【コラム・先﨑千尋】北朝鮮による弾道ミサイルの発射失敗や、首相の「バカ息子」が昨年暮れに首相公邸で乱痴気(らんちき)騒ぎをしたというニュースに隠れて、国会では次々に、私たちの暮らしに直接関わる大事な法案が十分に審議されないままに成立している。

その一つであるマイナンバーカードについては、トラブル続きなのに、来年秋に現在の健康保険証を廃止してマイナ保険証に一本化するという。「お~こわ」だ。マイナンバーカードはイヤだと言う人は切り捨てられてしまう。国民背番号制が完成する。

もう一つは、原子力発電の活用は国の責務だとする「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法案」が、先月31日に参議院で可決成立したことだ。この法案は「原子力基本法」など5つが束ねられた「束ね法」。見出しの文言が基本法に盛り込まれ、原発の60年超運転を可能にする「原子炉等規制法」も含まれている。

今回の改正は、「原発の活用によって電力の安定供給や脱炭素社会に貢献する」ためだそうだが、「国の責務」遂行のために、原子力事業の維持に必要な人材育成・確保、産業基盤の維持・強化、事業環境の整備などが国の基本的施策とされている。

何のことはない。脱炭素は名目で、原子力産業保護政策ではないか。エネルギー政策の観点からは、原子力は多様な選択肢の一つにすぎない。再生エネルギーや省エネルギー対策には「国策」がないのが不思議だ。

東京電力福島第1原発の事故後に導入された運転期間の制限も緩められ、60年を超える稼働まで可能になった。新たな基準を老朽化した東海第2原発に当てはめると、同原発が休止している期間(14年)を加えると、なんと74年間稼働できることになる。

「難題に背向ける無責任」

機械はすべて、動いていなくとも年数がたてば老朽化・劣化する。10年間動かさなかった車など、誰も怖くて運転できないではないか。世界の原発の平均寿命は、IAEA(国際原子力機関)の発表によれば29年。世界で最も長く稼働した原発でも、53年だそうだ。アメリカ、インド、スイスなど地震も津波もない国と、地震大国の日本とは違う。

このところ電気料金の高騰が続くが、国や電力会社は、原発を再稼働すれば燃料代が安くなり、電気料金の抑制につながると主張している。

しかし、毎日新聞経済プレミア編集長の川口雅浩氏は今月2日の配信で、東電の公表資料をもとに分析し、そんなことはないと言っている。川口氏によれば、東電が他社から購入する火力などの電力の市場価格は20.97円/1kWhなのに、原発の発電コストは34.25円となる計算だ。柏崎刈羽原発を2基稼働するよりも、市場から火力発電など他社の電力を購入した方が安く済む。

私は、原発の運転延長や新設よりも、廃炉や核のゴミ処理対策、福島原発の事故処理の方を優先すべきだと考えているが、岸田首相や多くの国会議員、経済産業省の役人などはそう考えていないようだ。朝日新聞は2日の社説で「難題に背向ける無責任」と書いている。私もそう考えるが、私たちが目覚めない限り、国の姿勢は変わらないだろう。(元瓜連町長)