【コラム・斉藤裕之】9月半ば、何を勘違いしたのか、私のことを師匠と慕う女性が作品を発表するというので、長野県千曲市のギャラリーをまたまた訪れた。彼女はインドの神様を描く。テーマも画風も私とはほぼ関係がない。

その彼女がなぜ私をして師匠呼ばわりするかというと…。瓦職人である旦那さんの仕事を手伝っているときに、いつも少しだけ余る漆喰(しっくい)をいつも勿体(もったい)ないと思っていたらしく、私の作品を見て漆喰に絵を描いてみたのがきっかけという。人間はずっと昔から漆喰に絵を描いてきたのだから、私が師匠呼ばわりされる筋合いはないのだが。

とにかく、漆喰の取り持つ縁で新たな出会いもあり、夕方からはギャラリーから徒歩3分のところにあるログハウスのレストランでの宴(うたげ)となったわけだが、このレストランのオーナーがかの美学校で赤瀬川原平氏の講義を受けていたというのにも驚いた。

千曲から帰った翌朝、私は斜度30度ののり面の草刈りをしていた。この数年請け負ってきた知り合いの打ちっぱなしゴルフ場での小遣い稼ぎ。

それにしても、今年は彼岸も過ぎようというのに、なんだこの暑さは。近頃は空調服とやらがあって、たいそう涼しいそうだが、私は吹き出す汗さえも自然の循環だと思っているので、Tシャツが重くなるほどの汗をかきながら草を刈る。

多分、こういうじいさんが熱中症にやられるんだろうなあ。大体「きりのいいところまで」というのが危ない。きりのいいところは、得てして「ちょっと無理したところ」にあるものだ。だから、少し手前の中途半端なところでもやめるようには心がけてはいるんだけれど。

愛犬パクはマヨねえに頼んで

何日かでやっと草刈りが終わった。お給金をいただく。そして思った。「そうだ四国行こう!」。千曲に持って行って売れた巣箱のお金を足せば、ちょうど旅費ぐらいにはなる。おあつらえ向きに、今年は学校の秋休みの並びがいい。ちょうど、作品を並べていただいている丸亀市にあるギャラリーを訪ねてみたいと思っていたところだった。

しかも元はと言えば、千曲のギャラリーの上沢さんからの縁でつながった今回の展示。この機会を逃したらもう、四国に行くことはないかもしれないし。

早速、愛犬パクの世話を友人のマヨねえに打診する。人見知りのパクは、なぜかマヨねえにだけはよく懐いている。マヨねえは快く世話を引き受けてくれた。というのも、実は永遠のダイエッターであるマヨねえは、パクとの朝夕の散歩がちょうどいいエクササイズになるらしく、お互いワンワンいやウィンウィンの関係なのである。

その日の午後、少しドキドキしながら切符を買いに行った。岡山までの新幹線、それから丸亀までの特急しおかぜ。特に信心深いわけでもないが、長野善光寺から四国は金毘羅さんへと平熱日記は続く。(画家)