうか。甲子園4強入りした2年前の世代と比べてどうでしょう。 小菅 素材的にそれほど差はありません。ただ2年前の世代は課題に向き合う姿勢や思考、行動が非常に優れていました。今年の選手たちはその点でややアプローチ不足があると感じています。 理想は「波状攻撃」ができる打線です。1、2番がダメでも3、4番が、そこがダメでも5、6番がカバーする。春の時点ではそこまでできていませんでしたが、今は徐々にその形に近づいてきています。 ─投手について教えてください。 小菅 エースは右腕の永井です。際立ったボールを投げるタイプではありませんが、「打たせて取る」ことを理解し、自分の投球スタイルを確立しつつあります。守備との信頼関係も生まれ、テンポ良く投げられるようになってきました。非常に頼もしい存在になりましたね。 徐々に自覚芽生え ─1年生は甲子園4強を見て進路を決めた世代ですね。入部希望者は増えましたか? 小菅 ありがたいことに問い合わせは例年の2倍ほどありました。やはり甲子園効果は大きいです。 ─甲子園4強世代はダブルキャプテン制でしたが、今年は? 小菅 今年は梶野悠仁がキャプテンです。新チーム発足時は別の選手に任せていたのですが、徐々に梶野の自覚が芽生えて言動がリーダーらしくなり、キャプテンを交代しました。年によって適した体制を選ぶようにしています。 負ける要因つぶすこと再認識 ─春の敗戦から、チームはどう変わりましたか? 小菅 春は「取れるアウトをしっかり取る」という基本が徹底できていませんでした。今はまずそれを完璧にしようと取り組んでいます。負けない野球をするには、まず「負ける要因」をつぶすことが大事だと再認識できました。守備への意識が大きく変わったと思います。また、常総に負けたことで「夏こそは」という雰囲気がより一層強くなりました。 OBの自己分析を共有 ──大学野球でOBが活躍していますね。 小菅 亜細亜大の芹澤優仁(4年)は東都大学リーグで首位打者とベストナイン。國學院大の藤本士生(2年)は防御率4位。法政大の小森勇凛(2年)は慶応大から初勝利。 そのほか、明治学院大の太刀川幸輝(2年)、常磐大の川井康晟(3年)もそれぞれのリーグで結果を残してくれています。芹澤と太刀川には、なぜ活躍できたか自己分析を5つずつ出してもらい、チームと共有しました。選手たちにも好評でした。 脚本家のように ─夏の大会の土浦日大の組み合わせゾーンは「死のゾーン」とも言われています。 小菅 まさに「一戦必勝」。厳しいゾーンですが、戦いながらチームは強くなっていくもの。決勝戦の頃にはまったく別のチームになっているはずです。 本番までに「負けにくい材料」をさらに整備し、仕上げていく。そして大会中も進化していく選手を見守っていく。監督として脚本家のように準備を進めていきます。 心ひきつける存在に ─最後に、応援してくれるファンや地域の方々、OBの皆さんにメッセージをお願いします。 小菅 選手たちには常に「人気のある選手であれ」と伝えています。ここで言う「人気」とは、人の心をひきつける存在であること。 ガッツあるプレー、笑顔、明るさ─選手それぞれの「自分らしさ」が人の気を引き寄せるのだと思います。感謝の念を持ちつつ、自分を押し殺さず、のびのびと自然体でプレーしてほしい。その姿が、きっと見る人の心を動かすはずです。 全力プレーで心を動かす試合を届けられるよう、「応援されるチーム」を目指していきます。高校野球ファンの皆さま、ぜひ球場に足を運んでいただき、熱い声援をよろしくお願いいたします。 【取材後記】春の敗戦を経て、どこか張りつめたような、それでいて希望に満ちた空気がチーム全体に漂っていたのが印象的だった。小菅監督の言葉は一つひとつに実感がこもっており、単なる反省ではなく、「何を得て、どう変わるか」にフォーカスが当たっていたことが、特に心に残った。「取れるアウトを確実に取る」─言葉にすれば当たり前のようだが、春にできなかったことを素直に認め、そこから逃げずに積み上げ直していく姿勢に、このチームの芯の強さを感じた。夏は“いける”、そう語る監督の眼差しはどこまでも冷静で、それでいてどこか楽しそうでもあった。 そして、今年のチームを語る上で欠かせないのが、キャプテン・梶野の存在だ。新チーム発足当初は目立たなかったという彼が、今では自然と声を上げ、チームを導く姿に変わったというエピソードは、まさに今のチームの成長そのものだろう。与えられた立場ではなく、自らの意思でリーダーシップを育ててきたその過程に、大きな可能性を感じた。 取材を終えて強く思ったのは、「このチームはまだ完成していない」ことこそが、最大の魅力なのだということ。大会を通してどのように進化していくのか──まさに“成長の物語”が始まろうとしている。その主役たちがどんな姿を見せてくれるのか、夏の開幕が今から楽しみでならない。(伊達康)

お好み焼きとジャガイモ、それからビール③《ことばのおはなし》83

【コラム・山口絹記】河岸を変えようと移動した店で、彼女からかわいらしい包みを渡された。共通の台湾の旧友(本コラムに登場)の結婚式のお祝いをわざわざ届けてくれたのだ。 どうやらぎりぎりまで私を招待しようかどうか迷ってくれていたらしい。呼んでくれれば駆けつけたのに、と思ったものの、結婚式の招待というのはいろいろと気をつかうものだ。海外となればなおさらだ。実際に足を運んだわけでもないのに参列者のお祝いの品を届けてくれたことに感謝しなければなるまい。 これはめでたいと再度乾杯をする。それにしても、当時は中学生だった20年来の友人たちが皆それぞれの環境で家庭を持つに至ったのはなんとも感慨深いものがある。 本コラムの上に載っているのがその時頂いた品の一つで、「囍」という喜が二つ並んだ漢字の書かれたコースターである。二重の喜び(ダブルハピネス)を意味する漢字で、結婚式にはぴったりのシンボルである。手書きのメッセージカードを読みながら、しばし思い出にひたった。 乾杯! 乾杯! めでたいことと言えば、と私が我が家にもう一人家族が増えることを報告すると、「これは喜が二つじゃ足りないね」ともう一度乾杯になった。「実はまだ名前が決まってなくて」と手元の紙にいくつか候補の名前を書いて見せる。こういう時に日本語の旧漢字に近い文字を使用する台湾の友人は心強いのだ。 この漢字は台湾なら画数増えるね、意味としてはこうで名前にするなら…と丁寧に説明してもらう。産まれてきた我が子が大きくなったら、おまえさんの名前はいろんな人の気持ちがこもっているんだよ、と教えてあげねばならない。 いつか私のこどもたちが大きくなったらドイツに留学させるとよいよ、と2人は言った。冗談かと思ったら本気らしい。ご縁というのは本当に不思議なものだ。私たちのかけがえのない友情とこどもたちの未来に、もう一度乾杯した(言語研究者)

武蔵美卒業生23人 個性あふれる98点一堂に 県つくば美術館

校友会茨城⽀部展  武蔵野美術大学(東京都小平市)を卒業した県在住者及び出身者で構成する同大校友会第22回茨城支部展が6日まで、つくば市吾妻、県つくば美術館で開かれ、会員23人が制作した油彩、日本画、水彩、工芸など98点の個性あふれる作品が展示されている。 同大を卒業した県在住者及び県出身者は約1000人おり、そのうち約30人が会員となっている。支部展は毎年開催されている。 黒川達也(65)さんは油絵「ジュンヌフィーユ」を出展した。「物語の1ページとして描いた作品。作品は決して完成するものでなく絶えず追及している。また絵を描くのは枠にとららわれない思考が必要で、技術だけで描くものではない」と話す。 黒川さんは、美人画で知られる洋画家の宮永岳彦(1919-1987)最後の弟子で、2016年と18年にしんわ美術展奨励賞を受賞したなどの実績がある。地域の絵画サークルの講師などもしている。「絵描きは目が大事、ある時は科学者、医者であるという観察眼が必要で、絵は装飾品になってはじめて生かされる」と語る。 今年はシーソーをかたどった大谷統一さんの木材作品「繋ぐ」が初展示となった。NEWSつくばコラムニストの川浪せつ子さんは昨年に引き続き、NEWSつくばに連載した「おいしい時間(ご飯は世界を救う)」「洞峰公園Ⅰ、Ⅱ」の水彩画の原画などを出展している。 会期中のイベントとして▽5日(土)午後1~3時=「モノづくりワークショップー万華鏡や缶バッジつくり」(参加費500円)▽6日(日)午後1時~2時30分=ギャラリートーク(作家による作品解説)を開催する。(榎田智司) ◆武蔵野美術大学校友会第22回茨城支部展は1日(火)~6日(日)、つくば市吾妻2-8、県つくば美術館で開催。開館時間は午前9時30分~午後5時(最終日は午後3時まで)。入場無料。問い合わせは電話090-6923-7747(冨澤さん)へ。