《ひょうたんの眼》10 平成の大合併で生まれた市町村名

便利な地図帳「ワールドアトラス」

【コラム・高橋恵一】大きな催しや災害、事件などで国内外の都市名が報道されるが、便利なのは「TVのそばに一冊。ワールドアトラス」という地図帳だ。世界の諸地域と日本の各地方の全部を網羅していて、週刊誌レベルの大きさ。余計な情報が無いので、目指す国や都市を見つけやすい。

初訂版を20年以上愛用していたが、その間、平成の大合併が日本を襲い、世界も6カ国増えて、変化を頭の中だけでは追いきれなくなり、同じものの第7版を手に入れた。なんと、値段は1,200円のままで、内税のため実質値下げになっている。世界地図には、世界遺産が記載され、日本地図には高速道路が引かれていて、多少込み入って来たが、他の情報過多の地図帳より見やすく、ほっとしている。

さて、地図帳の宣伝をしているわけではなく、メディアから発せられる地名に違和感が多いことを述べたいのだ。

メディアや地図帳に文句があるわけではないが、平成の大合併に伴う「新都市名」には、10年以上たった現在でも、違和感が多過ぎる。新市町村名は、それぞれの自治体が、民主的な手続きを経て決めたもので、他人が口を出せることではないかもしれないが、人名、地名、施設名などは、他者に、その人、場所、施設を他と区別して認識してもらう意味も大きいのだ。

特に、地名は、位置や歴史、産業、名勝などと強くかかわっている。地元、茨城県にも、違和感のある新市名が出来てしまったが、身近なところで争いたくないので、なるべく離れたところに、愚痴を言ってみたい。

「中央市」ってどこにあるの?

先ず、「中央市」だ。一体、どこにあるのだ。東京都の中央区が独立して「市」になったわけでもあるまい。日本の中央に位置する都市の意味なのかもしれないが、市の名称が大き過ぎて、位置が分からない。歴史上の地名でもなく、特に有名な施設があるわけでもなさそうだ。甲府市の南にたどり着くまでには、地図帳の索引を使っても容易ではない。長野県ともめるかもしれないが、中央市に隣接する「南アルプス市」の方が、まだましかも知れない。

同じく、「四国中央市」だ。伊予三島や川之江が合併して出来た新市だが、四国の屋根・石鎚山とも離れており無理がある。中央というからには、経済的、文化的な中心地の意味も兼ねるだろうが、松山や高知と比較しても、背伸びした新市名と言わざるをえない。市を愛する地元の人には申し訳ないが、外から見ると、四国中央の名前からは、川之江も、三島も、瀬戸内海も連想できないと思う。

「奥州市」は、違和感のある新市名の東の大関だ。旧陸奥の国全域を名乗っていることになるが、宮城県、岩手県、青森県、さらに福島県までを代表する存在とは言えないだろう。その地域を代表するのは、仙台だろうし、歴史的にも、胆沢城をして、多賀城、奥州探題の大崎、厨川の盛岡、奥州藤原氏の平泉を押しのけるほどの存在とは言えない。水沢か胆沢の名称が相応しく、奥州市は荷が重いのではないか。

平成の大合併より前の「むつ市」の例もあるが、その時は、ひらがな市名が珍しく、「陸奥市」としなかったことで、受け入れられたのだろう。「下北市」や「大湊市」「田名部市」ならば、全国の人は、青森県の下北半島の要地であることを、より理解したかも知れない。

「中央一丁目」 智恵のない町名

昭和の合併で「長門市」がある。長門の国の国府は、下関市の長府であり、地域を代表するのは、下関や萩だ。港町「仙崎」の方が相応しかったのではないか。この例は、平成の大合併で多くなり、県庁所在地でも旧国府でもないのに、県名や旧国名を市名にしている。甲州市、伊豆の国市、伊豆市、丹波市、淡路市、美作市、瀬戸内市、さぬき市、四万十市、日向市、南九州市などなど、町村名も同様である。その中で、勝沼や塩山、韮山、修善寺、土佐中村、知覧が表面に出なくなり、篠山や洲本、津山、高松は、地名が変わったのかと、思ってしまう。

全くの造語や合成地名の新地名も、何処にある地域なのか連想出来ず、外部の人間を悩ますことになる。北海道大空町、北斗市、宮城県美里町、秋田県八峰町、大仙市、秋田県では、花火の大曲や桜の角館、在宅福祉の鷹巣町も市町村名から消えた。

さくら市、みどり市、ふじみの市、北杜市、東御市,瑞穂市、あま市、愛荘町、北栄町、雲南市、島根県美郷町、三豊市、福津市、宮若市、福岡県みやこ町、みやま市、佐賀県みやき町、和水町、宇城市、あさぎり町、湧水町など。馴染みのない市町村名が生まれた陰で、歴史と伝統の地名が無くなっているが、この違和感は、時間とともに薄れて行くのだろうか。

地名を語る中で、新住居表示の際に、伝統的な町内の名称が消えてしまったことも、違和感の大きな要素である。城下町や門前町の「鍛冶町」「鷹匠町」「稲荷町」などが、「中央一丁目」などに変わってしまった。理由は、街区方式を取り入れた住居表示をするため、それまでの町内が分割され、元の町名の争奪戦が生じて、どちらも新しい町名を適用したことによる。なんとも智恵のない結末だ。

それにしても、全国に新しい町名で「文京町」というのがある。学校や文化施設のある地域と分かるが、正しくは「文教町」だろう。東大のある東京都文京区は、東京の文教地区の意味で「文京区」なのだ。大阪にあれば、「文阪区」になる。地名は、後世の人や外部の人に理解してもらえるように、銘々されることが望ましい。(元オークラフロンティアホテルつくば社長)