【コラム・相沢冬樹】先月亡くなった知人の葬儀で、故人の好きだったマーラーの交響曲第一番「巨人」を演奏するという弔辞を聞いて、追悼がてら駆けつけた。3日、つくばノバホールで開催の土浦交響楽団「第76回定期演奏会」。新指揮者を迎え、ベートーベンの交響曲第一番と合わせ、交響曲の全楽章をきっちり2曲分演奏するという意欲的なプログラムだった。

指揮者としても名を馳せたマーラーは、作曲の際、楽譜にきめ細かく指示を書き込んだことで知られる。ステージでビオラが右手前に来て、入れ替わりにチェロが中央に入る配置となったのはそのためか、新指揮者の好みなのか、そんなことを気にしながら演奏を聴いた。

ずっと重低音を鳴らし続けるコントラバスと勇ましくトリッキーな音色を奏でるホルンが対照的。バイオリン、木管、打楽器にも聞かせどころがあり、第4楽章終盤でホルンのパート全員が立ち上がって吹くシーンは圧巻だった。マーラーがスコアに記した指示を忠実にこなす場面だったそうだ。

雨漏り対策の大改修に音響工事はない

約1000席の客席はほぼ満員。故人の同級生ら多数が土浦から顔を見せており、幕間に「やっぱりノバホールは音響が違う」と感想を述べていた。常連に聞くと、土響(つちきょう)の定期演奏会は年2回あり、会場はノバホールと土浦市民会館を交互に使ってきた。

「土浦交響楽団なのに土浦に固定できないのは市民会館の音響に問題があるからだろう。僕ら素人でも残念に思うのだから、演奏者の力の入れようまで変わってくるかもしれない」

次の定期演奏会は、順当なら土浦市民会館の番になるが「改修工事で使えないんじゃないか」と朗報のようにいう。音響の改善を期待しての声だろうが、以前土浦市の関係者からは「雨漏りがひどいための改修」と聞いた。音響の改善には建て替えが必要になる施設らしい。

1969年建設の土浦市民会館は開館から半世紀が経つ。土響は昨年40周年を迎えているから、市民オーケストラをはじめとする音楽文化の振興に一定の役割を果たしてきたことは間違いない。

土浦市のホームページ「市民会館の耐震補強及び大規模改修に向けた設計を進めています」によれば、工事期間は2019年1月中旬から20年3月まで、この間市民会館は全休となる。供用開始は20年4月(予定)というスケジュール。主な工事内容としてあげられているのは、耐震補強工事、天井脱落防止対策、トイレの改修、客席の交換、舞台設備の改修、エレベータの設置など。たしかに「音響設備の更新」などの字句は見当たらない。

これで全体事業費23億円。市教育委員会に問い合わせると「耐震補強と老朽化対策だけでも当初の概算は40億円に膨らんだ。財政事情が厳しい折、削りに削って今回の事業規模に落ち着いた。音響設備までに手は回らない」そうだ。やっぱり残念。地方自治の自立と自律を説いた故人に聞かせられない。(ブロガー)