《続・平熱日記》23 三原色のわかるオヤジになりたい


【コラム・斉藤裕之】1人の女の子がおりました。小さいころ誰もが好きなように、この女の子も絵を描くのが大好きでした。しかし、ある日、お母さまが手渡したのはたった3色の絵の具でした。赤、黄、青。女の子はそれを理不尽だとも思いませんでした。だって、その3色であらゆる色を作ることができたから。

やがて、女の子は絵を描くことを仕事にしたいと思い、美術の学校を訪ねます。そして、この少女に担当の先生は驚きます。抜群の描写力もさることながら、迅速かつ完璧に色彩を再現する少女に。これは同僚の美術の先生が体験された実話です。

三原色の話は、授業の中で簡単に触れることはあるのですが、本当に3つの色だけで絵を描く少女の話を聞いて思うところがありました。

例えば着るもの。気が付けばいつも同じものを着ています。平均的なご家庭よりかなり少ない衣類ケースの中身ですが、この際思い切って三原色程度にしてみようと思います。多分、風呂敷ひとつ程度になるのではないかと。

それから食べもの。何となく強迫観念に駆られて、品数を作ったり栄養を考え過ぎたりしがちですが、食事も三原色。ご飯と汁ともうひとつ。三原食で十分。そもそも、1日何種類もの野菜を必要量食べている人などいませんから。

具は3種でも立派な寄せ鍋

以前、ある美術大学の入試で、三原色の絵の具だけで描かせるという出題があったことを思い出しました。理論的には、三原色と白、黒があればすべての色を作ることは可能なのですが、実際には絵の具が物質である以上、例えば水彩絵の具と油絵具とでは色の混ぜ方や発色の具合は異なります。

また、パステルなど、画材によっては混色が難しいものもあります。私も経験がありますが、確かに画材屋さんに行くとずらりと並んだきれいな色の絵の具につい手が出るものです。

でもしばらくすると、いつも使う絵の具はそれほど多くないことに気づきます。私の場合だと、さすがに三原色とまではいきませんが、白黒を含めて10色ほどでしょうか。毎日絵の具をチューブから出しているのに、今さら三原色を考えるとは。まあ、散々な無駄を経験して人はほんの少しわかった気になるのでしょう。

さて、ある人から借りた料理本の「寄せ鍋」というページ。「具は3種でも立派な寄せ鍋となる。鯛、蒲鉾、くわい、それぞれの持ち味をじっくりと楽しめよう」。なんともみやびな三原色。ボロは着てても、こんな三原色のわかるオヤジになりたいものです。(画家)