【コラム・浅井和幸】仕事を失い社員寮を出なければいけない、高齢なのでアパートが借りられない、暴力から避難してきた、預貯金も手持ち金もない―など、様々な理由で住まいが不安定な方を「住宅確保要配慮者」と呼びます。国交省の概念ですが、その方々を支援する法人を「住宅確保要配慮者居住支援法人」といい、都道府県から指定を受けて登録されます。

私が代表をしている一般社団法人LANS(ランズ)もこの居住支援法人で、5年前に茨城県第1号の指定を受けました。そこには、要配慮者やその家族、県内各自治体、他県にある刑務所などからの問い合わせに対応しています。

現在の状況を聞き取り、今後の生活の希望を加味して住まいを探します。そのあと、その住まいで安定していけるように支援します。方法は様々で、「どのようなことをしますか」と質問されたら、「遠くの親戚のような動きをします」と答えます。

相談の中で、初期費用が払えないのか、荷物を動かすのが難しいのか、住まい探しの方法がわからないのか―などを聞きます。さらに、どのぐらいの月収と預貯金があるのか、荷物の量がどれぐらいか、不動産屋に行けるのか、インターネットで調べられるのか―など、要配慮者の状況を聞き取り、支援します。

杖があることは歩く生活をしている

先日、ある支援員から、ひざが悪い高齢者Aさんについて報告がありました。Aさんの家には杖(つえ)があったので、歩けないと思いますとのこと。私はその支援員に「歩けないのであれば、スーパーに近いとか、郵便局に近いといった条件はいらないよね。歩けないのだから、近いも遠いも関係ないでしょう」と意地悪に返しました。まじめな支援員は「いえ、少しならば歩けると思います」と懸命に取り繕います。

しかし私としては、その「少し」が100メートルなのか1キロなのか、それとも今まで福祉タクシーを利用してきたのか―などを聞き出します。杖があるから歩けないではなく、杖があることは歩く生活をしていると解釈します。杖があるからと、歩くことを選択肢から排除するのは早合点です。

要配慮者からだけでなく、自治体の担当者からも「できるだけ早く、できるだけ家賃が安い物件を探してほしい」と言われます。これには「できるだけ遅く、できるだけ高い物件を探すつもりはないから、安心してください。それよりも、いくらまで家賃が出せるのか、その人の生活スタイルはどうなのかを聞かないと、山の中の物件や事故物件を紹介しますよ」とひねくれた回答をするのです。

そもそも、物件探しは日常的なことではないので、わからないことがたくさんあって当たり前です。それを前提に話を進めていかないと、家賃さえもらえたらいいと、人を不幸にする物件に住んでもらうことになります。(精神保健福祉士)