句詠み投函して
牛久沼を一望するつくば市南端の同市泊崎(はっさき)、泊崎大師堂に昨年12月、俳句や短歌、川柳などを詠んで、その場で誰でも投函できる投句ポストが設置された。県俳句協会会員で同市茎崎地区で長年、俳句講座の講師を務めてきた同市高見原、印南美都さん(89)と、教え子、知人らでつくる「結の会」(片野晃一代表)が設置した。
境内に設置された投句ポストには、俳句、短歌、川柳などを書く用紙が置かれ、季語の一部が紹介されている。高さ80センチほどの筆記台と筆記用具があり、作った句をその場でメールボックスに投函できるようになっている。投函された句は結の会が毎月回収し、印南さんらメンバーが年4回添削し講評するなどして本人に返却する。送料などは結の会が負担する。
印南さんは龍ケ崎市出身。60年ほど前、教員の夫と旧茎崎町(つくば市)に転居し、1994年から2020年まで茎崎地区の句会「茎立(くぐたち)句会」の講師を務めた。つくばや龍ケ崎市の小学校に出向いて授業で俳句を教えたこともある。俳句をたしなむ傍ら、33年間、民生委員を務めた。
季語の情景がある
投句ポストの設置は20年以上前、印南さんが山形県米沢市内の神社を訪れた際、投句ポストが設置されており投句したのがきっかけ。俳句サークルが活発に活動する茎崎に投句ポストをつくりたいという思いはその後、心の中にしまったままだったが、1年ほど前、教え子の一人が泊崎大師堂をテーマにした俳句を作ったことがきっかけで「(俳句ポストを設置したいという)埋火(うずめび)が噴き出してきた」と話す。
さっそく大師堂の清掃や草刈りなどの管理をしている地元の大師堂保存会代表で県川柳協会会長の片野晃一さん(76)に設置を打診。了承を得て、投句ポストを運営する「結の会」を結成し、設置した。
泊崎大師堂は、空海(弘法大師)が806~810年ごろ、この地を訪れ護摩の修行を修めたと言い伝えがある場所に建てられたとされる。大師堂から一望できる牛久沼は、画家の小川芋銭、俳人の高浜虚子、水原秋桜子らが俳句を詠み、牛久沼の眺めは茨城百景の一つになっている。
印南さんは「牛久沼は今も豊かな自然が残り、季語の情景があり、春夏秋冬どんな日でも句材がある隠れた名所。言い伝えや伝説も数多く残る」と魅力を語り、投句を呼び掛ける。さらに「子供たちが牛久沼の景色を見て、俳句を考えて、表現することを通して、子供たちの情緒を育てる役に立てれば」という。(鈴木宏子)
牛久沼を詠んだ句
五月雨や月夜に似たる沼明り 小川芋銭
牛久沼浮田の田植えせずにあり 高浜虚子
牛久沼あふれてせはし晩稲刈 水原秋桜子
(俳人協会発行の「茨城吟行案内」より引用)
◆投函した句が本人に返却されるためには氏名、住所を用紙に記載することが必要。