《くずかごの唄》20 カブトムシの謎 夏の夜の怪談


【コラム・奥井登美子】毎年、子供たちを集めての「昆虫観察会」が近づいてくると、私も少しソワソワしてくる。今年は何が見られるだろうか? オオムラサキはいるだろうか? 暑さが普通ではないので昆虫たちは生きているかどうか? びくびくしながら下見に行く。

昨年は親子でハチに刺されてしまった人がいた。下見の時に、ハチがいるかどうか、ハチの巣は点検しておくのだが、木の上の方にカブトムシを見つけて、うれしくて木をゆすってしまったらしい。カブトムシより早くハチが降りてきて、刺されてしまった。

私の点検はかなりいいかげんだが、ハチの巣とマムシ君の存在だけは、押さえておくようにしている。マムシは市町村に血清が用意してあるはずなので、ヤマカガシの方が危険だという人もいるが、ヤマカガシ君は一匹一匹とても個性的なので、点検がむずかしいのだ。

今年7月28日の観察会はあいにく台風になってしまったが、台風の合間を縫っての観察も、意味があるのではないかと、主催の霞ヶ浦市民協会の人が判断して、強行してしまった。

内臓が無いのに元気

クヌギの木の下を少し掘ってみる。落ち葉のふかふかの腐葉土の布団の中に、立派なツノを持つオスのカブト虫ばかりが5~6匹出てきた。ハラにイチモツある人は多いが、不思議なことに、木の下のカブトムシはハラにイチモツもないのだ。

カラスかミミズクか鳥にお腹がきれいに食われていて、口の下あたりから白い繊維状の神経の束みたいなものが3~4㌢ぶら下がっているだけの異様ないでたちで群がって遊んでいる。目も、口も、臭覚も、元気そうなのだ。お腹の部分がまるきり無くなっても目が見えるとはケッタイな。

私は、目と臭覚の点検のために、自分の手に蜂蜜を塗って差し出してみた。カブトムシの足の爪が手の皮膚に痛い。ノコノコと、6匹とも力強く登ってきた。このカブトムシは6匹とも、体の内臓がまったく無いのに、目も、口も、臭覚も、元気そのものだということがわかった。

昆虫の不思議さ。鳥に内臓を食われたのがオスばかりというのも、カブトムシとのつきあいで、メスのたくましさにいつも頭が下がっていたので納得。

人間だったら、内臓が全部無くなったら、目、口、鼻も機能しなくなるのに、すごいと感激して、その晩、カブトムシが人間の幽霊になって出てくる夢を見てしまった。夏の夜の怪談である。(随筆家)