【コラム・田口哲郎】

前略

生まれてこのかた新興住宅地に住んできました。東京、大阪、宮城、茨城の中の新しくつくられた街にしか住んだことがありません。もちろんほかの地域には古い街があり、そこでは古来の風習が残ったりしているわけですが、私はそういうものとは無縁に育ってきました。住んだことのあるところは、どこでも身の回りには、古い寺社仏閣がありませんでした。

新しい街はきれいですが、伝統がありません。寺社仏閣が担う伝統がないのです。あるのは、家、公園、スーパーマーケット、ホームセンターや家電量販店ばかりです。ですから、土浦の中心部のような古い城下町に憧れたりするわけですが、それも憧れで終わるわけです。

そこに住んでらっしゃる方々の生活にも憧れます。いわゆる年間行事があり、伝統的なしきたりに従ってすることも多いのだろう、なんて思いをはせるのです。こうした行事の多くは宗教的なものだと思います。街に伝統があるということは、宗教的な色彩が強いということかもしれません。しかし新興住宅地には、そういった色合いもないわけです。

新しい街にはオカルティズムが妙に合う

ひたち野うしく駅は、関東の駅百選に選ばれるほどの造形美がある銀色の近代的な建物です。その周りには整然と並ぶ新しく美しい家々が広がっています。所々にマンションが建ち、広い道路には今どきの自動車がスイスイと通っています。こうした街並みを見ながら、ふと「ここにはオカルティズムが似合うなあ」と思いました。

オカルティズムは前に書きましたが、19世紀ヨーロッパで誕生した新しいスピリチュアリティです。キリスト教の支配から解放された社会に出現した、新しい霊性ともいえます。

世の中が変わっても、人間自身は変わらないと言われます。宗教の束縛を受けなくても、科学や理性を信じていれば、豊かに安全に暮らせるようになった人間は、自由です。でも、新興住宅地に住みながら伝統的な街の暮らしに憧れる者がいるように、自由な生活の中で、旧来の霊性というものに憧れる者もいるでしょう。この近代的な街にあって、生活している者が持つのは、そう簡単には変わらない人の心です。

自由ゆえの不安がわいてきても、逃げ込む神社やお寺、教会も近くにはない。さて、それではタロット占い、水晶占い、星座占いをしてみようかと思うこともあるでしょう。

実際、私はエリファス・レヴィの影響で、タロットを勉強しています。そして、変わりばえのない整った街を歩きながら、さきほど出たタロット・カードの絵柄を思い浮かべながら、自らの来し方と今のうつつと、ゆく末に想いをはせたりするのです。その感覚が風景に妙にマッチすることは、発見でした。街の風景とタロットの絶妙な調和などについて書いてゆきたいと思います。ごきげんよう。

草々

(散歩好きの文明批評家)