【コラム・阿竹茂】現在、茨城県には救命救急センターが6カ所、高度救命救急センターが1カ所あります(図1)。救命救急センターの役割は「重篤患者に対する高度な専門的医療を総合的に実施することを基本とし、重症および複数の診療科領域にわたるすべての重篤な救急患者を24時間体制で受け入れること」です。

筑波メディカルセンター病院は、1985年に開催されたつくば科学万博に合わせ、県内2番目の救命救急センターとして設置されました。地方の救命救急センターとして、軽症から重症患者まで幅広い救急医療だけでなく、ドクターカーによる病院前救急医療、死後CT検査による死因究明のほか、災害時の救急医療も行ってきました。

図1

自家用車での救急外来受診も 

救急搬送される患者さんは、2022年には約 5000件に上り、うち1300件(全体の26%)が救命救急センターの集中治療室に入院しました。主な傷病は、急性心筋梗塞や心不全などの心疾患、重症外傷、脳血管障害(脳出血、脳梗塞)などです。

重症患者は救急車で搬送されるとは限りません。自家用車で来院して、救急外来を受診する方(walk in)の中に、急性心筋梗塞、脳卒中、重症感染症など、重症かつ緊急性の高い患者さんがいます。筑波メディカルセンターでは、緊急性の高い患者さんに迅速に対応し、来院後~診察の間に急変することを未然に防いでいます。

ドクターカーによる救急医療 

2012年から乗用車型ドクターカーの運用を始め、2022年にはドクターカーで786件出動し、240件の病院前診療を行いました。ドクターカーは消防署からの要請で出動し、救急車の救急隊と連絡を取りながら、現場や搬送途中で合流し、派遣された医師・看護師が診療を行います(図2)。

救急隊では行えない検査・処置・投薬を行うことで、傷病者の状態悪化を防ぎながら病院に搬送しています。急性心筋梗塞や重症外傷など、緊急性の高い傷病者の場合は、ドクターカー医師からの連絡によって、病院で対応するスタッフの招集や治療の準備を早期に始めることができます。

死後CT検査による死因究明 

筑波メディカルでは、救急外来での死亡確認症例のほぼ全例について、死後CT検査を行っています。来院時心肺停止の症例の多くは、救急外来で死亡確認を行います。2022年の外来死亡症例は149人で、死因究明のために141人(全体の95%)の死後CT検査が行われました。

特に目撃のない心肺停止の症例は経過が明らかでないため、死亡原因が不明となることがありますが、死後CT検査で急性大動脈解離や脳出血を認め、死因と診断できることがあります。目撃のある心肺停止でも、急性大動脈解離による心肺停止は通常の心肺蘇生法では救命できないため、新たな方法が必要となります。死後CT検査による死因究明が進むことで、急変時の対応方法が変化していく可能性があります。

災害拠点病院と救急災害医療 

救命救急センターを有する県内の病院はすべて災害拠点病院となっており、災害時医療の準備や訓練を行っています。筑波メディカルセンターでは、救命救急センターの医師や看護師が、災害医療派遣チーム(DMAT)の主な構成メンバーとなっています。

東日本大震災(2011年3月)、つくば竜巻災害(2012年5月)、常総市水害(2015年10月)では、筑波メディカルセンターは DMATの活動拠点となり、救急災害医療活動を行いました。今年1月に起きた能登半島地震では、3次隊として茨城DMAT15チームが被災地に派遣され、筑波メディカルセンターのDMATも珠洲市で活動しました。(筑波メディカルセンター病院 救命救急センター長)