つくばカピオ
つくばカピオは、国際会議場よりも一足早い1996年に完成し、竹園公園エリアにおける公共建築物の意匠や高さなどの規範になった施設だが、小ぶりながらアリーナと演劇場を併せ持ち、「寄席も呼べる」と関係者間で話題になった。稼働率の高さやロケ地などでの露出も多い建物のひとつだ。設計は谷口建築設計研究所による。
緻密な空間の職人芸
【鵜沢隆 筑波大名誉教授コメント】「この巨大なボリュームの建築の魅力は、その規模ではなく、空間配置の合理性と明快さにある。そして、この大きな建築の隅々に至るまで、設計者のデザイン的感性が張り巡らされている。寡黙でありながらも、張り詰めた緊張感がこの建築にはみなぎっている。

谷口吉生のこの作品は、屋内スポーツのためのアリーナと劇場としてのホールという2つの機能を併置させたコンプレックス(複合)建築である。全く異なる機能をひとつの空間にまとめあげているのが、公園に面した北側正面の大きなキャノピー(大庇=おおひさし=)である。
8本の細長い鉄骨柱で支えられたキャノピーの東側6スパン(柱間)がアリーナ部分、西側3スパンがホール部分に対応する。南北の奥行きは全く同じであるため、建築はひとつの巨大なキューブとしてまとまられている。
アリーナとホールの境界には、ふたつの機能を管理するための廊下が南北に貫通する。このバックヤードの廊下は来館者たちの動線とは切り離されているため、ほとんど気づかれないが、その廊下の延長線上に、2階レベルで掛け渡されたブリッジがキャノピーの下から北側に伸び出して、ひとつの建築ボリュームに内在するふたつの機能の分割軸の存在を明確に視覚化している。
全く異なるふたつの機能空間をひとつの建築的ボリュームにまとめ上げることは容易ではない。そうした困難を微塵も見せず、むしろ空間の各所を破綻なくまとめあげている技こそが、谷口吉生の作品の真骨頂である。外壁パネルの割り付けから、様々な目地に至るまで、見事に一体的にコントロールされている。谷口のデザイン技法はそれらを声高に主張するのではなく、あくまでも寡黙なままにまとめ上げる、まさに緻密な空間の職人芸である」

「将来、スキルにつながっていったらいい」
【建築散歩】この施設は、当時の住都公団(現UR都市再生機構)が計画し工事発注を行った。
当時、公団筑波開発局内には「建築課」が一定期間設置されていた。メーンの仕事がカピオだったが、そもそも筑波開発局は学園都市やテクノパークといった都市開発、区画整理部隊で、建築課を置くのは少し異例の出来事だった。
ここに在籍していた若手の建築課長の仕事ぶりが印象的だった。建設工事が開始された後も、執務デスクにかじりついて何かをまとめる作業に没頭していた。何を書いているのかたずねると「建物が出来上がった後の運用マニュアル」という答えが返ってきた。
「こういった公共施設をハードだけ作って監理者や地元に投げてしまうのは不親切だと思うのです。こう使えば建物のどこが役立つ、イベントの規模から施設のどれだけの部屋や設備を効率よく使うか判断できる、そういったソフトウエアも提供していかなければ」
建築課長は「それが将来、つくば市のスキルにつながっていったらいいな」と話してくれた。(鴨志田隆之)
続く
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