【コラム・及川ひろみ】ヒシは湖沼の水面を覆うように広がる1年生の水草です。宍塚大池では昨年からヒシが水面を覆い、春先から駆除に力を入れました。今回は「ヒシ」の話です。

ヒシの繁茂は、水面にふたをしたように広がることから、夏、池の溶存酸素が激減します。昨年、土浦一高生物部が、篭(かご)に二枚貝を入れ、大池の水質改善、さらに真珠の養殖を試みましたが、ヒシの繁茂による酸欠で9割の貝が死亡する事件が起きました。

前年熟したヒシの実は、4月初旬ごろから池の底で発芽、根を地中に伸ばし、茎は水面に向かって長く伸び、水面で葉を広げます。ヒシの実から出た茎は1本ですが、夏近くなると茎は水中で枝分かれし、多いときには50本以上にも分かれ、急速に葉が水面を覆います。

ヒシを引き抜くと、地中に伸びる根(束)の他に、茎ごとに根の束が見られます。茎には葉が変形したと言われる緑色の水中葉が茎の上部、節ごとにもじゃもじゃ生え、ヒシは3㍍以上の長さに育ちます。5~10㌢ごとの節から根や水中葉が出ていて、ヒシが広がる水面下の水中は、結構、ヒシの副産物で混雑しています。

忍者が使う乾燥ヒシの実

ヒシの葉の付け根の葉柄(ようへい)は膨らみがあり、内部がスポンジ状、これが水面に浮く仕組みです。成長に伴い、このスポンジ状の袋が長く、丸く成長します。オニビシはこの袋が成長するとピンク色に染まり、ヒシとの識別が可能になります。

花は葉の付け根から花柄を水面に伸ばし、白い1㌢ほどの花が6月中旬ごろから咲きます。花は一日花、イチモンジセセリなどのセセリチョウがよく吸密に来ます。ヒシの花の初認の頃、すでに水中には結構大型のヒシの実が見られることから、ことによると花が咲かない閉鎖花でも実るものもあるのかも知れません。

ヒシ、実を割ると、白い大きな「実」が出てきます。わずかに甘く、栗のような味で、食用になります。ヒシはアイヌ民族には重要な食糧となっていたそうです。

ヒシの実は忍者が「撒菱(まきびし)」として使うことで有名ですが、特にオニビシの乾燥した実は、立体的に配置された丈夫な刺(とげ)があり、忍者が逃げる途中にばらまくと、追手の速度を落とさせる効果があると言われています。

ところでヒシの実、鋭くとがった2本の刺、先端を拡大して見ると、逆向の鋭い刺が並んでいます。1990年ごろ、弱ったキンクロハジロを大池で見つけました。その羽毛にはヒシの実が50数個付いていました。ヒシ、水鳥を使って分布を広げているのかもしれません。自ら動くことなく種をばらまく、植物のたくましい戦略のように思えます。(宍塚の自然と歴史の会代表)