【コラム・玉置晋】1日、放送大学茨城学習センター教員・学生講演会が水戸の県立図書館で開催され、僭越(せんえつ)ながら僕も講演させていただきました。内容は本コラムで書かせていただいた宇宙天気災害に関する話です。執筆のおかげで、知識の整理が知らず知らずにできておりました。NEWSつくばさん、ありがとうございます。

参加者は、放送大学の学生さんのほか、自習に来ていた高校生も含めて40人ぐらいでしたかね。皆さん、熱心に聞いてくださり、ガチな質問もあり驚かされました。

折しも9月1日は防災の日、1923年9月1日に相模湾を震源とするマグニチュード7.9の巨大地震は建物の倒壊とその後の火災により10万人を超える犠牲者を出しました。2011年3月11日以前の僕の中では、関東大震災は歴史の1㌻でしかなかったのですが、激甚災害とその後の危機に遭遇し、自然災害に対する意識は大きく変わりました。

「あの時、きちんと対策しておれば」という後悔は次の世代にはさせたくないですね。講演していて気が付いたのですが、1859年に起きた大規模太陽フレア「キャリントン・イベント」の発生も9月1日でした(詳細は3回目のコラム「キャリントンの日」参照)。当時は、電気文明が開闢(かいびゃく)したばかりで、社会インフラへの影響は最先端技術テレグラフ(電報)に障害が発生したという記録があります。

大きい太陽フレアが起きたら?

現代社会は、宇宙や高高度を利用し、精密で複雑な通信・電力網が全世界に拡がっています。会場からの質問に「キャリントン級の太陽フレアが起きたらどうなるのか?」というものがありましたが、「衛星や航空機運行、地上の電力網に障害が発生するかもしれない」としか答えられない現状に危機感を感じます。具体的にどの様な被害が発生するのか、それをどう防ぐのか―といった議論は始まったばかりなのです。

日本の宇宙天気に関する個々の「研究」は世界をリードしてきました。最近の報道では今月にも、AI技術を用いた太陽フレア予測を「実用」の宇宙天気予報に実装するとありました。目を見張るのは「研究」から「実用」への転換スピードです。

宇宙天気研究の中心機関・情報通信研究機構(NICT)から「研究成果」のプレスリリースがあったのは昨年1月なので、わずか1年半です。講演前の8月30日、NICTが主催している「宇宙天気ユーザーズフォーラム」に参加。そこで、僕は「(社会インフラの)現場に宇宙天気の知見がないのが問題だ」と愚痴を言ってきました。

ちなみに、講演の冒頭で「宇宙天気を知っていますか」と問いかけたところ、「はい」は40人中2人(5%)でした。前途多難です。(宇宙天気防災研究者)