土曜日, 5月 11, 2024
ホームコラム《邑から日本を見る》70 『八郷からの便り』を読む

《邑から日本を見る》70 『八郷からの便り』を読む

【コラム・先﨑千尋】石岡市八郷に住む有機農業の仲間橋本明子さんから表題の本が届いた。これまで書きためたものをまとめたという。サブタイトルは「農といのちに注ぐひたむきな愛の記録」。本を開く前に、「ああ、橋本さんも自分史を書く歳になったのだなあ」と思ってしまった。

昨年には、山形県高畠町の星寛治さんがそのものずばりの『自分史』(清水光文堂書房)を出した。今年に入って、知人では、筑摩書房の名編集者で山代巴の本を出すために径書房を作った原田奈翁雄さんが『生涯編集者』(高文研)を、早稲田環境塾の原剛さんが『日本の「原風景」を読む』(藤原書店)を、『文化連情報』という農協病院向けの雑誌を編集していた高杉進さんが『踏跡残し』(自費出版)を出している。自分史と謳ってはいないけれど、それぞれが自分の歩んできた道をふり返っている本だ。それぞれに味わい深く読んだ。

本書の著者橋本さんは、大阪外大を出て大阪労音に勤務し、結婚して東京に移住。消費者運動を進めながら、八郷に共同の消費者自給農場「たまごの会」を作り、1988年に連れ合いの信一さんと共にとうとう八郷に移住し、「日本一小さい畑を耕す」ようになる。その畑で採れた野菜類を知り合いの首都圏の消費者に届けてきた。橋本さんと私との出会いは、多分高畠町有機農研での集まりだったと思う。高畠で有機農業に取り組み、早くに亡くなった片平イチ子さんを描いた『イチ子の遺言』(ユック舎)を2005年に、仲間の山崎久民さん、海老沢とも子さんとまとめている。

「個性豊かな人たち」「小さな農学校の試み」

前置きが長くなった。本書は同じ八郷移住組の合田寅彦さんが編集、出版(ゆう出版)した。本書の構成は、「コメの現場に足を運ぶ」、「八郷の暮らしから見えてきたもの」、「個性豊かな人たち」、「小さな農学校の試み」、「八郷での出会い」など8つのタイトルから成っている。これまで発表してきたことと講演記録に、生まれ育った若狭での生活などを書き足している。

日本の水田を守るために生産者と消費者をつなぐ提携米運動、生産者と一緒に闘った減反差し止め訴訟、消費者が生産現場に足を踏み入れるたまごの会、自立をめざす農学校「スワラジ学園などに関わり、全国を駆け回る。とにかく行動的な橋本さんのエネルギーはどこから生まれ出るのだろうか。

それはやはり、彼女を取り巻く仲間、同志なのだと思う。先にあげた片平さん夫妻、高松修さん、愛媛の無茶々園、全国のコメ生産農家等々。八郷でも杉線香を作っている駒村さん一家、ブドウ栽培の桜井太郎平さん、しめ飾り作りを教えてくれた高倉弘文さんらの活動が活写されている。

著者の橋本さんとはそんなに深い付き合いをしてきた訳ではないので、その生い立ちや若かりし頃のことは知らなかった。本書で、若狭の寺の生活(親が僧侶だった)や大阪労音の活動など、未知の世界を知ることができた。「はじめに」に「一隅を照らす」という仏教の言葉が出てくる。それにふさわしい本、そう考えながら読んだ。(元瓜連町長)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

1コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

1 Comment
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img
spot_img

最近のコメント

最新記事

JRひたち野うしく駅周辺のにぎわい《遊民通信》87

【コラム・田口哲郎】 前略 JRひたち野うしく駅前の西友ひたち野うしく店の第3駐車場の半分が閉鎖され、店舗らしきものが建ち始めたのが冬ごろでした。何ができるのだろうとワクワクしていたのですが、先日看板が取りつけられていました。看板にはAUTOBACSとあります。大手カー用品チェーンのオートバックスの店舗になるようです。 ひたち野うしくにはイエローハットがありますが、カー用品専門店はほかにないので、2店目になります。 茨城県は自動車社会です。県南ですと鉄道で東京都心まで1時間程度で行けますが、地域で暮らすとなると車が必須です。以前書きましたが、関東は町のひとつひとつが大きく、生活便利施設が町のなかに点在しているので、車移動が必要になります。 車が多ければ、メンテナンス用品の需要も増す。カー用品店が必要になるという流れですね。 もはや都会、ひたち野うしく これも前に書きましたが、ひたち野うしく駅周辺は生活便利施設が密集しており、茨城県南のみならず、関東圏でも指折りの便利さを誇ると思われます。 スーパーマーケット、ホームセンター、家電量販店、ドラッグストア、100円ショップ、靴屋、紳士服店、スポーツ用品店、リサイクルショップ、書店、ペットサロン、カフェ、飲食店、ラーメン店、コーヒーショップ、ガソリンスタンド、整骨院、スポーツジム、洋菓子店、煎餅(せんべい)屋、パン屋、そしてカー用品店と、郊外生活をするのに何不自由ない環境になっています。 そういえばガソリンスタンドに併設される形で話題のチョコザップもオープンしました。 こんなに恵まれているのにまだ不満があるのかと言われそうですが、ひたち野うしく駅前にあったらいいなというお店があります。 それは和菓子屋さん、ブックオフ、マクドナルドです。欲を言えば、100円ショップもダイソー、セリアがあるので、ワッツとキャンドゥーがあれば完璧になりますね。サイゼリアとベローチェがあれば、カフェのバリエーションが増えてより楽しめそうです。 こんなにお店があるのに贅沢(ぜいたく)な話ですが、逆にいうとそれだけ買い物客が集まるということですから、街のにぎわいを象徴していることにもなります。 もはや都会と言ったほうがよいひたち野うしくのますますの発展が楽しみです。ごきげんよう。 草々 (散歩好きの文明批評家)

5月に入社式 セキショウグループ 研修終えた新入社員迎える 

パリ五輪出場決めたU23サッカー日本代表監督も出席 総合商社の関彰商事(本社・筑西市、つくば市、関正樹社長)などセキショウグループは10日、つくば市竹園のつくば国際会議場で入社式を開いた。新入社員47人を含む約220人の社員、関係者らが式典に臨んだ。これまで4月1日に入社式を実施してきたが、今年から研修を終えた後の5月に変更した。 新入社員に辞令を手渡した後、式辞を述べた関社長は、従来4月に行っていた入社式を5月に変更した理由について「4月1日に入社式をして皆さんを迎えると、どうしてもお客様として迎えてしまう。1カ月の研修を経て、セキショウグループが百数十年どのような仕事をしてきたか、取引先からどのように思われているか、また自分が所属する部門以外のことも分かった上で参加することで、我々も本当の仲間を迎える気持ちに変わるのではという意味で5月に変更した」と話した。 続けて「お客様の悩みに耳を傾け、一緒に悩みを解決し、共有して、将来像を一緒につくっていくことが大切。先輩たちが何万人というお客さまをつくってきた。我々はその関係をより良くし、自分以外の人に対して寄り添い、人の意見を聞き、他の人を尊重できるよう、人として成長していってほしい」と、新入社員に言葉を贈った。 新入社員を代表してあいさつに立った牛久市出身の宮代佑汰さん(18)は「自分が育った牛久市や茨城県に恩返しをするとともに、地域に貢献したい」と目標を語った。同じくあいさつに立った筑波大大学院でやり投げ選手として活躍し、アスリート社員として入社した兵藤秋穂さん(24)は「関彰商事は私たちの挑戦に寄り添いサポートしてくれる企業。競技者としてより高みを目指し、つくばから世界を目指したい。日々新しいことに挑戦し、社業と競技に日々精進することで地域や社内の方々に元気や勇気、活力を与えられることを目標にしたい」と意気込みを語った。 新入社員のアドバイザー役を務める鷹箸宏樹さん(28)は歓迎の言葉として「常に挑戦する心を持ち、何事にも興味を持ちながら、関わる全ての人を大切にできる社員になってほしい。一緒に働けることを楽しみにしています」と言葉を贈った。 式典には、今月3日にアジア杯で優勝しパリ五輪出場を決めたU23サッカー男子日本代表の大岩剛監督も出席した。大岩監督は2020年から関彰商事のスポーツアドバイザーと、セキショウアスリートクラブアンバサダーを務めている。(柴田大輔)

地域経済「苦しんでいる会社増えている」 筑波銀行、決算は増収増益

筑波銀行(本店・土浦市、生田雅彦頭取)は10日、2024年3月期決算を発表した。最終的な利益である1年間の純利益は、前年比1億円(4.7%)増の21億9500万円(連結)で、増収増益となった。貸出金利息や営業経費など本業の利益が前年に比べ12億円増加したのに対し、配当金や外貨調達コスト、貸し倒れ引当金などの影響が同比11億円マイナスとなった。 生田頭取は「増収増益と言いながら、大口の貸し倒れ引当金の計上があり、当期純利益については当初の業績予想を下回った。しかし本業の収益については十分に改善が図られ、中味はひじょうによくなっている」とした。 一方、地域経済の状況については「今まで長期に及んだコロナ禍の影響があり、現在は原材料高、エネルギー高、人件費増加があり、今後、中小企業を始めとして企業業績に悪い影響が懸念される」とし、「苦しんでいる会社は細かいところも含めると増えている。コロナ明けの今、現在の状況で、これから金利も上がるという中で、地元企業に対してはアゲンストの風(向かい風)が吹いてくる。そうなってくると、耐えられる企業体力があるところは耐えられるし、小規模零細で耐えにくいところは支援をしていかないと倒れてしまう。我々の役割として、本業支援や資金支援、最終的には廃業支援も含めてやっていかなくてはいけない」と話した。 決算の概要は、売り上げに当たる経常収益は、株式売却益や貸出金利息などが増え、前年比10.7%増の410億9200万円になった。 経常費用は、評価損の拡大が懸念される外国債券の売却や外貨調達コストの上昇、大口取引先の貸出金が回収できなくなった場合に備える貸倒引当金の計上などから前年比9.3%増の386億2500万円になった。 預金、預かり資産、貸出金残高(単体)はいずれも過去最高となり、預金残高は。個人、法人、地方自治体などからの預金がいずれも増加し、前年比643億円増の2兆5773億円になった。投資信託や生命保険などの預かり資産残高は前年比492億円増え3410億円となった。貸出金残高は中小企業への貸出やTX沿線を中心とした住宅ローンなどが増加し前年比860億円増の2兆372億円になった。 金融再生法に基づく開示債権額(単体)は、経営改善支援中の取引先企業のランクダウンがあり、要管理債権が前年度の2倍近い157億円に増加するなどし、債権額は前年比79億円増の537億円になった。その結果、不良債権残高の割合を示す開示債権比率は同0.29ポイント上昇し、2.58%となった。 健全性の指標となる、リスク資産に対し資本金などの自己資本がどれだけあるかを示す自己資本比率(連結)は、当期純利益21億9500万円の計上などにより自己資本が増加したなどから、前年比0.14ポイント上昇し、9.13%となった。

サイエンス高をつくば市の人気校に《竹林亭日乗》16

【コラム・片岡英明】2023年に開校した「つくばサイエンス高校」の2年連続定員割れについて、問題点の指摘や批判、中には否定的な意見も聞こえてくる。しかし、県立高校不足に悩むつくばの小中学生のことを考えると、第三者的な冷たい評論では県立高問題を解決できない。 私は、県がサイエンス高の定員増(4学級→6学級)と学習指導の充実を図った点を評価している。今回は、この2つの芽と開校後2年の経験を生かし、サイエンス高がつくばの人気校になるような方策を考えたい。 受験生からのメッセージ サイエンス高は、東京都が2001年に2つの工業系都立高校を統合・新設した都立科学技術高校を参考にしている。都立科学技術高の当初定員は科学技術科35人✕6学級=210人だったが、24年度からそのうち1学級を創造理数科40人とし215人になった。このことから、学校の基本は少人数の進学型専門高といえる。江東区大島にあり、地下鉄住吉駅より徒歩8分と通学に便利だ。 つくばサイエンス高は、2020年8月の県高校改革実施プランⅠ期(第2部)に基づき、つくば工科の学科を改編して23年に開校した。その基本的な考え方の一つは「TX沿線地域の人口増加に伴う県立高等学校への大学進学ニーズの高まりに対応する」となっており、地域の声を取り入れた学習指導充実を加えた。 前身のつくば工科は、18年までは受験者が定員の160人を越え、19・20年は入学157人とほぼ定員を確保した。しかし、改革実施プラン発表後の21年は150人、サイエンス高設置前年の22年は134人と減少した。 つくば工科は資格を取り就職したいという地元の生徒には人気のある学校であった。それが、「研究者や高度技術者を育て、起業家精神を持つ生徒」の育成を目標とする理系の進学型専門高校となり、受験生に不安が生まれた。この結果、定員を240人にした23年度(1期生)は前年の134人から88人に減り、24年度(2期生)は77人に減少した(充足率32%)。 つくばサイエンス高は、つくば市で最も子どもが増えている谷田部地区にある唯一の県立高校であり、地域の期待も高い。それなのに、定員を増やした新設高校で大きな定員割れが起きている。ここから、軌道修正を求める受験生からのメッセージを読み取りたい。 理系進学科+普通科の2学科制 以下、現在のサイエンス高が持っている2つの芽を生かし、地元の人気校になる案を示したい。 (1)科学技術科を少人数学級にして、理系志向の生徒に充実した教育を行う。具体的には30人✕4学級=120人とし、学科定員を絞る。1年次は共通とし、2年次以降は理系進学探求コースと技術を磨くマイスターコースを設け、就職希望者には工業系の資格も取らせる。 (2)絞った定員の残り分を生かし、要望が強い普通科を併設する。そこで新体制の2年間で作り上げた学習指導体制を生かす。 (3)普通科定員を5学級200人、全体定員を80人増の320人とする。但し、25年度からの定員増が難しい場合は、既存の240人定員のうち3学級120人を普通科とし、26年度から5学級とする。また、2年進級時に学科変更を認めるなど柔軟な体制をとる。(元高校教師、つくば市の小中学生の高校進学を考える会代表)