【コラム・小泉裕司】再来年の2025年、「土浦の花火」は100年を迎える。1925年9月、神龍寺(土浦市文京町)住職の秋元梅峯和尚が、霞ヶ浦湖畔で開催した「土浦町全国花火競技大会」がルーツ。当時も今と同様、全国から花火師が集ったという。

山本五十六元帥も関係? 

この花火大会は、霞ヶ浦海軍航空隊殉職者の慰霊、秋の収穫への感謝や商工業の活性化が開催の趣旨とされている。長岡花火(新潟県)を見て育った山本五十六元帥が航空隊に副長として着任し、神龍寺山門近くに下宿していた時期と重なることから、資料としては確認されていないものの、彼が大会誕生に関わりがあったとしても不思議はない。

戦争や水害、天皇の崩御、最近では連続した花火事故、コロナ禍などによる中止や中断を乗り越えながら、11月4日(土)に第92回大会を迎える。これまで、大会の発展に尽くした先人の優れた知恵や計り知れない苦労があったに違いない。

戦後の大会の再開と発展に貢献したのが、北島義一氏(元土浦火工㈱社長、1908~79)。数々の競技大会で優秀な成績を収めるなど、花火技術の発展に寄与すると同時に、後進の育成にも力を注いだ。義一氏の教えは、山﨑芳男氏(山﨑煙火製造所会長)や今野正義氏(㈱北日本花火興業会長)など、その後の日本花火をけん引する花火師達に引き継がれている。

20回目の内閣総理大臣賞

毎年、大会に前後して、義一氏とゆかりのある煙火業者の面々が神龍寺の北島家の墓所を訪れ、墓前に白菊が手向けられる。その姿を、大会の始祖・梅峯和尚の銅像がかたわらから見守る。もちろん、筆者も大会前後に神龍寺を訪れ、大会の安全を祈願して両所で手を合わせる。

2000年から授与され今回で20回目の「内閣総理大臣賞」には、こうしたご縁に導かれた経緯がある。そもそもは1961年にさかのぼる。この年から、義一氏の努力により「通商産業大臣賞」が授与されることになったが、俯瞰(ふかん)的視野の義一氏の後押しがあって、1964年から大曲花火(秋田県)にも同賞が授与されることになった。

時は流れ、2000年。大曲に「内閣総理大臣賞」が授与される際には、通産大臣賞の恩返しとばかり、大曲から国への働きかけによって、土浦にも授与されることになったという。まさに同志としての「友情物語」が、両大会の発展の礎になっていることは間違いない。

筆者提供

10号玉、創造花火、スターマイン

土浦全国花火競技大会は、打ち上げてから消えるまでのわずか10秒前後の間に幾重もの同心円を描く「10号玉」、花火師のクリエイティブなセンスと新技術が楽しめる「創造花火」、夜空を千紫万紅に彩る「スターマイン」の3部門に分かれて、優勝を目指して競技が展開する。

各部門の優勝者の中から、最も優れた作品を打ち上げた業者に、花火師最高位の名誉である内閣総理大臣賞が授与される。技術力、芸術性、創造性、品質性などで日本最高峰の花火作品が、晩秋の澄んだ夜空に集結する。花火師にとっては、今年1年の集大成とも言うべき頂上決戦が始まる。

今年から審査標準玉を変更

さて、大会進行で変更となる点、注目すべき作品や煙火業者を紹介しよう。まず、競技開始の直前に打ち上げる「審査標準玉」が今年は変更となる。昨年まで、芯が2つ、全体で3つの円を描く10号玉割物「八重芯変化菊」を採用していたが、今年からは芯が3つ、全体で4つの円の「三重芯変化菊」を採用する。

八重芯が初めて登場したのは1928年と歴史も古く、今年の八重芯出品は1玉となっており、妥当な変更といえる。むしろ遅すぎた感も否めない。審査員長が採点した標準玉の点数を参考として、以後89作品の審査が行われるのだが、例年は70点中盤がアナウンスされる。そのわけは、ここで高得点を付けると、実績豊富な業者が登場する後半の採点の際、大いに困ることになるから。

10号玉の注目は、6業者が挑戦する「五重芯」だろう。まさに匠(たくみ)の技。完璧な6つの真円を描いた作品が優勝に最も近いといえるが、目視できなければ意味がない。すべて手作りで作られる粋な花火に、ビデオ判定などもってのほか。

ハートや動物の「型物」に注目

今年の創造花火は、「型物」に注目したい。「型物」は、たとえば、ハートや動物の形などを模した2Dの世界なので、審査員に意図した形が見えるどうかがポイント。今年は「型物の神」と言われる㈱北日本花火興業(秋田県)、㈱芳賀火工(宮城県)、北陸火工㈱(石川県)の女性花火師の作品が要チェックだ。

スターマインの最近の傾向は、レギュレーション(規定)の400発をめいっぱい打ち上げる「スターマインの土浦」ともいわれる「迫力系」と、1玉1玉をじっくり見せる「しっとり系」に分かれる。いずれにしても、すべての作品が音楽付きなので、曲と花火のマッチングが優劣を決めることになる。

打上げ時は人の前を歩かない!

最後に、有料観覧席で見る皆さんにお願いがある。花火が打ち上がっているときは、人の前を歩かないこと。作品は、上空、中空、低空を効果的に、まさに生け花のごとく描き出す。これからという佳境に、「あなたの顔は見たくない」。

花火の公式パンフレットで、作者のコメントを読みながらイマジネーションを膨らますのもよし、何も考えず、ただひたすら音と光の世界に没頭するもよし-。花火の楽しみ方は、それこそ自由。

私は、東京高円寺にある「気象神社」から木箱入りのお守りを取り寄せた。どうか御利益がありますようにと安全祈願。恒例の「打ち留め-」は、大会終了まで、「おあずけー」「ドン ドーン!」。(花火鑑賞士、元土浦市副市長)