【コラム・原田博夫】ふるさと納税による市町村民税(個人)控除額は2022年度、全国では540億円超で、前年度より168億円増えている。初年度(2009年度)の19億円と比べると、28倍である。控除額=流出額の多い地方自治体はほとんどが大都市である。高所得者で、インターネットやSNSへのアクセスが日常的で、目端(めはし)の利く大都市住民がこの制度を活用しているようだ。

ところが、この市町村民税(個人)控除額の流出のうち75%は、地方交付税制度で多数派の交付団体ではカバーされる。ただ、少数派の不交付団体は、ふるさと納税の流出額はカバーされない。

そもそも地方交付税制度(普通交付税)では、それぞれの自治体ごとに標準的な財政運営と財政収入を想定して、基準財政需要額と基準財政収入額(標準税率による地方税収の75%)を算出して、前者が後者を上回る分を財源不足とみなし、その不足分が交付額になる。

前者が後者を上回れば交付団体となり、下回る場合は財政的に富裕とみなされ不交付団体となる。交付団体において、ふるさと納税の流出額の75%がカバーされるとは、この仕組みによる。

一方、不交付団体ではこうした補填(ほてん)がきかない。不交付団体は2022年度では、東京都と72市町村(市町村総数は1718)である。東京都(および23特別区)はこの地方交付税制度の創設(1954年度)以来、一貫して不交付団体である。都内の市町村の中にも不交付団体がある。現に2022年度は、全39団体中9団体が不交付団体である。茨城県では、つくば市、神栖市、東海村の3自治体である。

他方、東京23区は、東京都と同様に地方交付税制度では不交付団体である。ところが、市町村民税(個人)控除額のランキングでは、全国20位までに東京都23区のうち8区が入っている。特別区長会ではかねてから、ふるさと納税制度の問題点を指摘し、廃止も含めた見直しを要望している(例えば2017年3月13日付)。

2019年6月から新制度がスタート

こうした経緯を経て、2019年6月1日からふるさと納税の新制度がスタートした。返礼品を「寄附額の3割以下の地場産品」に限定し、ルールを守る自治体のみ税優遇を認める、というもの。総務省は2019年5月14日、この新制度を利用できる地方自治体を公表した。この新制度には、東京都はそもそも手を挙げなかった。

また、税優遇を受けることができないとされたのは4市町、税優遇期間が4カ月(2019年9月30日まで)に限定されたのは43市町村(茨城県では稲敷市、つくばみらい市)だった(これらの市町村は、いわばイエローカードで、再度の申請は可能)。

ここ10数年の展開を見ると、この制度の立ち上げをリードしたと自負している菅義偉前首相に、ふるさと納税制度(案)の問題点を縷々(るる)説明した当時の総務官僚の心配、懸念は杞憂(きゆう)ではなかった。とはいえ、せっかくここまで人口に膾炙(かいしゃ)した制度をご破算にするのは難しい。

せめて、ふるさと納税の寄附先を過疎地自治体885団体(2022年度では全国1718市町村=東京23区を除く=中51.5%)に限定するなどの改革で、当初の問題意識を昇華させたい。(専修大学名誉教授)