《続・平熱日記》13 うちカメと38度線をまたぐ将軍


【コラム・斉藤裕之】うちにはカメがいます。人家から離れた近所の林の中で愛犬のフーちゃんが発見して、上着のポケットに入れて連れ帰ったカメ。ペットショップに立ち寄った折に、ロシアリクガメという種類ということが分かりました。

そのお店ではヒーターのあるケースで飼われていましたが、うちのカメは甘やかさずに屋外で飼っていたら、秋のある日土の中にもぐり込んだので、そのまま冬を越させることにしました。ロシアと名前に付いているからには、寒いのには強いはず。半年後の春、元気に土の中から蘇ったときは、「よう生きちょった」とほめてやりました。

あれから何度、冬を越したでしょう。もうポケットには入らないどころか、片手でつかみ上げるのに苦労するほどの大きさになりました。

しかし、カメの身体能力は驚くべきもので、前足の爪が届けば塀をよじ昇り、隙あらば穴を掘って脱走しようとします。今まで3回ほど脱走したこのカメは、アメリカの脱獄ドラマ「プリズンブレイク」の主人公にちなんでスコフィールド(通称スコちゃん)と名付けられました。

今は畳一枚ほどの広さの柵の中で暮らすスコちゃん。カメにしては豪邸のような気もしますが、どうも外に出たいらしく柵をよじ登ろうとしています。なぜ?えさを求めて?異性を探して?

いや、スコちゃんは明らかにこれを檻として、人為的なる障害物として認識しているのだと思います 。スコちゃんは自由になりたいだけなのです。もしも柵のない場所に放したら、案外そこら辺をうろうろしているだけで遠くには行かないのかもしれません。

さて、こちらは柵もないのに長い間超えることのできなかった例の38度線。人が引いた何とも不幸な目に見えない線。将軍様がその線を越える姿は人々の目にどう映ったのでしょう。私がその映像を見た時、奇妙なことにスコちゃんが38度線を悠々とまたぎ超えていく姿をリアルにイメージしていました。

いささかシュールではありますが、万年生きるというカメの「国境我関せず」といった感じの悠然とした歩みと、演出されたかのように微笑み合う2人の人間の歩みが、対照的に映ったのでした。専門家の皆さんはいろんな分析と予測を語られますが、とりあえず平和な方向に事が進むことを願うばかりです。

新緑の候、気温の上昇とともにスコちゃんの食欲は旺盛に。直売所で買ったカブの葉っぱをムシャムシャと食べております。私の感想をもう一つ。将軍様、ちょっとお痩せになった方がいいですよ。(画家)