【コラム・及川ひろみ】今年は藤の開花も例年より随分早まりました。花の時期は逸しましたが、今回取り上げるのは「藤のすさまじい生命力」についてです。美しい花を咲かせる藤ですが、実は林の木々の立ち枯れの原因となる「恐ろしい絞め殺しの木」です。

林の林床に育つ藤の細いツル。藤は樹上の木の枝を目指しツルを伸ばします。その姿はツルの先端に目でも付いているのかと思うほど、遠く離れた枝や木にも到達します。ツルが届いたら、太陽の光を求め上へ上へと、蛇のように木に絡み付きながら登って行きます。地下からの養分、光合成による養分を基に、どんどん成長していきます。直径15㎝ほどの太さの藤。切ってみると年輪8年、成長の速さにびっくりです。

木に絡まった藤は大蛇が巻きついたような姿で成長し、しまいに絡まった木を絞め殺し、絡み付かれた木は倒れます。しかも、同時に地面に倒れた藤は次の狙いを定め、這い登ります。藤は枝を隣の木、そのまた隣の枝へと広げ、しぶとく生き続けます。遠目で荒れた林に見える所は、藤による立ち枯れが起こっていることがよくあります。

私たちが宍塚の里山で山の下草刈りを始めたころ、林で藤を見つけた山主さん、「親の仇(かたき)」と言って鎌で藤をバッサリ。樹木を枯らす藤は、林の大敵、出合ったら容赦なく伐(き)るのだと聞きました。その後、山の下草刈りをしていると、藤の若い芽が林床至る所に見られました。藤の根が山全体に広がり、いつでも成長できるのを実感しました。藤の根をすっかり取り除くのは至難の業です。

山だけではありません。五斗蒔(ごとまき)谷津の奥、湿地が広がる所にも藤の根が縦横無尽に広がっています。浅い水場であれば難なく広がり、水の中に根を伸ばしています。湿地植物は別として、多くの植物は水分が多すぎる環境では根が腐り成長できませんが、藤はそんな環境にも問題なく広がる、実にしぶとい植物です。

さて、その藤。美しい花の後にはソラマメのさやを細くしたような種ができます。藤の花は房になって咲きますが、その花の中で数個がさやを作ります。さやはその後20~30㎝ほどに伸び、中を開けると赤茶色のマーブルチョコレートをつぶしたような種がソラマメ状態で並んでいます。

そのさやがすっかり乾燥する冬、パーンと耳をつんざくような大きな音を立ててはじけ、種を遠くに飛ばします。冬の夜、里山でパーン、パーンと澄んだ音が鳴り響きます。昔、夜の森に入ることを恐れたわけは、不気味なこんな音にもあったのかもしれません。(宍塚の自然と歴史の会代表)

ノダフジのアップ