【コラム・瀧田薫】中国経済の様子がおかしい。中国不動産大手「恒大集団」がニューヨークで破産を申請し、不動産最大手「碧桂園」の資金繰り難も表面化した。中国国家統計局によると、4~6月の国内総生産の伸びは前期比わずか0.8%増と急減速した。米英日の経済各紙は、中国経済の変調は「一過性のものではなく、構造的要因によるもの」とする見方で一致している。

2008年のリーマン・ショック後、「欧米経済の日本化」が指摘され、野村総合研究所のリチャード・クー氏と彼の「バランスシート不況」理論が脚光を浴びた。そして今回、「中国経済の日本化」が指摘され、クー氏と彼の理論が再び注目されている。

クー氏は、日本経済停滞の原因を、借り手企業が過剰債務解消に固執したことにあるとし、この状況を「バランスシート不況」と呼んだ。その後、企業の過剰債務は解消されていったが、投資意欲は低迷したままだった。中央銀行が異次元金融緩和を実施したが、借り入れ需要は高まらず、労働者の実質賃金は減少し、物価も上昇しなかった。

この状況下、クー氏はさらなる日本経済診断に挑戦し、その成果を『追われる国の経済学』(東洋経済新報社、2018~19年)において示した。それによれば、新興国における資本収益率が日本国内のそれを上回り、当時の日本国内には魅力ある投資先が見当たらなくなっていた。このこともあって、企業が選択したのは新製品の開発でも国内の設備投資でもなく、既存のビジネススタイルの海外移転であった。

そして残念ながら、日本政府はこれを傍観し、構造改革を率先遂行すべきところ、既得権益に対する支援策・保護策(積極財政)を優先した。狙いは選挙に勝利して政権を維持すること、つまり政府・与党にも既得権益への固執があったのである。

最大リスクは「聞く耳もたぬ」姿勢

クー氏の理論は、中国経済を「日本化」というフレーズに絡めて読み解く上で有効だ。中国経済は当初こそ低コストの労働力を梃子(てこ)として急速な工業化に成功したが、資本効率の低下、人口の高齢化と減少により成長は鈍化し、若年労働者の失業率が急激に上昇(20%)している。不動産市場の不調は巨大債務となり、デフォルトの可能性は特に地方政府において深刻である。

社会面では、出生率が下げ止まらない。過去の「一人っ子政策」の影響は、50年、100年単位で国力の阻害要因となるだろう。近未来の経済成長を担うと期待されるハイテク分野も米中摩擦の壁にぶつかっている。

もちろん、中国にも構造改革、投資偏重経済の是正、さらに若者が希望を持てる社会の形成、それぞれの大切さを認識している層もいるだろう。しかし、自国の経済成長を独自の「中国モデル」によるものとし、体制の優位性を自画自賛する習近平氏は、経済成長や「共同富裕」スローガンよりも国家安全保障や国家・国民の政治的統制を優先する。進行しつつある中国経済の変調は、この傾向に拍車をかけることになろう。

日本や欧米の側から見て、中国における最大のリスクは、中国指導層の「聞く耳もたぬ」政治姿勢にあるのではなかろうか。(茨城キリスト教大学名誉教授)