【コラム・中尾隆友】地方からの若者の流出は、短期的には人手不足に悩む地方経済に打撃を与えるのみならず、長期的には地方の出生数減少の加速化を招き、地方の人口減少がいっそう進むという悪循環をもたらしている。地方自治体が若者の流出は止められないと諦めていたら、地方はなし崩し的に悪い方向へと進み続けるだけだ。人口流出を食い止めようと必死の努力をしなければ、多くの自治体が20年後、30年後には破綻の憂き目に遭ってしまうだろう。

私はこの大きな流れを止めるためには、「大企業の本社機能の地方への分散」しかないだろうと考えている(大企業の本社そのものが地方へ移転することが理想だが、落としどころとして地方への分散が現実的であると考えている)。前回のコラムでは、建設機械大手コマツの事例を取り上げ、出生率は飛躍的に引き上げられるという数字的な根拠を示した。大企業が地方で良質な雇用をつくる努力をすれば、それだけで効果的な少子化対策になるというのに加えて、若者の地方からの流出が緩和されることも十分に期待できるのだ。

しかしながら、今現在において本社機能の一部を地方に移すという動きは、トヨタやアクサ生命などわずかな大企業でしか行われていないという厳しい現状がある。実際に、本社機能の地方移転が少子化対策として本質的対策であることは、コマツの事例が明確に示しているはずなのだが、どうしてコマツの取り組みがずっとクローズアップされなかったのか、非常に不思議に思っているところだ。日本の企業経営者もいま一度、地方に目を向けた経営、雇用を考えてみるべきではないだろうか。

たしかに、大企業が自らの利益や効率性だけを考えていたら、本社機能の地方移転などはとても決断できない経営判断であるといえる。だからこそ、政治が何としても少子化を食い止めようという気概を持って、地方移転にチャレンジする大企業を支援する優遇税制などの措置を講じなければ、大企業が地方に興味を示すことはなく、絶対に少子化の問題は解決に向かうことはないだろう。

その一方で、地方自治体が積極的に大企業の本社機能の誘致に取り組んでいく必要もあるだろう。ただし、地方自治体によって各々の特色があるので、相乗効果が発揮できる大企業と地方自治体が協力するのであれば、大企業の方は何も創業地にこだわる必然性はないと思っている。そういった意味では、地方の疲弊が止められるのか、疲弊が進んでしまうのかは、各々の知事の才覚に大きく左右されることは間違いない。

昨年の茨城県知事選では、当時の大井川候補から公約について相談を受けたので、「大企業の本社機能の移転推進」を核にすべきと進言させていただいた。大井川氏の知事就任後、私は彼の「大企業の本社機能の移転推進」に対する本気度を計りかねていたのだが、今では彼の政策の核となりつつあるようで安心している。茨城県の勝負はこれからだ。(経営アドバイザー)