木曜日, 9月 18, 2025
ホーム土浦《霞月楼コレクション》11 リンドバーグ夫妻 土浦で名残りの一夜「人生最良の日々」

《霞月楼コレクション》11 リンドバーグ夫妻 土浦で名残りの一夜「人生最良の日々」

【池田充雄】1931(昭和6)年9月12日、リンドバーグ夫妻は、霞ケ浦を発つ前の最後の1日を土浦で過ごした。錦秋の筑波山をケーブルカーで登り、夜の土浦の街でそぞろ歩きも楽しんだ。午後6時30分に霞月楼に戻って入浴後、霞ケ浦海軍航空隊の松永寿雄副長主催による歓送会が松の間で開かれた。

霞月楼での歓送会の様子。中央にチャールズと松永副長、その右にアン。外国客向けに特注した高脚の膳が並ぶ

宴を待つ間、満寿子女将が夫妻に茶を立てており、当時10歳の恒二(後の霞月楼3代目)が迎えに行くと、アン夫人が歩み寄り、頬に優しくキスをしてくれたそうだ。芸者の白粉とは違う、初めて嗅ぐ香水は少年にとって忘れられない思い出になり、集まった記者団に感想を聞かれ「とてもいい匂いがした」と答えたという。

1カ月の長旅の末に霞ケ浦へ

霞月楼で歓送会を前にくつろぐ夫妻

チャールズ・オーガスタス・リンドバーグは1902(明治35)年米国ミシガン州デトロイト生まれ。曲芸飛行士や郵便飛行士などを経て、1927(昭和2)年に愛機スピリット・オブ・セントルイス号でニューヨーク・パリ間を飛び、世界初の大西洋単独無着陸横断飛行に成功した。1929(昭和4)年に駐メキシコ米国大使ドワイト・モローの息女アンと結婚。1931(昭和6)年に北太平洋航路の調査飛行に乗り出し、アン夫人も無線通信士として同行した。

夫妻は7月27日にロッキード社のシリウス高速連絡機でニューヨークを出発。ワシントンDCを経由し、カナダのハドソン湾やノースウエスト地方を抜け、アラスカからベーリング海を横断。カムチャッカ半島を海岸線沿いに南下し、千島列島を伝って8月24日に北海道へ到達した。根室に2日間滞在後、26日午前8時21分に離水し、午後2時6分に霞ケ浦上空へ飛来。航程1万2000キロ、80時間33分の飛行で17地点をたどる長旅だった。

空の大使として多忙極める

シリウス機は午後2時10分霞ケ浦に無事着水。フォーブス駐日米国大使、安保清種海軍大臣、杉山元陸軍次官、小泉又次郎逓信大臣ら日米の政府高官や海軍関係者など約1000人が出迎え、国内外からの取材陣は200人を超えた。

霞ケ浦海軍航空隊水上班の中央滑走台に到着したシリウス機

霞ケ浦海軍航空隊第一士官宿舎食堂で歓迎会の後、来賓と共に自動車約30台を連ねて土浦駅へ向かい、午後4時40分発の常磐線汽車に乗車。6時28分に上野駅を降り、リンカーンのオープンカーで沿道の大観衆の喝采に応えながら、7時15分に築地明石町の聖路加病院トイスラー院長邸へ到着。ここが夫妻の東京での拠点になった。

27日から31日まで多数の歓迎式典や表敬訪問をこなし、9月1日から4日までフォーブス大使の軽井沢別荘で休養。5日は日光を周遊し金谷ホテルで1泊、6日に東京へ戻った。7日以降も各種行事の合間を縫って、チャールズは逓信省航空局で飛行計画の打ち合わせや、霞ケ浦で愛機の点検と試運転など出航準備を進め、アン夫人は博物館の見学や茶道・華道の体験などをして過ごした。

最新技術が搭載された名機

ロッキード・シリウスの開発にはリンドバーグ自身も加わり、彼の要望が細部まで反映された。全長8.38メートル、翼幅13.7メートルの木製モノコック構造で、当時としては珍しい低翼単葉機。P&W社の425馬力空冷9気筒エンジンを搭載し、最大時速282キロ、航続距離1700キロという高性能を誇った。日本の海軍関係者は「わが国は10年以上の遅れがある」とショックを受けたという。

空を行くシリウス機。褐色の翼に紫色の胴体、ジェラルミン製の白いフロートという姿だった

シリウスの整備は水上班第16格納庫で行われ、エンジンや機体の秘密を探る絶好の機会になった。霞ケ浦航空隊の整備員と、同隊内に分社があった中島飛行機の技師らも参加して修理に着手。破損個所の修繕や塗り替えによって見違えるようになり、リンドバーグは日本の整備技術の優秀さに舌を巻いたそうだ。

欧米では1930年代半ばに技術革新が進み、ドイツのメッサーシュミットや英国のスピットファイアなど新鋭機が次々に登場。一方、日本ではその頃もまだ複葉機が全盛で、総金属製の低翼単葉機というと海軍では1936(昭和11)年の九六式艦上戦闘機、陸軍では1937(昭和12)年の九七式戦闘機が最初。その後は陸軍の「隼」や海軍の「零戦」が世界を驚かせることになる。

アン夫人が見た日本の宴席

再び9月12日に話を戻す。霞月楼での歓送会の詳細は不明だが、根室で初めて受けた日本式接待の様子をアン夫人が手記に残しており、土浦でも同様の印象だったかと思われる。

「畳の敷いてある大きな部屋にロの字型に座布団が置かれ、チャールズは光栄な場所にあたる床の間の前に座りました。一人一人に小さなお膳が運ばれ、そこにはいろいろな大きさと形のお皿が載せられ、20枚以上の違ったお皿があったと思いますが、どれも私が見たことのないものでした。その後、華やかに装った芸者たちがお酌をして踊りを舞い、臨席の人たちを楽しませました。不思議なポーズをとる舞踏で、顔は人形のようで表情がなく、足でステップを踏むというよりは、どちらかというと手と長い着物の裾で踊るのです。ゆっくりとした短調の歌に調子を合わせた、とても美しいもので、両手の指は絶対に開きませんので、単純な仕草でも気が散ることはありません。鳥が飛ぶ時のように、敏捷で真っ直ぐな動きです」(アン・モロー・リンドバーグ著「輝く時、失意の時」より抜粋・構成)

夫妻は霞月楼で1泊し、9月13日午後0時21分霞ケ浦を離水、大阪市の木津川飛行場に着水後京都に入り、14日から16日まで京都・奈良を堪能。17日に大阪から福岡市の名島水上飛行場へ移動し、19日朝に福岡から中国南京へ向けて飛び立った。

佳日の思い出はそのままに

霞ケ浦にて愛機を背に記念写真

1970(昭和45)年の大阪万博ではシリウスがアメリカ館に展示され、来日していたリンドバーグが当時10歳の浩宮徳仁親王(今上天皇)を操縦席へ案内した。シリウスは現在、ワシントンDCのスミソニアン国立航空宇宙博物館に、スピリット・オブ・セントルイス号などと一緒に展示されている。

晩年の夫妻はハワイのマウイ島に住み、チャールズは1974(昭和49)年に72歳で死去。アンは2001(平成13)年にバーモント州パサンプシックで94歳の天寿を全うした。

霞月楼では1989(平成元)年の創業100年祭に際し、アンを式典に招待するべくマウイ島に訪ねた。彼女は「当時のことはよく覚えている。私の最も幸せな時期だった。だが式典には行かない。思い出はあのときのまま、自分の心の中に置いておきたい」と話したという。

●取材協力・参考資料
陸上自衛隊武器学校▽陸上自衛隊霞ケ浦駐屯地▽土浦市立博物館▽ジョイス・ミルトン「リンドバーグ」(中村妙子訳、1994年、筑摩書房)▽アン・モロー・リンドバーグ「輝く時、失意の時」(中川経子訳、1997年、三好企画)▽アン・モロー・リンドバーグ「翼よ、北に」(中村妙子訳、2002年、みすず書房)▽「霞月楼百年」(1988年、霞月楼)▽東京朝日新聞、讀賣新聞、いはらき各1931年8月26日~9月19日付▽夕刊フジ1974年8月30日付▽ウィキペディア

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洞峰公園などが「自然共生サイト」に NPOとつくば市が共同申請

市内7カ所目 民間の取り組みなどによって生物多様性の保全が図られている区域や活動を認定する環境省の「自然共生サイト」に、つくば市の洞峰公園とその近接公園が16日認定された。同日つくば市が発表した。認定区域は洞峰公園(同市二の宮、17.4ヘクタール)と、近接する二の宮公園(同市二の宮、2.7ヘクタール)、まつぼっくり公園(同市千現、0.6ヘクタール)の3公園で、面積は計20.7ヘクタール。 市環境保全課によると、洞峰公園などで動植物調査や希少種の保護などを実施しているNPOつくばいきものSDGs(木下潔代表)から昨年秋ごろ、つくば市に提案があり、今年4月、同NPOとつくば市が共同で申請した。 市内では奥村組技術研究所内のビオトープ(同市大砂)も同日、自然共生サイトに認定された。市内の自然共生サイトは計7カ所となり、認定数としては全国の市町村で4番目に多くなった。認定サイトのほとんどは国際データベースのOECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する区域)にも登録される予定。 認定制度は2023年度から始まり、25年4月に認定の仕組みを法制化した地域生物多様性増進法が施行された。法律に基づく認定は今回が初めて。同法に基づいて民間が作成・実施する増進活動実施計画と、市町村が取りまとめ役となって地域の多様な主体と連携して行う連携増進活動実施計画が認定され、二つの計画の活動実施区域が自然共生サイトとなる。 ゾーニングし緑地管理 市によると、洞峰公園とその近隣公園サイトの活動計画は、800メートルの距離を置く3つの公園の状況について①隣接する複数の研究所の樹林地、草地と共に100ヘクタールを超える緑地を形成し、絶滅危惧種を含むつくばの里地里山、沼・湿地に特徴的な動植物が生息生育している②通勤、通学など日常生活の傍ら、多様な生き物の活動に触れることができる—などが特徴だとしている。 活動計画の目標については①日常生活の中で生物多様性を実感できる市街地ならではの環境を次世代につなぐことを目指す②自然観察会などの環境教育活動を通じて身近な公園の生物多様性の価値に対する認知を高め、市民参加による調査モニタリング活動や保全活動を推進する―の二つを掲げている。 主な活動内容は、植生の特性に応じて園内をゾーニングし緑地管理するというもので①希少動植物生息生育エリアでは保全対象動植物に適した手刈りの草刈り、落ち葉かき、播種、樹木剪定を行い、対象植物の生態系を侵害する動植物は防除する②通常管理エリアは機械刈りや樹木剪定など一般的な公園緑地の管理手法を行う➂希少種エリアと通常管理エリアの間の緩衝的役割を担う緩衝ゾーンは主として背丈が高めの高刈りにより草地管理を行う—としている。 モニタリング計画として①植物、鳥類、昆虫、菌類を対象に年1~2回、有識者の指導の下、市民参加型調査・モニタリングを行う②希少植物種については開花期に生育状況を同NPOが中心となって調査する—とし、実施体制として①市と同NPOは専門家の意見を交えて保全計画を立案し実行する②つくば市は対象サイトの運営管理を統括し、希少動植物の生息生育エリア以外の緑地管理、沼管理を行う➂同NPOは希少動植物の生息生育エリアを管理し、調査・モニタリング活動、環境教育、市民参加型生物多様性保全活動を計画・実施する—となっている。計画期間は今年9月から2030年8月までの5年間。 一方、洞峰公園をめぐっては、2024年2月に県から市に無償譲渡された経緯などを受けて、今年4月、同公園の管理・運営方法などを市に提言する「洞峰公園管理・運営協議会」(委員長・藤田直子筑波大芸術系環境デザイン領域教授)が4月にスタートしたばかり。一般市民が参加してこれからの維持管理について話し合う分科会は1回目が7月に2日間開かれたのみで、本格的な議論はこれからになる。 洞峰公園を管理する市公園・施設課は、今回認定された活動計画は、県が管理していた時を含め、すでに取り組まれてきた活動を継続するものだなどとしている。(鈴木宏子)