【橋立多美】日本人は何をどのように食べてきたのか――。食材、調理法、食事の作法や歳事・儀礼など多彩な視点から日本の食を考える『日本の食文化』(吉川弘文館、全6巻)が刊行中だ。最新刊の第5巻『酒と調味料、保存食』(石垣悟編著)では、「漬けもの」の章を筑波学院大学経営情報学部教授(生活文化、民俗学、文化人類学専門)の古家晴美さんが執筆した。

「漬けもの」の章は、約4500年前の縄文期の大規模集落が発掘された青森市の三内丸山遺跡から、当時海水を用いた漬けものが作られていたと推測される例を引くなど、漬けものの起源や食材、製造法を紹介。また沢庵(たくあん)和尚が北国の野菜不足解消を目的に考案したとされる「貯え漬け」(=沢庵)や梅干しの由来など、漬けものと人との長い歴史を分かりやすく読み解いている。

江戸期以降、一般庶民の食事は飯と汁と漬けもの。副食物の王座は漬けものだった。それだけに漬けものの出来不出来は主婦の評価の物差しで、自慢の漬けものを手土産にしたという。また江戸中期の御家人(家臣)にとって手作りの漬けものは贈答品で、漬けもの作りが武芸の一つだったという話は興味深い。

サラダ感覚のもの増えそう

健康志向と減塩ブームの中、近年の漬けもの消費調査やアンケート調査結果から、購入と嗜好の動向がまとめられている。

古家さんは「令和の時代も、漬けものは食卓で一定の位置を占める」とした上で、「2015年に行われた漬けものに関する2つアンケート調査(各357人、142人対象)では、約半数が『週に数回以上食べている』と回答しています。ただし、健康志向で、塩分控えめの酢を加えたサラダ感覚のものが一層、増えいくかもしれません」

「アンケートで気になるのは、20~30代の人たちのヌカ漬け人気が低く、キムチや沢庵の人気が高い点です。彼ら、彼女らが令和30年になった時に、若い頃の嗜好をそのまま保持しているか、あるいは嗜好が変化するか、非常に興味深い」という。

執筆にあたり古家さんは「漬けものの歴史や地域性を概観しつつ、漬けものが人と人をどのように結び付け、地域・社会・風土とどのように関わっているかに注目しながら書くように努めた」と話す。

13年に和食がユネスコの無形文化遺産に記載されて和食への関心が高まる一方、時短の献立メニューが人気を集める昨今。民俗学や歴史学、家政学などの研究者が、全国のさまざまな事例を挙げながら和食の成り立ちをつまびらかにする書巻『日本の食文化』は、和食への気づきにつながるだろう。

◆『日本の食文化』 既刊は1巻『食事と作法』、4巻『魚と肉』、第5巻『酒と調味料、保存食』。2巻『米と餅』、3巻『麦・雑穀と芋』、6巻『菓子と果物』が順次刊行される。(四六判・上製、吉川弘文館刊、各2700円=税別)

【予告】古家晴美さんは本サイト22日付からコラム「四季の食と民俗」を執筆します。