【コラム・原田博夫】税制に求められる原則は、標準的な経済学では公平性と中立性(効率性)である。公平性とは、税制上同等(同じ所得)とみなされる人は納税でも同等に扱われるべき(同等の税額)であり、税制上異なる(異なる所得)とみなされる人は納税でも異なって扱われるべき(異なる税額)だ―というものである。前者は水平的公平で、後者は垂直的公平である。これはとりわけ所得税では、重要である。

中立性とは、租税制度の有無・濃淡によって、納税者の経済行動に変化が生じないことが望ましい、というものである。つまり、税制は、各経済主体のそれぞれの本来的に合理的・自由な活動が税制によって恣意的に左右されないように制度設計・運用されるべきだ―という意味である。経済活動の多くが法人によって担われていることからも、法人税ではこの原則は重要である。

この2大原則は政府税制調査会の答申『わが国税制の現状と課題』(中里実・会長、2023年5月)でも冒頭に謳(うた)われているが、実態を見ると、とりわけ中立性の原則については、運用面では違和感がある。

たとえば、国税庁保有行政記録情報の整備に関する有識者検討会(21年10月にスタートした、25年1月からの税務データの公開に向けた取り組み)における、国税庁保有行政記録情報を用いた税務大学校との共同研究である土居・別所・森「法人税申告書の個票データ(14~20年度)を用いた欠損法人等に関する実態分析」(https://bit.ly/NTCdp2)から探ってみよう。

この間(14~20年度)のわが国法人税の全体状況は、①資本金1億円以下の法人では法人所得0円(税制上欠損法人扱い)に集群(バンチング)している、②7年とも欠損法人は全法人(14年度259万、20年度277万)の37%、③7年とも利益法人は全法人の14%、④法人税500円超の法人は全法人の5%で、その10%弱が資本金1億円超法人で、その納税額は法人税額全体の95%、などである、⑤欠損法人割合は全法人では6割強で、資本金1億円以下の法人では6割強だが、資本金1億円超の法人では約25%である―。

企業活動を恣意的・不連続に左右

ここまでは概(おおむ)ね、これまでも指摘されていたことの再確認だが、この個票データ分析で明らかになったのは、(1)法人所得0円の法人の動向である。14年度では欠損法人167万のうち71万、20年度では欠損法人168万のうち63万で、全法人の25%に及んでいる。さまざま経済活動の結果、法人所得0円もありうるが、その割合が全法人の4分の1に及ぶのは、異常ではないか。

(2)税制上優遇措置となる資本金1億円に着目すれば、この間に資本金1億円以下に前年から減資した法人割合は、14年度は全法人4%、利益法人3%、欠損法人6%、外形標準課税法人4%だが、20年度は全法人5%、利益法人3%、欠損法人11%、外形標準課税法人6%、に増えている。この変化は、この間の経営悪化に伴う欠損法人化も影響しているが、10年代半ばの法人税改革で、資本金1億円超の法人への外形標準課税(事業税付加価値割・資本割)の拡大が、影響(租税回避)している可能性がある。

いずれにせよ、現行の法人税制は、企業活動に中立的というよりは、企業活動を恣意的・不連続に左右していると見るべきである。経済学の租税原則も、より実態に即したものでなくてはならない。(専修大学名誉教授)