【コラム・田口哲郎】

前略

オールド・ボーイズ・ネットワークという言葉をご存知でしょうか? ウィキペディアによると「男性中心の組織文化や人間関係などを表す用語である。オールド・ボーイズ・ネットワークが強固な組織では、男性中心の独特の閉鎖性・排他性によって多様性が失われ、女性の活躍やイノベーションが阻害される。そのため、日本では2020年頃から見直す機運が高まっている」ということで、いわゆる男性中心社会を表す言葉です。

先日、元日本IBM取締役の内永ゆか子氏の講演を聞く機会があり、そこで初めて知りました。

内永氏がおっしゃるには、オールド・ボーイズ・ネットワークは、同じ経歴、同じ成功体験、同じ失敗体験、つまり同じ価値観を生きてきた男性の集まりのことだそうです。つまり男性のみの学閥や派閥などいわゆるエリート集団です。いままでその知的優位と結束力の強さで、資本主義経済を主導し、近代社会の経済的繁栄を築いてきました。

そもそもこの組織は欧米で生まれ、明治以降に日本に入ってきて、いまや日本はこのネットワークが欧米に比べて強固だそうです。日本社会を眺めてみると、このオールド・ボーイズ・ネットワークに支配されている組織やシステムが多いことに気づかされます。

一枚岩が切り崩される現状

さて、現在、世界はグローバリゼーションが席巻し、今までの価値観が覆される事態になっています。その激変の時代にあって、オールド・ボーイズ・ネットワークへの風当たりは強いようです。

価値観を変えるのは簡単ではありません。価値観が一枚岩みたいにみんな同じだと、多様な考え方の波に対応するのはほぼ不可能でしょう。しかも、いまは一枚岩ばかりが一流で頑丈なのではなく、多様なベンチャーでも大岩を切り崩せる時代です。要するに、ひと握りの男だけの集団が世界を牛耳り、価値観を押し付ける社会が終わろうとしています。それは弱者が抑圧から解放される良いことなのです。

しかし、いままで社会の隅々までをがんじがらめにしていた枠組みが外れるのですから、不安や衝突が生じるでしょう。個々人が自由に生きなければならないアフター・コロナの時代に人びとの心を支える価値観をどうつくってゆくのか、考える時がきているのかもしれませんね。

イエ制度や地域コミュニティが崩壊した現在、人々が安心するために緩やかにつながれる、いわば共通の新しいイエが求められているように思えます。ごきげんよう。

草々

(散歩好きの文明批評家)