金曜日, 7月 4, 2025
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水俣病と福島汚染水《邑から日本を見る》145

【コラム・先﨑千尋】水俣病の未認定患者に一時金などを支給する水俣病被害者救済法(特措法)から漏れたのは不当だとして、近畿など13府県に住む128人が国と熊本県、原因企業チッソに1人当たり450万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が、先月27日、大阪地裁であった。遠野ゆき裁判長は「原告らの症状は水俣病以外に説明ができない」として、国などに1人当たり275万円の賠償を命じた。

この判決はテレビや新聞で大きく伝えられたので、その詳細は省く。特措法では、対象地域を不知火海周辺の特定地域に絞り、救済対象者の年代を限定しているが、今回の判決は特措法対象外の人を水俣病と認めたことが画期的だ。判決で遠野裁判長は「水俣病周辺の漁場は沿岸に限定されず、獲れた魚介類は広く流通していた」とし、線引きを認めなかった。

熊本県水俣市のチッソ水俣工場が毒性の強いメチル水銀を含む排水を不知火海に流し、汚染された魚介類を食べた住民らに手足のしびれや視野狭窄(きょうさく)といった症状が相次いだ。水俣病は1956年に公式に確認され、国は68年に公害と認定した。母親の胎内で影響を受けた胎児性水俣病患者もいる。

私は40年以上前から水俣の人たちと交流を続け、水俣病患者が陸に上がって栽培した無農薬ミカンなどを食べてきた。チッソが垂れ流した排水溝や、汚染された魚介類を埋め立てた公園や水俣病に関する資料館でこれまでの歴史を知り、涙を流しながら語り部の話を聞き、患者たちの活動にも触れてきた。満潮の時に小川に上がってきた魚を最初に猫が食べるところも実際に見た。鏡のようになめらかな不知火海の海。自然が豊かで美しい水俣。そこに「奇病」が襲いかかってきたのだ。

生体濃縮と食物連鎖の恐ろしさ

それで分かったことは「生体(生物)濃縮」と「食物連鎖」の恐ろしさだ。

生体濃縮とは、ある化学物質が生態系での食物連鎖を経て生物体内に濃縮されていく現象を言う。体内に入った有機水銀は、体外に排出される割合が低く、体内に蓄積、濃縮される。小魚を大きな魚が食べ、それを最終的に人が食べる。それが食物連鎖。母親の胎内で母親から有機水銀を吸収し罹患(りかん)するのが、胎児性水俣病だ。生まれた時から水俣病患者だ。

3.11で事故を起こした東電福島第1原発のALPS処理汚染水は8月から海洋放出されているが、どんなに薄められても汚染された魚を食べれば人体に入る。トリチウムやストロンチウム、放射性ヨウ素などの放射性物質が人体に入る。放射性物質による影響には「しきい値」(ある量を超えると変化が現れる境目)がなく、どんなに微量でも生物への影響があると言われている。トリチウムは安全だという学者もいるが、私はその説を採らない。

事故を起こした原発のデブリがいつ取り出せるのか、取り出せないのか、多分誰も分からないと思うが、とにかく汚染水の海洋放出は続く。岸田首相は全責任を持つと言っているが、現時点で、30年後、50年後に水俣病と同じようなことが起きないと言えるはずがない。そしてその頃には関係者は誰もいない。首相は、無責任な発言だと思ってもいないのだろう。(元瓜連町長)

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