【コラム・先﨑千尋】今、水戸市千波町の県近代美術館で、企画展「英国キュー王立植物園 おいしいボタニカル・アート 食を彩る植物のものがたり」が開かれている。私は絵心がないので、ボタニカル・アートとはどんなものかを知らなかった。本によれば、ボタニカルとは日本語では“植物学の”、アートは“芸術”だから、ボタニカル・アートとは「植物学的な絵=植物画」という意味になる。

「植物のありのままの姿を、誇張を交えずに、正確に、細密に表現し、かつ鑑賞に堪える芸術性をあわせた絵画」だそうだ。そう言われても、実際に見てみないと分からない。

この企画展は、キュー王立植物園が所蔵する作品や個人コレクションを主体に構成され、食用植物を題材にした18~19世紀のボタニカル・アートとともに、英国の食文化を伝えるティー・セットや家具、18世紀ごろの古いレシピやヴィクトリア王朝期の主婦のバイブル「ピートン夫人の家政読本」など、約190点が展示されている。

これらによって、この時代に貿易大国として世界に君臨した英国の食の歴史や文化、生活様式が分かるというものだ。同植物園は、18世紀に王室の宮殿に併設した庭として始まり、現在は世界有数の植物や菌類の研究機関でもある。

五感が刺激される不思議な絵 

会場に入ると、リンゴや洋ナシ、ザクロなどの果物やカブ、キャベツなどの野菜、紅茶やコーヒー、チョコレートの原料となるカカオ、ハーブやスパイスなど、私たちが日ごろ口にする食べ物や飲み物になる植物が目に飛び込んでくる。写真と見間違うほど、正確、精密に描かれた絵だ。

普通の絵だと、日本画でも西洋画でも、描く人の個性によってどこを強調するかがはっきりしており、見る人にもそのことが分かる。しかしボタニカル・アートはそうではなく、あくまでも対象となる野菜や果物を、主観を交えず正確に描写することに力点が置かれる。1枚の絵の中に葉の裏表や果実の内部などが綿密な手わざで描かれ、実物を見ているような気分になる。果物や野菜、花などが生きているのだ。手に取ってみたくなる。

写真とは違い、生命の力強さを感じる。描き手には、例えば、花びらの数、おしべ・めしべの形や数、茎に葉がどのようについているか、とげや毛があるかなどを注意深く観察することが求められる。ボタニカル・アートは「科学と芸術の融合」だそうだが、展示されている作品を見ていると、私の五感が刺激されてくる。

NHKの朝ドラ、植物学者・牧野富太郎をモデルにした番組を思い出した。牧野は収集した植物を、時間を置かずに描き、残した。全体図だけでなく部分図も多く描き、まるで解剖図のようだった。牧野は画家ではなかったが、誰にでもできる技ではない。同館では、昨夏の「土とともに 美術にみる<農>の世界」に続く好企画だ。(元瓜連町長)

ボタニカル・アート展は4月14日まで(月曜休館)。電話029-243-5111(同館)。