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「本屋」がつなぐ可能性探る 土浦・図書館フェスでトークショー
2019年10月5日
【鈴木宏子】土浦駅前に移転・開館し、来月27日に2周年を迎える同市立図書館で5日、「図書館フェス」が始まった。初日の5日は、駅前に集積して立地する図書館、古書店、新刊書店3施設の代表者によるトークショーが催され、活字離れや出版不況がいわれる中、3施設による連携の可能性を探った。 トークショーは、土浦駅前に立地する県内一の市立図書館の入沢弘子館長、関東一の古書店「つちうら古書倶楽部」の佐々木嘉弘代表と、天狼院書店の三浦崇典店主が「本のはなし 本屋×古本屋×図書館」をテーマに語り合った。7月にNEWSつくばが実施した「土浦駅前『本屋』座談会」の続編でもある。トークショーの司会はNEWSつくば理事長の坂本栄が務めた。 土浦に編集部やこたつ劇 天狼院書店は5月に土浦駅ビル「プレイアトレ土浦」に初出店した。三浦店主は、同店が都内の店舗などで開催している小説家養成ゼミの合宿を土浦で開催する場合を例に、3施設連携のアイデアを紹介した。 同社は10月末にも旅行業の資格を得ることを明らかにした上で、「来年3月に土浦駅ビルにオープンする星野リゾートのホテルで小説家養成ゼミの2泊3日の合宿ができる」ようになるという。参加者には「『佐々木さんの古書店にある本で小説を書く』というテーマを出して小説を書いてもらう。部屋にこもって書いていては体に悪いのでたまに自転車に乗って体を動かしてもらう。最終的に本が出来上がったら図書館に置いてもらう」など、連携のアイデアを話した。 さらに次世代の書店の姿については、写楽の浮世絵を出版した江戸時代の版元、蔦屋重三郎を例にとった。「蔦屋重三郎は自分で作って自分で売っていた。写楽は重三郎のところでしか買えなかった」と紹介し、「大量生産の時代ではない。作って、売ることを総合的にやっていきたい」との考えを披露した。来年4月、湘南に出版社をオープンさせるとも話し、「出版機能の9割はいま東京に一極集中しているが、分散していろんなところに編集部をもっていきたい。土浦にも編集部をつくろうと思っている」などと述べた。 ほかに、池袋が演劇の街になりつつあることに触れ、「やりやすいサイズの演劇『こたつ劇』を土浦でもやりたい。『こたつ劇』を広めて、土浦にシアターカフェ天狼院をオープンさせたい」などアイデアを次々に披露した。 高校生や団塊世代をつなぐ 三浦店主が、高校が10校あり9000人が通ってきている土浦について「土浦の高校生を活字中毒にしたい」と発言していることを受けて、図書館の入沢館長は「小学生のころから本に親しむと、本から離れる時期があっても本に戻ってくるといわれる。10年後の活字中毒者をつくるために、読み聞かせなどをもっと意識してやっていきたい」などと話した。 古書店の佐々木代表は、団塊世代が身辺を整理する「断捨離」や遺品整理などで毎月、同店に2トンほどの古本が持ち込まれていることから「東京・神田の古本市は古本や新刊、児童書などがいっぱい出て異常なくらいにぎわい、わくわくする。神田の古本市のような催しを土浦駅前でできたら」と提案した。 ◆図書館フェスは6日までの2日間。6日はイラストレーター、コンノユキさんによるハロウィンの不思議なカードを作るワークショップ、映画会、それぞれ大人と小学生を対象にしたおはなし会などが催される。問い合わせ:土浦市立図書館(電話029-823-4646)
来館者100万人達成! 土浦市新図書館
2019年8月23日
【鈴木宏子】土浦駅前に移転した市立図書館(同市大和町)の来館者数が23日、100万人を達成した。2017年11月に移転・開館以来、1年9カ月での達成となった。年間目標の40万人より1.4倍多い来館者があり、想定より9カ月早い達成となった。 23日午後1時30分過ぎ、100万人目の来場者となった土浦市下高津、市立下高津小4年の佐久本蓮さん(10)に、中川清市長から、市の名産品「土浦ブランド」認定商品の飯村牛と市のイメージキャラクター「つちまる」のぬいぐるみなど記念品が贈られた。 蓮さんはこの日、母親のみさおさんと来館した。「急に呼び止められてびっくりした」と話し、新図書館について「移転前と比べて座りながら読めるのでいい」と述べた。現在、月2回ぐらい来館して毎回本を借りているという。母親のみさおさんも「飲み物を飲むところもあって、居心地がいい」と語った。 同館によると新図書館は、市民1人当たりの貸出冊数が4.26冊と移転前の2.2倍になった。来館者の4割が高校生など10代の学生というのが特徴という。 駅前の活性化にも貢献している。駅前の1日の通行者数は開館1年後の昨年11月に平日が約4万2100人、休日が約3万5800人となり、市役所が駅前に移転した15年11月と比べ、平日で1.1倍、休日は1.5倍に増加した。市役所が休みになる休日のにぎわいづくりに貢献していることが示された。 入沢弘子館長(56)は「100万人達成は開館以来の悲願で、予定より早くこの日を迎えられ職員一同うれしく感じている」とし「開館2周年の今年秋には、本をテーマに様々な催しを行う『図書館フェス』を実施し、既存利用者の図書館への親近感醸成と、新規利用者獲得を目指したい」とした。 同館は延床面積約5100平方メートル、蔵書数約56万冊、閲覧席数約650席といずれも県内一。 ➡土浦駅前「本屋」座談会の過去記事はこちら ➡土浦市立図書館館長のコラムはこちら
【土浦駅前「本屋」座談会】㊦ ネットとリアルの本屋は共存できる
2019年7月14日
「アマゾン」はまったく問題ない ―実は私、本についてはアマゾンにおんぶに抱っこなんです。現物は宅配、探すのはネット、急ぐときは電子本と。お店に行く必要がない。皆さんどう考えますか。 三浦 まったく問題ないと思います。僕も使っていますし。あんな便利なものはないですね。古本の流通にも便利ですし。われわれにとっては障害とかではなくて、お客さんの利便がすべてだと思っています。本はお客さんが選ぶもので、僕ら提供する側が選んではいけない。僕らが提供できるものは何か、お客さんの要望に注目していればいい。 ―天狼院もネットを使ったビジネスを何かやっていますか。 三浦 ネットでも売れるときはかなり売れます。いろんなところに真似されちゃったんですけど、「天狼院秘本」という、タイトルを隠して販売するやり方で、1000冊ぐらい売れました。 ―古本もネット販売が主流になりつつあるということですか。 佐々木 共存と言いますかね。古本カタログに載せる本はネットに出ないので、こういうジャンルでは、店に引っ張るというのが一つの考え方です。 電子書籍の普及で売れなくなったのは、料理本とか趣味の本です。20年前まで、古本屋には、料理本、文庫、漫画は欠かせなかった。それだけで食っていけるぐらい売れていた。そがぴたっと止まった。そのとき私は、くせもの(骨董品)を勉強したんです。古いものの市場に行って、ネットとの差別化を図った。 ―図書館とネットの関係はどうですか。 入沢 電子書籍の貸し出しをやっています。350タイトルぐらいで多くはありませんが。ほかの公立図書館に聞いても利用者はまだ多くありません。現状では本を手に取って見る利用者が多く、電子本は図書館の主流にはなっていないと感じています。 本の宅配と古本店・図書館のコラボ ―佐々木さんには、土浦の旧家に眠っているものを掘り起こしてほしい。話を元に戻して、3業態のコラボ案、まだありますか。 三浦 まだアイデアの段階ですが、先に触れた配達を始めるときは佐々木さんとコラボできますね。配達先のお客さんから「古い資料があるんだけれど、足腰が立たなくて古書倶楽部に持っていけない」と言われれば、僕らが「いいですよ、一緒に持っていきます」と言える。 実は僕、昔、中堅書店の店長をやっていまして、本の仕事は雑誌とか漫画の配達から始まっているんです。美容室とか歯医者に本を届けるのは、地域の本屋さんが担っていました。今はほとんどなくなっていますが。でも逆に、今やったら面白いんじゃないかと。 そうすると、古書倶楽部とコラボできますよね。「古い資料ありましたよ、佐々木さん」と伝える。「図書館から借りた本の返却が大変」と言われれば、その返却を引き受け、図書館ともコラボできる。 ―土浦でそうした分野でトライしてもらい、コラボモデルができると面白い。 「本の通帳」 大人にも広げたい! 入沢 土浦って、小学生が結構、本を読んでいるんです。もっと読んでほしいと思い、去年の秋から「本の通帳」というのを始めました。借りた本を記帳機で通帳に記帳するというシステムです。地元の4金融機関に計120万円を出していただき、通帳を5000冊作りました。 三浦 僕が今、全国的に勧めているのは、給料の1割を使って本を買えということです。「本の通帳」は大人にもすごくいい。 入沢 子どもに本を読んでもらいたいので、小中学生を対象にやっているんですが、大人には「自分で手帳に書いてください」と言っています。(笑) 三浦 だめです(笑)。僕らは、ゼミが終わったら、シールをお渡しする贈呈式を毎月、大人にやっています。修了証みたいなものを発行しているんですが、皆さん、拍手喝采です。「本の通帳」だと活字中毒になりますね。増える楽しみがあるじゃないですか。 なかなか手に入らない高級限定本 ―キーワードは活字中毒ですね。これからの古書店のキーは何ですか。 佐々木 昭和以前の貴重な本を残していくというのが私の考えです。景気がよかったころ、京王百貨店でやっていた古本市では、1週間で億単位、1日数千万の売り上げがありました。(催事は)駅弁か古本かと言われたものです。開店と同時にお客さんが走ってきて、1冊しかない高級本を奪い合って…。 三浦 本の作り方も、そっちに行った方が面白いかもしれませんね。高級にして、100年残る本にした方がいいかもしれません。 佐々木 そういう本もあるんです。本革装で小口にマーブル加工されて限定10部とか。これからは、貴重だと思う本はそういう作りをした方がいいと思いますが、技術者がドンドンいなくなっているんです。手作り感がすごくあって本当にいいんですが…。 三浦 102歳で亡くなった、カメラマンの熊谷元一さんと本を作ったことがあります。熊谷さんの家に貴重な本、会員にならないと入手できない手作り本があったんです。そういった本は会員じゃないと買えないから、次の人は会員が亡くなるのを待っているんです。そういう世界をもう一回つくったら面白いかな。 ―話が大分広がってきました。今日は有益なお話、ありがとうございました。(おわり) ➡土浦駅前「本屋」座談会の㊤㊥はこちら
【土浦駅前「本屋」座談会】㊥ 図書館+古本店+新刊店による「ブック回廊」
2019年7月13日
文化的基盤が厚いまち土浦 ―歩いて1~2分のところに、3つの本を扱う店・施設が集まっています。そこは駅ビル内とその近隣ということもあり、市内の高校に通う学生がたくさん行き来します。土浦は昔の県南の中心で、知的好奇心が高い方が住んでいる。こういった好環境で本を扱うわけですが、それぞれの立ち位置から3者コラボのアイデアを出してください。 入沢 土浦は古いまちで文化的基盤が厚く、文化人がたくさん出ているまちで、市民もそれを誇りに思っています。本を通じてみんなをつなぎたい。若い子は勢いのある近隣の市に目をとられ、土浦は古くて衰退していると思ってしまいますが、土浦は文化基盤があることに誇りを持ってほしい。 古書店 いまは「本の骨董店」 ―この座談会を機に、本の3業態の「回廊」のイメージをつくりたい。どうつながり、どうつなげるか、意見を聞かせてください。 佐々木 入沢さんのお話のように、土浦には地元の作家がかなりいらっしゃる。高田保(1895~1952、随筆『ブラリひょうたん』など)とか。うちは、そういった人の手紙とか直筆とか短冊とかを集めています。6月に開催した「第15回古本まつり」で、長塚節(1879~1915、常総市出身、小説『土』など)の手紙などを集め、カタログにしてお客さんに送ったところ、長塚節関係の本をごっそり買った方もいました。私の仕事はそういうことなのですが、それを知っていただく方法が意外とないんです。 ―つちうら古書倶楽部は、古本屋というよりも骨董屋のイメージですね。 佐々木 本の骨董品屋です。直筆の書簡とか、戦前の子どもの本や古地図とか、そういうものを集めてカタログをつくり、何十年も温めてきた全国の約2000件のお客さんに送っています。 ―こういう古本屋さんの取り組みは、天狼院さんの営業とは対立しないですね。 三浦 対立しないし、コラボできるところです。いま私は大学で教えていて、大学の先生とコラボして論文ゼミをやっていますが、「役に立たなくていいからテーマを見つけて調べよう」というゼミもあります。まずは古書店のカタログを見て、論文の題材を探そうということをやってもいい。 駅ビル・アトレに泊まり論文書き ―学生のゼミの教材としては、古書店は宝の山ですね。 三浦 古書店には作家の手紙とか一次資料もある。それを使った論文の書き方は体験型の「論文ゼミ」で教えます。土浦は東京から近いので、大学の先生に来てもらえますから。もう一つ、天狼院には「小説家養成ゼミ」もあるので、小説の題材を探しに古書店に行きましょうということもやれる。この間、うちのゼミから松本清張賞が出たんです。 大きな古本屋さん、図書館が近くにあるのはメリットで、もう東京から学生と先生に来てもらうしかないですね。僕らは「旅部」という旅行ゼミもやっています。全国から学生を集めて熱海とかに行くんですが、それを土浦にも持ってこようと思っています。 駅ビル「プレイアトレ」に来年オープンするホテルに彼らを缶詰にして、一次資料を調べて論文をつくるとか。僕らはどこでも缶詰になって、集中して書くことをやっているんです。市立図書館の閉架図書を使って調べることもできます。 缶詰をやってリフレッシュしたいと思ったら、自転車で霞ケ浦を回っていけばいいんじゃないですか。戦国武将の気持ちになりたいときは城跡とか行ってもいい。(笑) 入沢 アトレはサイクリストの拠点ですが、天狼院さんが入られて、そのあたりに特化していくことは考えているんですか。アトレが企画する「散走」ツアーがあって、いろいろなところに行っていますが。 三浦 これまで文科系中心で体を使うことをやっていなかったので、そろそろやりたいと思っています。カメラを携えて行くみたいなこともやりたいですね。何でもやります。手間がかかってもやります。 土浦市内10高校の「学祭」も応援 ―天狼院さんが「土浦という素材」を掘り起こすことに期待しています。 三浦 出店するということはそのまちに学ぶところが多い。京都とか福岡とかもそうですが、何年もかけて学んで、ようやくフィットしていくみたいなところがあります。 ―ゼミなどの企画で、土浦に学生を連れてくるのはいつごろになりますか。 三浦 土浦店の第2形態は秋を見込んでいるので、そのあたりから見えてくると思います。スタッフもどんどん入ってきているので、秋になるんじゃないかと思います。例えば「ライティングゼミ」ですが、毎週、2000字の記事を提出するという課題があります。そこでの問題はネタ切れになることですが、土浦でゼミを開けば、図書館でも古書店でも宝さがしができる。ネタだらけじゃないですか。 ―新刊本屋さんというより、知的な企画をどんどん持ち込むんですね。 三浦 あとは、9000人の高校生がいること、高校が10校あることですよね。工業高校も進学校もあるということは、ここは日本の高校の縮図ですよね。東京に近い地方都市でもある。ここの高校生を活字中毒にできれば、日本全体を活字中毒にできる可能性があるということですね。(笑) 入沢 土浦の特徴は高校生が多いことなので、去年から10校の高校生を集めて「学祭(がくさい)」という催しを駅前でやっているんです。今年は8月3日に開き、各学校自慢の部活披露や、学校案内の展示や相談、美術作品展示などを行います。ビブリオバトルも盛んで、去年も学校対抗で盛り上がりました。 周辺自治体の親子さんも来て、土浦はいいところねとか、土浦の学校に行かせようとか、そういう効果が生まれる。OBやOGもやって来て、後輩を応援しようとか。初回の去年は2000人ぐらい集まりましたが、今年は2万人を目指しています。 三浦 学祭なら僕らもいろいろ応援できますよ。学祭のパンフや雑誌をつくるために、写真や文章から、デザイン・レイアウトまで。高校生用の講座もできます。僕ら、全国を回る「コンテンツサーカス団」だと思っていて、コンテンツをショーにしているんです。(つづく) ➡土浦駅前「本屋」座談会㊤はこちら
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