《土着通信部》11 花開くお江戸のボタニカルアート

展示の説明をするつくば分館の専門員、岡本詩子さん

【コラム・相沢冬樹】モリトモやら自衛隊日報やら、公文書の扱いがクローズアップされているタイミングで、能天気にも国立公文書館つくば分館(つくば市上沢)まで花を見にいった。お目当ては「花さんぽ~古書にみる江戸の花」という春の企画展である。

なにせこういう機会でもないと、国立公文書館の存在に触れることがない。各官庁での保存期限が過ぎた公文書の移管先で、利用請求に応じ閲覧に供する機関(内閣府所管の独立行政法人)だが、一般向けの重要公文書はほぼ東京・北の丸公園の本館に置かれている。1998年開館のつくば分館はバックヤード的な位置づけの書庫になっており、なぜそこで江戸時代の園芸書が見られるのか興味を持った。

江戸幕府が紅葉山文庫や昌平坂学問所で所蔵していた古文書・古書類は、明治新政府に引き継がれた。国立公文書館が1971年に開館するまで、内閣文庫として所蔵されていたものだ。多くが漢文で書かれた文字資料だが、一部図録があり、植物、特にさまざまなスタイルで描かれた花の絵画が一群をなしていた。薬用植物を体系化した、いわゆる本草学のための植物図鑑だったり、御用絵師が市井の風俗を書き留めた資料だったりする。これらを再構成して見せるのが今回の企画展である。

まとめ役は同分館の専門員、岡本詩子さん。「江戸時代にもお花見は庶民の楽しみだった。ソメイヨシノではないけれど道灌山で花見をしている絵柄などがある」と四季折々の花の楽しみをとらえた歳時記の構成から展示を組み立てた。

江戸城本丸が焼失した天保15年(1844)の火災で失われた襖絵の下絵なども探し出してきた。狩野永悳の筆になる「柳営御白書院虎之間新御殿後休息伺下絵」、春夏秋冬に分けて描かれた絵のなかから、春の桜と秋の紅葉の部分を複写してパネル展示する。

本草学関係の資料は特に充実している。18世紀初頭までにまとめられた『庶物類纂(しょぶつるいさん)』(稲生若水・丹羽正伯編)は今でいう博物学の書誌だが、薬草について戸田祐之が描いた写生画集『庶物類纂図翼』が安永8年(1779)に刊行された。これが草花をデティールまで精密に描写したボタニカルアートそのもの。手描きで彩色しており、国の重要文化財になっている。

これらの図鑑を教養書として、江戸の園芸文化は幕末期に庶民生活のなかで花開く。なかでもアサガオは品種改良が盛んに行われ、黄色の花の図画も残っている。文化14年(1817)出版の「あさかほ叢(そう)」に見られるが、のちの再現をことごとく拒む「幻のアサガオ」となった。産学共同の研究グループが取り組み、キンギョソウ由来の遺伝子を機能させることによって、やっと黄色い花を咲かせることに成功したのは、2014年になってのことだった。(ブロガー)

▽「花さんぽ~古書にみる江戸の花」展は21日まで、入場無料。電話029(867)1910