【コラム・中原直子】「なんか、糞(ふん)かぶりの虫がいるんだけど、あれ何だろう」。2023年5月下旬、宍塚の里山で一緒に活動をしていた会員の大浦さんからそう声を掛けられました。大浦さんは小さな動物や植物を見つけるのがとても上手で、いつも観察会でいろいろな生物を見せてくれます。
行って見ると、畑に植えられたスカシユリの葉の上に、糞をかぶった体長5ミリ以上はあるハムシの幼虫がたくさん止まっています。ユリにつく大型のハムシというと限られるので、すぐにユリクビナガハムシの幼虫だとわかりました。
これまで宍塚でこのハムシを見たことがありません。宍塚では初めての記録となる昆虫なので、甲虫の研究者である吉武啓さん、重藤裕彬さん、高野勉さんと共に報文(吉武啓・中原直子・重藤裕彬・高野勉(2024)茨城県南部におけるユリクビナガハムシの発生確認と生態覚書、月刊むし636号、12~18ページ)として発表することにしました。
中国地方や九州以外ではまれ
ユリクビナガハムシはハムシ科の甲虫です。成虫の体長は約1センチ、全身が鮮やかな赤色をしています。終齢幼虫の体長は約8ミリで糞を背負っています。世界に広く分布している種ですが、日本で普通に見られるのは中国地方や九州で、それ以外の地域ではまれです。ユリ科やそれに近縁な植物の葉や花蕾を食べ、園芸ユリの害虫として知られています。
まず、茨城県でこれまでに記録があるのかを調べました。博物館の報告書や地方同好会の出版物は重要な資料です。すると、2008年に水戸市と小美玉市で確認されていることがわかりました。また世界中の文献を調べたところ、日本で最初に確認されたのは1930年代に佐賀県で、外来種か在来種かは不明ということもわかりました。
その後、宍塚だけにいるのか、周辺にも広くいるのか、近くでユリがある所を見て回ったところ、つくば市内の2カ所で見つけました。調査範囲を広げれば、もっと多くの場所で見つかることでしょう。
分布調査と同時に、どのように育つのか、幼虫や蛹(さなぎ)はどんな形態をしているのか飼育観察しました。その結果、卵から1カ月~1カ月半で成虫になること、羽化した成虫は数日間食草を食べた後、いったん活動を止めることなどがわかりました。
小さな疑問が新たな知識に
野外で見つけた「これは何だろう?」を追求し、時には人々の協力を得て深掘りしていくことで、小さな疑問は新たな知識を得ることにつながっていきます。そして、それを多くの人に読まれる形にしたものが報文です。生物の学会・研究会や出版社は数多くあり、それらが刊行される雑誌に手順と規約を守って正しく投稿し、掲載されると科学的に認められた記録となります。
これは後世への貴重な共有財産です。今回私たちがたくさんの文献を調べたように、私たちの報文をこの先新たな疑問を抱いた誰かが参考資料として使ってくれるかもしれません。
身近な生物でも、実は生態や分布がよくわかっていない種も少なくありません。野外でふと浮かんだ疑問を、もっと科学的に探求してみませんか。(宍塚の自然と歴史の会会員)