研究学園都市つくばのシンボル的な施設といえば音楽公会堂「ノバホール」(つくば市吾妻)。つくば駅前を代表する商業施設といえば「トナリエクレオ」(元 西武百貨店筑波店)。両施設の間にあるオフィスビル(以前は衣料品チェーン、ライトオンの本社兼店舗)を都市開発(本社・つくば市梅園)が取得した。駅前一等地のビルを買い取った狙いは何なのか、塚田純夫社長に聞いた。
以前はライトオンの本社・店舗
ライトオン(現本社・東京都渋谷区)が入っていたビルは、同社が出たあとオフィスになり、現在4~7階には自動車部品大手、オートリブ(本社・スウェーデン)の研究センターが入っている。所有権はマンション開発大手、タカラレーベン(本社・東京都千代田区)に移っていたが、昨年12月、都市開発が取得し、ビルの名前は「T.S BUIL」になった。
塚田さんによると、T.Sは「Tsukuba Station(ツクバ・ステーション)」の頭文字。ところが、「Tsukada Sumio(ツカダ・スミオ)の略ではないかと言う人もいる」と笑う。同ビルは、つくば市のセンター地区を東西に貫く土浦学園線沿いにあり、つくば駅から徒歩3分。格子状の窓と外壁のデザインが印象的で、駅の周辺では気になる建物だ。
「放っておいたらマンションに」
「マンション開発会社が持っていたこともあり、放っておいたらマンションになってしまう。すぐそばの西武が入っていた建物の一部も、マンションになってしまったのだから。そういった話を人づてに聞き、つくば市の玄関口ともいえる一画を街らしい街にしなければと思い、私のところで買い取った」
T.S BUIL(1フロアー約1000平方メートル)の4階から上は、自動車安全装置で世界をリードするオートリブ(日本法人本社・横浜市港北区)がそのまま使う。3階の半区画には都市開発が入る予定で、「11月下旬に本社を駅前ビルに移す」。残り半分はオフィス用に貸すという。
元々、ビルは店舗として使われていたこともあり、1階の駐車場と道路側の立体駐車場を合わせると、約200台が駐車できる。最も使い勝手がよい2階の「店子」に、塚田さんはこだわっている。「将来、株式を上場するような研究系の会社、できれば県内の会社に入ってもらいたい。いま選んでいるが、入居は1年ぐらい先になると思う」
脱炭素、メタンガスの発電も計画
12年前に設立された都市開発は、賃貸や仲介を主な業務とする不動産会社ではなく、既存のマンションやビルの再生に力を注ぐ。つくば市やその周辺のほか、麻布十番(東京都)や宇都宮(栃木県)でもマンション再生を手掛けてきた。T.S BUILは、駅前の一等地に建つ、特徴ある構造のビルだけに、その再生に強い関心があるようだ。
塚田さんは36年前、水処理などを行う環境関連会社を起業。太陽光発電にも関心を持ち、行方市の北浦近くに大規模施設を建設した。隣接する区画には、日立製作所、NTTファシリティーズ、関彰商事など大手会社のパネルも並ぶ。こういった脱炭素事業の延長上に、メタンガスを使った発電も計画しているという。
【つかだ・すみお】1972年、県立谷田部高(現 つくば工科高)卒、東京消防庁に入庁。1986年、つくばに戻り、環境関連の有限会社「日昇」(現 株式会社「日昇つくば」)を設立。2010年、不動産関連の株式会社「都市開発」を設立。いずれも社長。1954年、谷田部町(現 つくば市)生まれ、つくば市在住。
【インタビュー後記】元々、つくば駅前の「B i V i」がある所にビルを持ちたかったそうだ。「駅と地下でつなぎ、人が24時間出入りする、にぎわいのある複合ビルを考えていた」。しかし、「土地を保有する市との交渉が不調に終わった」。ペデストリアンデッキを挟んで反対側に建つビルの取得は、そのリベンジ?(経済ジャーナリスト・坂本栄)