【コラム・冠木新市】5月1日発行の「つくば市議会だより」(第152号)には、「施政方針をただす」として、3月定例会での6派の代表質問が載っている。5会派の質問トップ項目が「まちづくりについて」であり、市議会議員が中心市街地に強い関心を持っている様子がうかがえる。

ほぼ毎日、中心市街地を歩く私にとって、少しずつ変化するセンター地区は映画の光景である。5月1日にオークラフロンティアホテル本館2階に開店した日本料理「つくば山水亭」のプレオープンに参加した。すぐ近くの小野崎に「つくば山水亭本館」があるのに、何故センタービルに出店するのか興味があったからだ。

開店セレモニーの後、挨拶に立ったサンスイグループの東郷治久代表の話で、その理由を知ることができた。昨年12月、オークラホテルの馬場清康社長が訪ねて来られ、出店要請があったそうだ。ホテルに宿泊する外国人を意識するとともに、スタッフの人材が育ってきたこともあり、出店を決めたという。

本館は予約が必要だが、オークラ店は予約無しで入店できる。テーブル39席、お座敷3室。内装は和風モダンで統一され、壁に飾られた大きな扇が印象的。日本酒「徳正宗」を飲み、「筑波御膳」に舌鼓を打っていたら、ふいにローラン・カサール氏の記憶がよみがえった。

ローラン氏とは、映画『シェルブールの雨傘』(1963)に登場する脇役の人物である。港町の傘屋の娘と自動車整備工の悲恋を描くこの作品は、全編のセリフが歌になっていて、原色を強調した衣装とセットが華やかである。

監督はジャック・ドミュ、音楽はミシェル・ルグラン。画面はきらびやかだが、お話は切実だ。男は2年間の徴兵でアルジェリアに旅立つ。女は母親が経営する傘屋の税金で破産の危機。そんな母娘の苦境を偶然知り、救いの手を差し伸べるのが宝石商のローラン氏。男の子を妊娠しているのを承知でプロポーズ、結婚式を挙げる。

公開時、私は、経済力のあるヒゲのローラン氏と娘を演じたカトリーヌ・ドヌーブが好きになれず、同じ世界観で作られた別の物語『ロシュフォールの恋人たち』(1966)も、前作の印象が残り素直に楽しめなかった。

ところが、『シェルブールの雨傘』上映後30数年が過ぎ、『ローラ』(1960)なるモノクロ作品が公開され仰天した。主人公はローラン氏で、一人息子を育てるダンサーのローラに失恋するお話。なんと、人物再登場法の港町3部作だったのである。『ローラ』を見てから『シェルブールの雨傘』を見ると、1作目で失恋したローラン氏が幸福になったお話に変化してしまうのだ。印象がまるで違う。

何故このキャラクターを思い出したのか。傘屋の母娘を救うローラン氏につくば市議の姿が重なったからだと思う。市議には、施政を問いただすだけでなく、会派で考えた中心市街地のビジョンとアイデアを語って欲しい。と、団員に話したら「私たちにもアイデアを示せと言われそうですね」とつぶやいた。サイコドン ハ トコヤンサノセ。(脚本家)