【コラム・原田博夫】10月下旬、韓国ソウルを訪れた。ソウル国立大学アジアセンターSNUAC・政治社会学会ASPOS共催の国際コンファレンス(10月27日)に参加・発表(基調講演)するためである。コンファレンスのテーマは、“Digital Globalization and Its Unequal Impacts on East Asia: Platform Economy, Migration, and Democracy(東アジアへのデジタル・グローバリゼーションの不均等な影響:プラットフォーム経済、移民、民主主義)”だった。

政治社会学会ASPOSは2010年3月に発足し、第1回研究大会(2010年10月)を早稲田大学で開催している。私自身は創立メンバーで第2代理事長だが、この国際コンファレンスは当初から、韓国SNUACと日本ASPOSが交互に隔年で開催してきた。コロナ渦の2020年・21年は開催を見送ったものの、2022年に同志社大学で再開したのに続いて、今年はソウルでの開催になった。

参加者は日韓に限定せず、今回でいえば、モンゴル、台湾(香港出身)、フィリピン(東洋大学に在籍)などもいたが、この会議の特徴はあくまでも個人資格での参加なので、所属国・機関の立場・主張を代弁するものではない。この継続には、カウンターパートの韓国SNUACの創立所長であるヒュンチン・リム名誉教授・韓国科学アカデミー会員の強力なリーダーシップと先見性が貢献している。

VUCA時代にはGDPを超えて

私の基調講演は“Political Economy in 21st Century: In the Age of Volatility, Uncertainty, Complexity, and Ambiguity(21世紀の政治経済学:変動、不確実、複雑、多義=ブーカ=の時代)”で、(この頭文字を取った)「ブーカ(VUCA)時代にはGDPを超えて」が趣旨だった。

併せて私は、OECD(経済協力開発機構、1961年創設、日本は1964年から、韓国は1996年からメンバー国)のWorld Forum on “Statistics, knowledge, and Policy(統計、知識および政策に関する世界フォーラム) ”(第1回は2004年にイタリアで)を韓国は2回開催していること、第7回は2024年にWorld Forum on ”Well-being: Approaches for a Changing World(ウェルビーイング(安寧)に関する世界フォーラム:変化する世界へのアプローチ)”と名称を変えてイタリアで開催予定(2回目)だが、日本では一度も開催していないことを指摘した。

今回の会議で印象に残ったのは、台湾の国立政治大学・客座教授の陳健民氏の発表だった。香港出身の彼は、2014年雨傘運動のリーダーでもあった。今回の参加者には(私を含めて)戦後ベビーブーム世代もいたが、雨傘運動の経緯と顛末(てんまつ)には同情を禁じえなかった。陳氏の遠くを見るまなざしと深い悔悟の念に、心が揺さぶられた。

ソウル市内は韓国車が8

ところで、文京町便り2021でインドネシアとベトナムの交通事情を語ったので、韓国(ソウルに限定)の自動車事情も補足しておく。ただし、これは、あくまでも私の数日間の滞在中の観察に基づく印象であって、データに基づくものではない。

何にせよ、日本車が少ない。6割以上がヒュンダイ(現代自動車)で、傘下のキア(起亜)も含めると、8割が韓国車。外車は、ベンツ・BWMなどで2割程度。日本車は、トヨタを数台見かけたほかは、日産・ホンダは皆無に近い。このうちどれだけがEV車かは、私の乏しい識別能力では判別できない。

とはいえ、再び日本再上陸を進めているヒュンダイ戦略の今後が気になるところではある。(専修大学名誉教授)