土曜日, 2月 7, 2026
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《吾妻カガミ》91 つくば市長の退職金辞退に違和感

【コラム・坂本栄】つくば市長2期目を目指す五十嵐さんが1期目の退職金2040万円を辞退、それを可能にする条例が9月18日に市議会で可決されました。法的な障害をクリアするために22円だけもらうそうですが、今回はこの退職金問題を取り上げます。というのは、美談風に報じられているこの件、「何か変だな」と思っているからです。

経緯や背景については、本サイトの記事「廃止を公約の退職金22円に つくば市長」(6月5日掲載)をご覧ください。ポイントは①市長は4年前の市長選で退職金廃止を公約②6月5日の記者会見で公約を果たすと言明③ただ制度上0円は難しいので最少額の22円を受け取ることにし、関連条例案を提出すると表明―です。

整理すると、前回市長選の公約「市長特権の退職金の廃止」を、今回市長選(10月25日)の4カ月半前に確認、そして市長選の1カ月ちょっと前に必要な手続きを終わらせ、公約の順守を市民に示した―といった流れになります。公約は選挙の肝(きも)ですから、五十嵐さんにとって、6~9月のこのプロセスは必要不可欠だったのでしょう。

仕事をうまくこなす自信がなかった?

しかし私は、退職金廃止という公約そのものに違和感を持っています。退職金はハードな仕事をこなす市長の報酬の一部ですから、大きな失政をしないことが前提にはなりますが、堂々と受け取るべきと考えているからです。それなのに、選挙で退職金廃止を公約したのは、市長の仕事をうまくこなす自信がなかったからでしょうか?

私は33年間、経済記者として企業経営を見てきました。さらに10年間、メディアの経営に携わっていたこともあり、「仕事の達成度とトップの報酬はリンクさせた方がよい」と考えています。そうしないと、トップのやる気が落ち、仕事の結果に対する言い訳を許すからです。企業の支出に占めるトップ報酬はわずかですから、ケチるよりはきちんと報いた方が全体としてプラスになります。

こういった観点からすると、報酬規定で約束された退職金の辞退を公約するのは何か変です。トップの職を引き受ける以上、むしろ、成果を約束して増額を求める方が自然ではないでしょうか。これとは真逆の廃止を公約したことが、不思議でなりません。

辞退の公約と順守は選挙にプラス?

想像するに、五十嵐さんは選挙での「受け」を意識して、2016年の市長選で市長退職金廃止を公約、20年の市長選を前に廃止公約を実行に移したのでしょう。廃止公約が市長選ではプラスに働き、公約を守らないとマイナスに作用すると判断したのだと思います。そう考えれば、私の「何か変」「不思議」は解けます。

つまり、多くの市民は<おカネに拘(こだわ)らない市長は好ましい人物>と思うだろう―五十嵐さんはこう読んだというのが私の見立てです。私の観点からすると、これはおかしな考え方です。(広島県の国会議員夫婦のように)おカネをばらまく行為も、(五十嵐さんのように)おカネを遠慮して市民受けを狙う行為も、政策を競う選挙本来の姿に反するからです。

1期目の「実績」を自賛する五十嵐さんは、退職金廃止公約を反故(ほご)にし、むしろ増額条例案を出したいと、胸を張るべきでした。(経済ジャーナリスト)

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ふるさとのない時代《くずかごの唄》154

【コラム・奥井登美子】お正月には誰も故郷に帰りたくなる。私が育ったのは荻窪のみどり幼稚園。緑の名の通り、生垣に囲まれた家と野原の、のんびりした緑色の住宅街だった。 しかし今の東京の町はどこも高いビルばかりで、緑がない。故郷という言葉とはかけ離れた風景になってしまっている。私の故郷と呼べるような所は、もうどこにもなくなってしまったのだ。 幼い時、父の故郷、新富町へもよく連れて行ってもらった。父は歌舞伎座が新富座であった頃の、鉄砲洲小学校出身。「菅原伝授手習鑑」などに寺子屋の子役として駆り出されて、よく出演させられたそうだ。台詞(せりふ)も筋もよく覚えていて、よく私に語って聞かせてくれた。 隅田川のほとりに町があって、父は「〇〇ちゃんの店でノリを買おう」などと、昔の友達の家に寄っておしゃべりするのを楽しみにしていた。父の故郷はいま、日本ではない、高いビルばかりのどこか架空の空間になってしまっている。 タケちゃんの文が朝日に載った 1月27日の朝日新聞「折々のことば 鷲田清一」に、加藤尚武の文が載っていた。「個人の間の平等は、ある程度まで…自然の平等に支えられているが…国力の差は、ネズミとゾウの違いよりも大きい」 加藤尚武は私の弟のタケちゃん。京都大学の哲学教授を務めた後、鳥取に環境大学を創り、環境問題を、哲学のまな板の上に載せた人。「環境問題のすすめ」という著書もある。生活者として、医療と環境を意識して生活している。 加藤家の男たちはみな食べるのが好きで、父も、兄も、タケちゃんも、好きなものを自分で作って食べるのが趣味だ。 私はせめてせめて、お正月くらいは、おしゃべりの好きな弟のタケちゃん、母の昔の味の料理を作ってくれる妹、姪たちに会って、亡くなった父、母、兄の個性を偲(しの)びながら、今の子供たちと比べて、大笑いするしかないのだろうか。(随筆家、薬剤師)