【コラム・坂本栄】事務次官のセクハラ発言や国有地の不正処分で財務省が袋だたきに遭っている最中、「大蔵省(財務省の前身)のドン」と呼ばれた長岡実氏が逝去した(4月2日、93歳)。訃報の主な経歴は、事務次官、東京証券取引所理事長、日本たばこ産業(JT)社長。トップ官庁の事務方トップを務め、大蔵省の「出先」でもあった東証とJTのトップも務めたわけだから、まさに首領だった。

私が時事通信の証券部長だったとき(長岡氏は東証理事長)、大蔵省・東証とバトルを演じたことがある。この話はこれまでマル秘にしてきたが、長岡氏も亡くなったことだし(当時の時事の社長も既に死去)、トップ官庁の傲慢さを示す例として「解禁」する。

このコラムの10回目でも触れた、証券電子メディア(商品名PRIME)の開発統括者だった時のこと。プロジェクトが最終段階に差し掛かったころ、端末を発注していた電子機器メーカーの社長が突然やって来て、受注契約をキャンセルしたいと言ってきた。

この申し出には社長も驚き、体調が悪かったこともあり激怒。機器メーカーにとっては良い案件なのに何故キャンセルなのか、既に多額の投資をしている計画が狂う、プロジェクトが失敗するかも知れない―など、疑問、懸念が渦巻いた。

メディアビジネスに介入

そして私に密命が下った。どうしてキャンセルを言ってきたのか探れ、プロジェクトは計画通り進めるから対応策を考えよ、と。

調査結果は、▽大蔵省は、時事の証券電子メディア参入が好ましくないと考えている▽その意を受けて東証は、同所の電算システム開発を担当している電機メーカー経由で、子会社の電子機器メーカー(上場会社)に時事の発注を断れと指示してきた、という驚くべき背景だった。

時事の新メディアがどうして歓迎されないのか?調査に苦労したが、①時事は先行の金融電子メディア(商品名MAIN)で為替市場に強い影響力を持つ(当局からすれば攪乱している)②時事が新メディアを出せば、大蔵省と某証券会社が事実上コントロールしている証券市場が混乱する―と当局が考えていることが分かった。

つまり、市場に波乱を起こすであろう、新メディアは歓迎できないということだった。見出し風に言えば、「傲慢な大蔵省による不当報道介入」か。

私は東証の担当部長を茶店に呼び出し、「2~3週間後、PRIMEリリースについて記者会見を開く。発表後も妨害を止めなければ、大蔵省・東証の『策謀』を経済誌にリークする」と、時事の対応策(実は私の思い付き)を示し、東証を威嚇した。

これが効いたのか、翌日、東証の役員が飛んで来て、妥協案(販売端末の数を制限するという密約)を提示してきた。社の専務は混乱したが、私は密約を呑むよう主張(いずれ反古にすればよいと思っていた)、東証とのバトルは決着した。その後、主要社証券担当部長と東証幹部との懇親会があり、私と顔を合わせた長岡氏、ニヤリ。(経済ジャーナリスト)