筑波大学(つくば市天王台、永田恭介学長)は大学債権(大学債)を19日に発行すると発表した。発行額は200億円で、愛称は「筑波大学社会的価値創造債」。国立大学法人としては東京大学、大阪大学に次ぐ3例目となる。
自由度高い資金調達
国立大学法人による大学債は発行条件が厳しかったが、2020年6月の国立大学法人施行令の改正によって緩和された。改正前は、償還(返済)の見込みが十分に立った上で、附属病院の整備やキャンパスの移転などの目的でしか発行できなかった。改正後は発行条件の規制緩和がなされ、教育研究事業のための積極的な債権の発行が可能になった。大学としては、自由度が高い資金調達を行うことができるようになったといえる。
大学債は国立大学法人の新たな資金調達先として、すでに東京大学が一番手として、20年10月に200億円、21年12月には100億円、合計で300億円の発行を行っている。東大は大学債によって、10年間で1000億円の資金調達を目指すとしている。続いて今年4月には大阪大学が300億円の大学債を発行した。
地球環境や社会の課題解決に
3例目となる筑波大学は、調達する資金の使途について「本学が社会とともに新たな社会的価値に根ざした未来社会を創造するために取り組むプロジェクトに充当する」としている。地球環境や社会的課題の解決に使途を限定するもので、こうした債権はサステナビリティボンドと呼ばれる。サステナビリティボンドとしては国内で大阪大学に続く2例目となる。
永田学長は「大学債の発行は資金調達という意味から重要。さらに重要なのは大学債は筑波大学と社会とのエンゲージメント(誓約)の構築の方法であるということだ」とする。
資金の具体的な用途として同大は、大規模研究施設「未来社会デザイン棟(仮称)」、複合スポーツ施設「スポーツ・コンプレックス・フォー・トゥモロー(SPORT COMPLEX FOR TOMORROW、仮称)」をあげている。「未来社会デザイン棟」についてはすでに基本設計業務が発注予定となっている。
償還は新たな投資の収益など
現在、同大の主な財源は運営費交付金、学生納付金、附属病院収入、寄付金等の外部資金がある。同大の21年度の事業報告書によれば、経常費用が約1023億円、経常収益が約1060億円と約44億円の黒字の状況だ。さらに同大の21年度の統合報告書によると、運営費交付金による収益は近年はほぼ横ばい、附属病院の収益および外部資金による収益は増加している状況だ。
大学債を償還するための財源としては、新たな投資対象事業の収益や業務上の余裕金等を充当するとしている。
「いきなりの決定」
一方、同大の大学債発行に対し、同大教職員などでつくる「筑波大学の学長選考を考える会」の吉原ゆかり教授(人文社会学系)は「大学債の発行をどこでどのように決めたのか、教職員にも学生にも明らかにしない、いきなりの決定だ。指定国立大学指定のプロセスと同様のパターンだと思う」と指摘している。(山口和紀)
◆同大の大学債の利率は年1.619%。償還年限は最大で40年。償還日は2062年3月17日。主幹事証券会社は事務主幹事として野村證券(東京都中央区日本橋)、共同主幹事が大和証券(東京都千代田区丸の内)、三菱UFJモルガン・スタンレー証券(東京都千代田区大手町)の2社。募集の受託会社は三井住友銀行(東京都千代田区丸の内)が務める。格付け投資情報センター(東京都千代田区神田錦)および日本格付研究所(東京都中央区銀座)による同大の格付けは、それぞれAA+、AAAとなっている。