【コラム・瀧田薫】新聞報道によると、囲碁7大タイトルの1つ「本因坊戦」が、主催する毎日新聞によって大幅縮小される(朝日新聞4月17日付)。本因坊への挑戦権を争う8人総当たりリーグ戦が廃止され、タイトル料はこれまでの3分の1以下に大幅減額となるという。

毎日は「伝統ある本因坊戦をなんとか維持するための苦渋の選択だ」としているが、確かにそう言わしめるだけの事情はある。レジャー白書によれば、日本の囲碁人口は1980年代には約1000万人だったが、2021年には150万人まで落ち込んでいる。

また、日本の新聞の総発行部数も2000年に5300万部あったものが、2022年には3084万部(日本新聞協会公表)まで減少している。新聞社の経営陣にしてみれば、囲碁人口数も発行部数も背筋が寒くなるようなデータであり、これでは「背に腹は…」の心境にもなるだろう。

ところで、新聞業界は今、さらなる試練に直面している。対話型AI(人工知能)「チャットGPT」(以下GP)の出現である。GPは高度な言語処理能力を持つ「大規模言語モデル(LLM)」に大量のデータを学習させ、人間と見分けがつかないぐらいスムーズな文章を作る。

すでに、紙媒体としての新聞は、ネット環境の爆発的発展によって追い込まれ、さらに膨大なフェイクニュースに追い討ちをかけられている。その上、得体(えたい)の知れないGPの登場である。これへの対応をあやまると、新聞社の存続自体が危うくなる。それどころか、人類の生存さえ危ぶむAI専門家まで出てきている。ただ事ではない。

言語活動や創作活動の一部を補完

東京大学副学長の太田邦文氏が、GPに向き合う方法について、東大のウェブサイト「ユーテレコン」に見解を載せている。以下、その要点(抜粋・筆者)をまとめてみた。

「GPは検索ではなく、相談するためのシステムである。書かれている内容の信憑(しんぴょう)性には警戒が必要であり、個人情報などをGPに送るのは危険だ。将来、著作権や文書を用いた試験・評価に問題が発生する可能性がある。社会に対する悪い影響もあり得る。東大の学生や教職員に対して、今後、GPについて逐次情報を伝え、かつ議論の場を設ける。学内外の対話を通じて、GPを有効な道具としつつ、より良い世界の構築に貢献していこう」

太田氏の見解の肝心な点は「GPを平和的かつ上手に制御して利用すれば、人類の言語活動や知的創作活動の一部を補完し、私たちのwell-being(ウェルビーイング)向上に大きく寄与するだろう」と述べていて、GPに対して警戒しながらも、基本的には楽観していることだ。

この認識が正しいかどうか、現時点ではなんとも言えない。幸い、すでに多種多様な領域の専門家がGPについて検証を開始している。筆者が望むのは、新聞業界が一丸となってこの検証の先頭に立ち、まとめ役を果たすことだ。それが出来るか出来ないか、まさに「新聞の存在意義」が問われるプロジェクトとなるだろう。(茨城キリスト教大学名誉教授)