筑波大学(つくば市天王台、永田恭介学長)の開学50周年イヤーが4日、金メダリストの講演で幕を開けた。記念事業シンポジウム「芸術×体育で未来を拓く」が同日、つくば国際会議場(同市竹園)で開催され、これを皮きりに10月1日の記念式典まで各種イベントが展開される。

シンポジウムで講演したのは、2004年アテネオリンピックのハンマー投げで金メダルの室伏広治さん(48)。日本記録保持者で日本選手権20連覇を遂げ、16年に引退、2年前からスポーツ庁長官に就任した。4日は「スポーツで未来を創る」のテーマで基調講演を行った。
室伏長官指揮下の同庁が昨年まとめた第3期スポーツ基本計画(2022-26年度)では、少子高齢化や地域間格差の広がりの中で、学校教育を中心にしたスポーツ振興からの脱却を意図した。性別や年齢、障害、経済事情などの違いによって、取り組みに差が生じない社会を実現し、機運を醸成するとしている。「健康増進の意味からも自治体や企業へ横展開していく地域の取り組みが重要になり、つくばでぜひ率先してほしい」とアピールした。
父親(重信さん)にはハンマー投げに進むこと、練習に励むことを一度も強制されたことがないと言い、それが充実した競技生活につながった。アスリートには幅広いスポーツ体験を積むこと、指導者には勝利至上主義からの転換を求めるなどした。
筑波大学は、国内初の官立高等教育機関として1872(明治5)年、創立された師範学校を礎としており、今年、創基151年となり開学50周年と合わせて記念事業を展開する。1872年は学制公布の年であることに触れた室伏さんは「当時、夏目漱石は日本の哲学は周囲にあるもの全て動かすべからず、心の修養を積んだ挙げ句の消極の極みに達する哲理と書いている。動的な西洋のスポーツ観とは違った見方があった」と紹介、未来を創るヒントがこの辺にありそうだと説いた。
講演を熱心に聴いていた体育学群4年、岸本洋汰さん(23)は英国プレミアリーグで今季大活躍の三苫薫さんの後輩にあたるサッカー部員。「競技生活を送る上での体づくりについて体験的に話してくれて、特に心の問題に触れてくれたことに感慨を覚えた。2年生のとき心理的問題を抱えた経験があるだけに聞き入ってしまった」と感激を語る。
筑波大には開学した73年に体育専門学群が、翌74年に芸術専門学群が設置され、教室のある学群棟は向かい合って配置されているが、「これまで積極的な交流はあまりなかった」と今回のシンポジウムを企画した水野裕史芸術系助教。「学際、国際化が言われる中で、いろんな組み合わせが試されるべきで、50周年記念のスタートにふさわしい内容になったと思う」という。
記念事業は4月から、つくばセンター周辺で「筑波芸術アート&デザイン・ストリート」の開催などが計画されている。(相澤冬樹)