月曜日, 5月 19, 2025
ホームコラム幻の「筑後氏」から脱し、正しい「小田氏」に 《ひょうたんの眼》49

幻の「筑後氏」から脱し、正しい「小田氏」に 《ひょうたんの眼》49

【コラム・高橋恵一】土浦市立博物館の特別展「八田知家と名門常陸小田氏」(3月19日~5月8日)では、小田氏の初代・八田知家(はった・ともいえ)が「八田氏」から「筑後(ちくご)氏」に名乗りを変え、「小田氏」を名乗るのは、4代目の時知(ときとも、1250年ごろ)からと説明されていました。

私は、八田氏の名乗り(今でいえば苗字)を「筑後」に変えたとする説明は誤りと思うから、訂正すべきだと、特別展前に博物館宛てに出した文書、それから本コラム47(4月20日掲載)で指摘しました。しかし、博物館の本サイトへの「お応え」寄稿(4月27日掲載)では誤りでないとの論拠が示されず、特別展のシンポジウム(5月1日)でも、参加者から質問があったのに、「筑後の件は置いておく」と、取り上げられませんでした。

博物館などが「八田知家」が「筑後」に名乗り(苗字)を変えたとする根拠は、歴史書「吾妻鏡(あずまかがみ)」の中の記述で、知家の子供たちが「筑後太郎」「筑後六郎」などと名乗ったとしていることです。

吾妻鏡の人名表記は、名(苗)字に太郎とか七郎などの生まれ順ないし家における順序が示され、さらに実名からなるのが基本とされ、八田右衛門尉(うえもんのじょう)知家、北条小四郎義時(ほうじょう・こしろうよしとき)、結城七郎朝光(ゆうき・しちろうともみつ)などとされています。さらに、本人が五位以上の(朝廷が任ずる)官職に就くと、官職名だけとなり、相模守(さがみのかみ=北条義時)、筑後守(八田知家)などと表記されています。

その子息たちは、親の官職名の後に、名字を省略して、自分の官職や通称と実名が表記されています。北条泰時(やすとき、義時の嫡男)は相模(さがみ)太郎、八田知重(ともしげ、知家の嫡男)は筑後左衛門尉(さえもんのじょう)知重結城朝廣(ゆうき・ともひろ、上野介朝光=こうずけのすけ・ともみつ=の嫡男)は上野七郎左衛門尉朝廣などと表記されています。

いずれも、吾妻鏡の編者が、多くの御家人の人名を記述するにあたって、家系や官位などを整理・判読できるように、ルールに従って記述したと考えられます。つまり、筑後左衛門尉知重、の「筑後」は「筑後守の子息の…」という意味であり、名字を表記しているわけではありません。「相模」太郎も「上野」七郎左衛門尉朝廣も同じ表記ルールです。

「筑後氏」の採用は各種の歴史にも影響

さらに、吾妻鏡の成立は、源氏3代の将軍記が1270年代前半、それ以降の将軍記は1300年ごろとされており、八田氏が名字を変えたとされる時期から70年後にならないと、「筑後知重」という表記は見ることができないのです。名乗りを変えたとする知家は、「筑後」を子息の名乗りの前に表記されることを、いつ認識できたのでしょうか?

今回の特別展やその際に出された図録では、発掘調査の結果、小田城あるいは居館が八田知家の時代に小田に存在したことを否定できない、と報告されました。知家が建立したとされる極楽寺も同様です。小田を名乗ったのは4代目時知からとされる根拠の宝治合戦(ほうじがっせん、1247年)での3代・泰知(やすとも)失脚説も、誤りの可能性が大きいとされました。

近年のつくば・土浦地方の市町村史や歴史展示では、「筑後氏」説の採用を受けて、小田城と八田・小田氏の登場を、従来の通説より70年ほど遅れた年として説明しています。これは鎌倉時代の約半分の年数になり、考古学や交通史、文化史、宗教史などにも影響を与えます。幻の「筑後氏」から脱し、出版物や展示などが訂正される必要があります。(地図と歴史が好きな土浦人)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

0 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

難民支える自治体ネットワークに加入 つくば市 全国19番目

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が進める国際キャンペーン「難民を支える自治体ネットワーク」に18日、つくば市が加入した。自治体が難民への連帯と貢献を表明することを通して難民支援の輪を広げていく取り組みで、国内では東京都、広島市、札幌市などに続いて19番目、北関東の自治体では初の加入となる。世界では59カ国309自治体目。 同日、つくば駅前のつくばセンター広場などで開かれた科学と国際交流のイベント「つくばフェスティバル2025」会場で同ネットワークの加入署名式が催され、五十嵐立青つくば市長と桒原(くわはら)妙子UNHCR駐日首席副代表代行が同ネットワークの賛同表明文に署名した。 五十嵐市長は「世界に難民は1億2000万人いる。日本の人口と同じ。(難民の)状況は厳しくなっている。ウクライナ、ガザ、世界各地で大変なことが起きていて、奪われてはいけない命が奪われている。つくばにも避難してこられたり移ってこられた方がいる。だからこそ我々自治体は、連帯し国際社会の一員として支えていく責務がある。我々に何ができるか、まずは知ること。その先に何ができるか、皆さんと共に歩みを進めたい」と話した。「分断が進んでいる社会で、自治体としてメッセージを出していこうという意思表示」だという。 桒原代表代行は「つくば市が北関東で初めて参加してくださることは本当に心強い。つくば市はSDGs(国連の持続可能な開発目標)など地球規模の課題に積極的に取り組んでいる全国でも先進的な自治体。つくば市ならではの柔軟で創造的な取り組みを通じて、難民支援の輪が地域から自分ごととして広がっていくことに期待したい」と述べた。 2023年10月、フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官が、ウクライナから避難してきた学生や留学生などと意見交換するため筑波大学やつくば市役所を訪れたことがきっかけになった(23年10月20日付)。つくば市がSDGsに積極的に取り組んでいたり、不平等や格差是正に取り組むOECDの先進的市長(チャンピオンメイヤー)に選ばれていることなどから、UNHCR駐日事務所が同市に自治体ネットワークへの加入を呼び掛けた。 加入にあたって同市は「いろいろな機会をとらえてまず知っていただくことが一歩」(五十嵐市長)だとして、17、18日の2日間つくば駅周辺で開かれたつくばフェスティバルで、UNHCRの難民支援の仕事などを紹介するブーズを出展した。市中央図書館では1日から30日まで、UNHCR駐日事務所の協力で平和、共生、多様性などに関する同館所蔵図書を紹介する「難民のものがたり展」を開催している。 つくば市では現在、147の国と地域出身の外国人1万4251人が暮らしている。そのうち難民や戦争などからの避難者が何人いるかは不明。 他の加入自治体の取り組みとしては、UNHCR駐日事務所と連携して、難民問題を知るための独自イベントの開催や学校などでの出張授業、難民支援のための寄付の呼び掛け、大学の奨学金制度の導入や企業の雇用支援、母国を離れ難民キャンプなどで生活している難民を第三国が受け入れる「第三国定住」などを通じた難民の受け入れなどが行われているという。(鈴木宏子)

落成式に石破首相 産総研に社会実装向け計算技術拠点 つくば

量子技術による新産業創出の中核 「量子」と「古典」のコンピューティング技術を相互に利用し、高度な融合計算技術の確立を目指す社会実装拠点が産業技術総合研究所(産総研)に出来上がった。つくば市梅園のつくば中央事業所内に設置された量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT=ジークアット)本部棟で、18日に石破茂首相、武藤容治経済産業相らと学界、産業界の関係者を集めて落成式が催された。 620億円かけ整備 産総研によるG-QuATの設立は2023年7月で、今年3月までに2つの研究棟が建設された。鉄筋コンクリート造地上4階建てのA棟5616平方メートルと同2階建てB棟2060平方メートルからなる本部棟と、地上2階建て2243平方メートルのQubed(キューベッド)棟の2つ。本部棟には、古典・量子ハイブリット計算環境としてGPUスパコンと超伝導量子コンピューター、量子デバイス評価として希釈冷凍機と量子ビット制御装置などを整備した。Qubed棟には中性原子量子コンピューター「QuEra」が設置された。 建物と関連設備の投資規模は620億円。これは国から産総研への運営費交付金1年分に匹敵する規模で、研究開発拠点を超えて社会実装に踏み出すという意思表明の投資となった。国も量子技術による新産業創出には熱心で、G-QuATの位置づけはその中核。現職の首相を迎えるのは産総研が発足した2001年以降で初めてという。 初の「商用」超伝導量子コンピューター 米国エヌビディア(NVIDIA)社のH100を2020基搭載したGPUスパコン「ABCI-Q」は最新のAI技術を用いながら「古典」型というのが面白く、富士通製の「量子」コンピューターと超高速インターフェースで結んで、古典・量子融合型計算環境を構築する。 量子コンピューター自体、「重ね合わせ」という100年前に成立した量子力学の考え方を基礎にしている。一般的な(古典)コンピューターが電流のオンとオフで0と1の状態をつくって計算するのに対し、量子コンピューターは0か1か確定していない「重ね合わせ」の状態をつくり出して計算する。並列処理によって膨大なパターンの情報をひとまとめにして計算できる。 富士通が持ち込んだ64量子ビットの超伝導量子コンピューターは、わが国では初めての「商用」タイプとなる。G-QuATは最先端設備を開放しての産業支援を掲げており、企業共同研究など特定の事業に利用制限されないのを特徴としている。産総研がサポートにつく形で、富士通など企業主体での事業化を促す。超伝導量子コンピューターは現在最も開発が進んでいるされるが、絶対温度零度(マイナス273℃)近くの極低温環境が求められており、実現のための希釈冷凍機など次世代機の開発も同時に進める。 用途としては材料、金融、創薬などの分野で実用的な量子アプリケーションを開拓中で、量子コンピューターを活用する場合システムがどのように使われるか利用者目線から記述するユースケースを開発したり、高品質な部素材の評価・標準化、量子ビットの大規模集積化などに取り組む。本部棟には国内外の企業や大学などの多様な利用者が集う結節点としてのインキュベーションスペースも整備している。 落成式で石破茂首相は「量子力学100年=メモ=という節目の年に、世界最高水準の計算環境ができたのは意義深い。高度な研究設備が備わっており中小企業の皆さんにも共同研究に取り組んでいただけるよう、国としても強力に支援していきたい。つくばには、地方から世界にはばたく、そして地方から日本を変える拠点となることを期待したい」とあいさつした。(相澤冬樹) ※メモ【量子力学100年】1920年代、ド・ブロイ、ハイゼンベルク、シュレーディンガー、ディラックなどが現在の量子力学の礎となる成果を続々と発表した。ボーアによって「コペンハーゲン解釈」が成立したのが1926年。ユネスコは2025年に、量子力学100年を記念する取り組みを行うことを決議した。

なんと、ホテルから花火を審査!《見上げてごらん!》40

【コラム・小泉裕司】毎年8月の最終土曜日に開催される大曲全国花火競技大会は、土浦全国花火競技大会とともに、国内最高峰の内閣総理大臣賞が授与される。会場となる秋田県大仙市大曲には内外から多くの観光客が訪れるが、市内のホテルや旅館は予約もままならず、全国から競技に参加する28花火業者、100人以上が滞在できる施設の確保は困難となっていた。 大曲に花火師専用の宿泊施設 この課題解決に向け、大曲商工会議所が建設したのが、花火師専用の宿泊施設「お宿Onn大曲の花火」。総工費は20億円余り。6階建てで客室は50室。最大156人が宿泊でき、8月の大会本番前後は花火師だけが宿泊できるとのこと。 この期間を除いては一般客も宿泊可能としており、筆者は4月24日オープンの翌日に宿泊した。きれいな部屋と気持ちよいおもてなし、郷土色豊かな朝食メニュー、宿泊料もオープン記念価格でかなりの割安感。ちなみに翌26日の「大曲春の章 新作花火コレクション2025」の予約は早期に完売となり、キャンセルも出ない状況。宿泊料も大会価格で多少高めの設定だったよう。 花火大会史上、画期的な事業 ホテルに隣接する鉄骨3階建ての管理棟(写真中央)は、夏の大会時に審査や大会本部が設けられるという。 これまでの大曲や土浦など競技大会の審査員席は、観客席後方に設置し、雨天時には頭上の単管パイプにシート掛けで対応するのが通例。筆者は、審査員係を担当した過去に、急な雨で集計用の高額なパソコンが故障した経験を持つ。 管理棟のこけら落としとなった26日、この建物で「春の章」の審査が行われ、打ち上げ終了後、最上階6階のレストラン(写真左上)に移動して審査会が行われたとのこと。 この日は、時折降る冷たい雨で、手元の濡れたパンフレットは凍えた指でめくれず、震えながらの花火鑑賞となった。早速、屋根付き審査員席の効果はてきめん。帰りを急ぐ観客の中を審査員席から遠く離れたホテルの審査会に急ぐストレスも解消したことだろう。 数あまたある国内の花火競技大会で、既設の建物から審査を行っている例を私は知らない。 ホテルとしての魅力づくり 部屋や最上階のレストランの窓には、雄物川河川敷や姫神火山群の主峰大平山など自然豊かな眺望が広がる。一方、日が落ちた後、雄物川の水面に映える光源が皆無で夜景の楽しみは少なめ。ホテルスタッフは「午後早めの到着」を推奨する。 ホテルからの徒歩圏内にスーパーやコンビニは皆無。アルコール類を含めたホテル内の飲食提供はメニュー少なめの自販機頼り。大浴場の計画も進められているようだが、ホテルとしての魅力づくりは道半ばのようだ。 ちなみに、筆者が宿泊した日はアルコール類の仕入れが間に合わなかったとのこと。久しぶりの休肝日で熟睡した。宿泊する方は、チェックイン前に、持ち込みの準備を忘れずにしたいものだ。 茨城の花火師が部門優勝 新作花火コレクション芯入り割物の部に出品した山﨑煙火製造所(つくば市)の石井花火師の作品「昇曲付 五重芯銀点滅」(YouTube動画)が、見事優勝に輝いた。昨年の準優勝の悔しさを晴らすかのごとく、見事な6つの真円と消え際の銀点滅は余韻を残しながらも一斉に消える完璧に近い完成度。他の作品を寄せ付けない「ぶっちぎり」の優勝は、我がことのようにうれしい。 夏の大曲、そして秋の土浦でのさらなる躍進に期待しながら、本日は、これにて打ち留めー。「ずどーーん キラキラキラ」。(花火鑑賞士、元土浦市副市長) ※参考資料:大曲商工会議所News「おおまがり」321号(2024/7発行)

名称が決定 筑波大野球・ソフトボール室内練習場

9月1日開所予定 筑波大学(つくば市天王台、永田恭介学長)と関彰商事(本社筑西市・つくば市、関正樹社長)が同大学内に整備を進めている野球・ソフトボール室内練習場について(24年10月18日付)、名称が「Invictus athlete Performance Center」(インヴィクタス・アスリート・パフォーマンス・センター)に決定した。 インヴィクタスはラテン語で無敵や逆境への抵抗を意味し、自らの力で運命を切り開くという意味が込められているという。 同施設はコーチング、バイオメカニクス、スポーツアナリティクスを融合したトレーニング・研究拠点で、今年9月1日開所予定。 平日昼間は大学の授業や部活動で使用され、夜間や週末は関彰商事が一般向けにスクールや動作分析プログラムを提供しタイムシェア方式で運用する。関彰商事が整備し、開所後は筑波大学に所有権が移転される。 名称について同大と同社は「スポーツを通じて自分自身の未来を切り拓く力を育んでほしいという思いから決定した」とし、「今後も教育、研究、地域連携を柱とした取り組みを推進し、スポーツを通じた社会貢献を継続したい」としている。