【コラム・先﨑千尋】先月25日、安全性に問題があるとして住民らが日本原子力発電 東海第2原発の運転差し止めを訴えた訴訟の控訴審で、東京高裁は担当裁判官を交代させることを決め、弁護団に通知した。このことにより、先月31日に予定されていた控訴審の第1回口頭弁論は延期された。

原告側の弁護団によると、控訴審を担当する永谷典雄裁判長は、行政訴訟で国側の立証を担う法務省の訴訟部門に長年在籍。複数の原発関連訴訟で国側代理人を務めたほか、国に東海第2原発の運転差し止めを求めた行政訴訟では、訴務担当の審議官などで指揮する立場にあった。

このことを問題視した弁護団は「公正な裁判が行われない」として、昨年12月、永谷氏に自主的に辞退するよう申し入れていた。弁護団は、申し入れが拒否された場合には、31日の口頭弁論で公正な裁判を受けるために、裁判官の交代を求める「忌避」を申し立てる方針だった。交代の理由について裁判所側は「諸般の事情を鑑みた」からだと弁護団に説明したという。諸般の事情とは、交代する理由を明らかにしないために、としか考えられない。

ものものしい警備の中で見

東海第2原発については、一昨年3月に水戸地方裁判所が、避難計画の作成の遅れや内容の不備などを理由に再稼働は認められないとして、再稼働の差し止めを命じた判決を出していた。最大の争点となった周辺自治体の広域避難計画の策定は、30キロ圏内にある14市町村のうち5市町村が終えたのみ。策定した市町村でも、大地震による道路の寸断など複合災害を想定した複数の避難経路が設定されていないなどの問題点がある。

さらに、避難所の収容人数を算定する際に通路やトイレなどの非居住空間まで見積もるなどしたため避難先の見直しを迫られていて、全体として実効性のある避難計画策定の見通しは立っていない。

こうした事情にいら立ちをみせた地元の東海村では、商工会が中心となって、村に早期に避難計画の策定を求める請願が出され、昨年3月の議会で可決されるなどの動きが出てきている。

裁判の先行きが不透明な中、日本原電は東海第2原発の再稼働を目指し、防潮堤の建設などの安全性向上対策工事を進めている。当初の計画では22年12月に完了の予定だったが、24年9月に延期になっている。テロ対策設備も含めた工事費は2350億円。この経費は私たちの電気料金で賄われる。工事が終わっても、周辺の6市村の同意がなければ、再稼働はできない。

同原電では、昨年12月から今年の3月まで、東海村など5市1村の住民を対象に発電所見学会を行っている。私も、どのような工事が行われているのかを確かめるため、今月1日に出かけてみた。最初に全体の工事計画などの説明を受け、バスで現場を案内してもらった。

最大17.1メートルの津波を想定した防潮堤は、原発の施設をコの字形の壁で囲う。地下60メートルの岩盤まで直径2.5メートルの鋼管杭を30センチ間隔で打ち込み、地上に杭を継ぎ足し、コンクリートで覆うというもの。他の工事現場も見て回ったが、こんなことまでして再稼働しなければならないのかと感じた。バスに乗る際、カメラやスマホの持ち込みは禁止され、ものものしい警備の中での見学だった。(元瓜連町長)