【コラム・田口哲郎】

前略

ずいぶん前からオカルトに興味があります。オカルトといえば、学研の月刊誌「ムー」です。UFOやツチノコ、心霊現象など、科学で解明できない現象について扱っています。オカルトはちょっとゾクゾクしますし、謎が解けそうで解けないところが魅力だと思います。

オカルトについて調べてみると、オカルトの元となった思想があることがわかりました。それはオカルティズムと呼ばれるもので、19世紀フランス最大の魔術師といわれるエリファス・レヴィ(1810-1875)が大成したとされています。オカルトはヨーロッパのキリスト教文化圏で生まれ、発展したものであるのは確実なようです。

少しその背景を説明すると、18世紀末のフランス革命でカトリック教会の一強支配が崩れて、聖職者ではない俗世の作家たちが、キリスト教会が担っていた精神的役割を肩代わりするようになりました。そのとき、いわゆる「宗教」には収まらない「宗教的なもの」が次々に生み出されてゆきました。その「宗教」の枠をはみ出した「宗教的なもの」の中の一つが、オカルティズムです。

オカルティズムの大成者レヴィはなにを隠そう、元カトリック修道士であり、詩人でもありました。そのレヴィがキリスト教会と絶交して、しかし人類を救いたいという一心で、つくりあげたのがオカルティズムなのです。

レヴィは今のオカルトで扱う未確認飛行物体・生物などについて研究したわけではありません。ユダヤ神秘思想にもとづいたカバラを極めました。これは現代のタロットに通じるものです。それもたとえば恋愛運や金運を占うという意図ではなく、宇宙を支配する聖なる知恵を知り、その知恵によって世界を知り、よりよく生きることを目指しました。その知恵を人びとに伝えることで、人びとが幸せになることが大切なのです。

人間の根本的な存在を問いつづける

夜空を眺めていると、宇宙が見えるような気になり、目をつぶると、自分が宇宙の中の小さな存在であることが実感できます。そもそも宇宙や人間の存在自体が不思議です。

その意味は、日常にかまけていると気にもなりませんが、ふと瞑想(めいそう)すると、この宇宙の意味を誰も教えてくれないことに気づきます。そもそも教わるものではないのですが、では探求したとしても、答えなどない。でも、宇宙はたしかに存在して、地球は自転・公転し、宇宙の中を時速11万キロで駆け抜けています。科学で事実はわかっても、宇宙の存在の意味はわかりません。

こうした人間が持たざるをえない根本的な疑問は、人を不安にもさせますが、深い静寂にも導きます。

レヴィはこうした人間の根本的な存在の意味を研究して、人びとに伝えたかったのです。こうしてオカルティズムは150年以上前に生まれ、そして現代にまで脈々と続いています。こんな人間の思いを大切にしたいですね。ごきげんよう。

草々

(散歩好きの文明批評家)