長男は中2に進級すると、昌人さんと、ゲームを楽しむように。一緒にプレイするうちに少しずつ笑顔が戻ってきた。やがて、一日中、画面に向かいながら様々な相手と対戦し始めた。不登校の小学生や高校生、時には社会人も混じる。顔は見えないけど、うれしそうに対戦相手のことを話す様子を見て、夫婦に安心感が広がっていった。
やがて、仲の良い同級生に誘われ、映画に行ったり、一人で買い物に出かけたり、外出の機会が増えてきた。いつしか勉強への意欲も芽生え、興味がある科学系の本を図書館で借り、動画で実験を学び、少しずつ独学で勉強を始めた。
中3になると、別のフリースクールに週2回、休まず通い、秋から受験勉強に没頭した。試験に慣れるため、同級生と時間をずらして別室で定期テストを受験した。最初は疲労して途中で断念して帰宅していたが、次第に慣れが出て、最終的には全科目を受験できるようになった。
今春、全日制の志望校に合格。同じ中学に通う長女(13)の頼みに根負けして卒業式にも少しだけ出席。高校進学後は休まずに登校し、学校生活の様子を生き生きと語る。夫婦は長男の成長ぶりに目を見はっている。
夫婦で手を携え、長男を見守った日々。でも、ずっと気持ちが通じ合っていたわけではない。「学校へ行くように促したら?」。最初の頃、夫の一言に規乃さんはいらだった。長男の気持ちを受け止めていないように見えて、「もっとあなたが変わって」となじったこともある。
共に不登校を受け入れることでは一致していたが、昌人さんは規則正しい生活にこだわった。就寝前のスマートフォンは眠れなくなるからと禁止。夜、こっそり持ち出すと、注意した。規乃さんは「少し大目にみてもいいのでは?」と違和感を覚えたが、口は挟まなかった。
息子の不登校を通じて夫婦が学んだこと。それは、子どもを尊重しながら、夫婦が互いを認め合うことだ。でも、それは簡単ではない。
別の夫婦にもインタビューした。長男(18)はゲームにのめり込み、中2から不登校になった。いまは通信制高校に在籍する。
夫(51)は長男と積極的に会話をしない。
「勉強したら?」。家でゲームをしている姿をみると、小言を言いたくなる。だから、あまり話しかけないんだ。
妻(51)が控えめに口をはさんだ。「何に興味があるのかとか、普通に会話すればいいのに…」。
夫はつぶやいた。「自分でもわかってる。でも、家でダラダラする様子を見るとつい言ってしまうんだ」。何げない口調だが、悔恨がにじんでいた。
自身の経験を踏まえ、「学問の楽しさを知ってほしい」と勉強の大切さを説く夫が、妻の目には不登校の我が子を受け入れていないように映り、これまで何度か衝突してきた。
でも、最近は、期待を捨てきれない夫も、つらさを抱えているように見える。「親子であれ、夫婦であれ別の人間。だから、家族で考えが異なるのは仕方がない。無理にまとまらなくてもいいんじゃないかな」。 そう、自分に言い聞かせている。(鹿野幹男)
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終わり