土曜日, 7月 2, 2022
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ぬか床に山椒 《続・平熱日記》87

【コラム・斉藤裕之】天気のいい日は八郷(やさと)に出向いて薪(まき)を作る。昼は強い日差しを避け、細い林道に止めた軽トラの中でコンビニのおにぎりを食べる。ふと外を見ると山椒(さんしょう)の実がなっているのを見つけた。そういえば、去年もここの山椒を取って帰ったことを思い出した。

山椒の実はぬか床に入れる。季節柄か、先日もSNS上で「ぬか漬けを始めた」「実家から150年物のぬかを分けてもらった」という投稿を見かけた。無精者としては、ご多分に漏れず何度もぬか床をダメにしている。

最近の失敗から学んだことは「オフシーズンに気をつけろ!」。夏場に悪くなりそうなぬか床だが、最近は冷蔵庫に保管することで管理がしやすい。それに、夏は頻繁に野菜を漬け込むから、ぬか床は元気。ところが、冬に向かってしばらくして油断していると、ダメになっていることが多い。

サステイナブルという言葉を初めて聞いたのは、確か建築関係の用語としてだった。世にはやる随分前だが…。ちなみに、大工の弟は建てる時よりも壊す時のことを考えて人力解体のできる、そして、できる限り土に還る材料や工法で家を建てることを信条とする「持続可能的大工」である。

サステインという言葉にも持続という字にも「手」という意味が入っている。要はヒトの手で持ち続けることができるもの、支えていけること。そして自然の中で循環できること。例えば土に還るということは「腐る」ということだ。手のかからない、腐らないものは一見便利そうだが、それが厄介なのだ。

「ワット・ア・ワンダフルワールド」

そこへいくと、ぬか床はなんとステイナブルなことか。野菜を放り込むだけで微生物が調理をしてくれる。「腐敗」は人間に都合のいい場合は「発酵」と呼ぶらしいが、日本の発酵文化は実にサステイナブルである。例えばプラスチックの鉢で朝顔を育てるのもいいが、小学校でぜひともぬか床を作って、夏休み前に持ち帰らせてほしいぐらいだ。

「伝統とは…した者だけが醸し出す気品であり…」。高校の柔道場の壁に貼ってあった一文。「…」のところははっきりと思い出せないが、「醸し出す」という言葉がカッコイイと思っていた。ぬか漬けの場合、「…」は「毎日かき回した」が適切か。

さてさて、早速、山椒の実をぬか床に混ぜ込んだが、旨味を醸し出すのにはしばらくかかりそうだ。ちなみに、ぬか床をかき混ぜる時は、サッチモ風に「ワット・ア・ワンダフルワールド」を口ずさむ。

人の記憶とは面白いもので、結婚した時すでにカミさんがぬか床を作っていたことを覚えていて、お会いするたびにその逸話を今もってご披露してくれる方がいる。今やそのカミさんも、名実ともに「糟糠(そうこう)の妻」という歳になった。そのカミさんが、今日は青い実を大量に抱えて帰って来た。次女も好きな梅ジュースを仕込むそうだ。梅雨入りが近い。(画家)

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