南3駐車場
筑波研究学園都市中心部にいくつかある立体駐車場が「名建築」の域に収まるのかどうか、議論を呼びそうな気もするが、ともすれば無味乾燥なだけの立体駐車場が巨大な構造体を都心部に横たえるとどうなるのかという、都市景観の面から浮かぶ懸念を払しょくしようとした試みがある。もちろんその取り組みが成功したか否かは、見る人の主観で変わってしまうが、今回紹介する1994年完成の南3駐車場(つくば市竹園)は、ひと味違うと感じられる。
建築が都市と対峙
【鵜沢隆 筑波大名誉教授コメント】「伊東豊雄建築設計事務所が設計したこの駐車場は、すぐ近くに存在する坂倉建築研究所の南1立体駐車場(つくば市吾妻、クレオ隣)の空間構成と無縁ではない。否、それとは好対照の空間構成を意図して設計されたと言っても過言ではない。つまりこの駐車場は、南1立体駐車場とは対照的に、立体駐車場に不可欠な車の上下移動のランプ(斜路)を積極的に外に露出させることで、この建築の機能的な存在を都市の中にストレートに表出させた。
坂倉建築研究所の駐車場が、立体駐車場に不可欠な斜路の空間を建築の内側に包み込むことで、都市の建築の空間構成との連続性を求めたのに対して、伊東豊雄建築設計事務所の駐車場は、立体駐車場という建築の機能的特殊性を建築のファサード(正面)に据え、都市の建築との不連続性を際立たせることで、作品の存在を訴えかけた。車のための斜路を空中高く持ち上げて峻立する鉄骨の柱列が、この建築のさっそうとした印象を際立たせ、建築が都市と対峙する。
裏側のペデストリアンに面したファサードが、バーコードを思わせるようなルーバー配列になっていることも、もうひとつの外観を作り出している。坂倉建築研究所と伊東豊雄建築設計事務所の立体駐車場の建築を改めて対比的に見直せば、それぞれの建築作品の空間特性が際立って明らかになるはずである」
都市とのかかわりまでも織り込む
【建築散歩】紹介したいことはすべて鵜沢隆筑波大名誉教授に書き込まれてしまった。要は、機能一点張りでもかまわない都市インフラと言い切ってしまえる立体駐車場に、機能は当然のことデザインや都市とのかかわりまでも織り込むという、非常にぜいたくな計画をベースにつくられた建築物なのである。そのことは、日常の利用では気にも留めない、留める必要もないものかもしれないが、「立駐ひとつとっても、つくばのそれはよそとは違うんだよ」と自慢できるのだ。
伊東豊雄さんは今、水戸市において完成しつつある新市民会館の設計を手がけている。伊東さんの代表作には仙台市の複合公共施設・せんだいメディアテークがあるが、水戸市民会館同様、都市と建築のつながりを表現しており、鵜沢名誉教授の都市と建築の不連続性という見方とは裏腹に、南3立体駐車場もまた都市とのかかわりを浮かび上がらせる側面もあると思える。(鴨志田隆之)
続く
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