ひたち野リフレ
常磐線ひたち野うしく駅前という立地から、「つくば建築散歩」とは言えないけれど、この建物をピックアップした意味については次回(最終回)にまとめる。設計は妹島和世建築設計事務所によるもの。妹島氏は伊東豊雄建築設計事務所から独立した建築家で、日立市の出身。
空と雲のパッチワーク映す
【鵜沢隆 筑波大名誉教授コメント】「この作品は、JRの新駅前に実現した中規模オフィスビルである。オフィスビルという空間的な凡庸さはそのままに、妹島和世は、駅側ファサード(正面)のデザインに設計のフォーカスを絞った。そのファサードはダブルスキン(2枚のガラス面構造)で、外側を横長のガラス・ルーバー(ガラス板を平行に複数並べたもの)が覆っている。
このガラス・ルーバーは日照をコントロールする意図よりも、それぞれのルーバーの取り付け角度が垂直方向に微妙に調整されることで、建築の表面に周囲の風景のリフレクション(反射)がパッチワークのように再構成される仕掛けである。
ただし竣工当初は、この建築の周囲にはほとんど建築は見当たらず、妹島の作品は、建築の表層に空のコラージュを映し出すだけであった。
竣工から10年以上が経過したが、この建築の周囲の環境はほとんど変わらず、空間密度は低いままである。したがって妹島のこの作品の表層に映るのは、未だに空のパッチワークである。
空を流れ行く雲が建築の表面に視覚化されることで、建築の存在感は、確かに希薄化されている。しかし、建築がダブルスキンという「仮面」をまとうことで、建築の都市的コンテクストの曖昧化がもたらされていることも指摘しておきたい」
女性建築家を起用
【建築散歩】1998年に完成したひたち野リフレは、新駅をコアに開発されたひたち野うしくの街びらきに合わせ、ランドマークとして計画された。都市開発者である住都公団(UR都市再生機構)では、「この建築については女性の建築家を起用したい」という初期方針を立て、当時まだ新進の域であった妹島氏に白羽の矢が当たった。
新しい街づくりの顔には、新しいコンセプトで建築にアプローチする設計者を求めたことが理由の一つだが、今だから書ける逸話として「女性建築家採用って格好いいだろう?」と、着工のときに公団幹部に耳打ちされた。軽快さや透明性を求め、建物の内側と外側の既成概念を無くしていくことが、妹島氏の建築に対するひとつのアプローチ。ひたち野リフレでは、壁面への街の映り込みにそのコンセプトが見出される。(鴨志田隆之)
続く
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