【コラム・室生勝】厚労省は2011年度から、在宅医療を提供する機関などを拠点に、多職種協働による在宅医療の支援体制を整える在宅医療介護連携拠点事業をスタートさせた。14年度には、地域医療介護総合確保基金を各都道府県に設置し、在宅医療に取り組む意欲がある診療所への財政支援制度を導入した。

さらに15年度から、各市町村が地域医師会と協力して、在宅医療介護連携推進事業が始まっている。しかし、地域住民にはこうした支援体制の広がりが実感できないようだ。

県南市町村の住民に尋ねたが、ケアマネジヤーと主治医との話し合いが少ないのか、在宅医療と介護が連携したサービスを得ることは難しいようだ。また、一般的な在宅医療も認知症の在宅医療も、個々の診療所間であまりにも差がありすぎるという話だ。

地区医師会は、厚労省が事業を実施している間は各診療所の在宅医療を支援してきたが、事業終了後、引き続き組織的に取り組んでいる医師会は少ない。

この4月に、6年に一度の診療報酬と介護報酬の同時改定があった。次回の同時改定は、団塊の世代(1947~1949年生まれ)が75歳以上になる2025年の1年前である。

今回の診療報酬改定は、在宅医療を主として実施する在宅療養支援診療所(設置基準が厳しいが報酬は高い)を届け出ていない一般診療所のみが算定できる診療報酬として、在宅時医学総合管理料に継続診療加算が新設された。ただし、ほかの医療機関と連携して24時間の往診・連絡体制が要件となっている。

在宅医療を実践する診療所に診療報酬というインセンティブを付与しないと、在宅医療を実践する診療所が増えないのが実情だ。

診療報酬以外の「住民からの期待」「やるべき価値がある」というインセンティブで、在宅医療を実践している医師はいる。介護保険制度創設以前に在宅医療に取り組んでいた医師たちは、「社会的使命」として複数の診療所同士が助け合いながら24時間・365日に対応していたのだ。

この診療報酬改定を契機に、在宅医療を実践する診療所が増えてくることを期待したい。さらに、地域包括ケアシステムでいう「多職種協働」によって継続的な在宅医療や介護、生活支援が提供されることが望ましい。

だが、現実には多くの医師が多職種の中に医師は含まれないと思っているため、他の医療職や介護・福祉職を「上から目線」で対応する傾向がある。この医師の意識が、連携を阻む要因になっている。

「地域包括ケアシステムの姿」は、真ん中の高齢者を、回りの医療、介護の多職種と生活支援・介護予防を担う老人クラブ・自治会・ボランティア・NPOなどが連携して支えていることを示している。(高齢者サロン主宰)