【コラム・及川ひろみ】聞き取った中には、宍塚には今はいないゲンジボタル(キノボタルと呼ばれていた)、ムササビ、リスなどもいたことが明らかになった。ウナギ、ドジョウ、タニシも市が立つほど採れたそうだ。中でも最も熱心に捕ったのはウナギ。

夏、池の水が少なくなると池に入り、ウナギ鎌を左右に振り、水中のウナギを鎌の先にひっかけて捕った。今も、鴨居にその鎌が飾られている家が結構ある。そして、今でも度々、大池にはウナギがいるのかと質問を受ける。残念ながら見たことはないが、2013年夏、池が減水した時、ウナギ鎌を振るっている老人を見た。地元の方にはウナギ捕りの思い出が今も強烈に残っているようだ。

「ドジョウは夜行性なので、夜、松の根(ヒデぼっくい)をカンテラ代わりに燃やし、ヤスとドジョウ入れを持って捕った。明かりが宍塚の田に点々とみられ美しかった」とS老人。

キノコ採りの話も多くの方から伺った。「野良の合間にこっそり採る。出る場所はほぼ毎年決まっていて、旨いキノコが出る所は家族にも教えない。教えるのは死の間際だ」とS古老。ドウガンボウ(アオドウカン、クロドウガン)。どれも今では茨城ですら見ることができないと、キノコ専門家から聞いた。

ホウキタケ、初茸、イッポンシメジ、ホンシメジなどなど、美味しいキノコがたくさん採れた様子が伝わってくる(今では宍塚では見られないものも多い)。土地に産するものは地主の所有物だが、キノコと山菜は誰でも採ることができたそうだ。

指先が化膿した時に、カブトムシの幼虫の皮をかぶせると治るとの話には驚いた。この話をされた古老が亡くなられてから、幼虫の皮には殺菌効果があることが報道され、びっくりした。雑菌が多い腐葉土に育つカブトムシの幼虫には、体内に雑菌が入るとこれを殺す作用を持つ物質があると言う。知恵の結晶はどこまでも深く、驚く話が止めどなく聞かれ、知恵の深さを思い知った。

宍塚町50人以上の方から、人によっては10回以上聞き取った。聞いた料理の中のいくつかは、収穫祭や里山の春を楽しむ会で再現。「ならせ餅」「さなぶり」などの伝統行事については、毎年、大勢の子ども達にその意味を伝えている。

2005年、「続聞き書き里山の暮らし―土浦市宍塚」(A6版、334頁)を発行した。①聞き書き編②テーマ編(a農業用水 b山 c谷津田と稲作 d畑と作物 e住 f食 g衣 h年中行事 i動植物)③資料編(航空写真から見た宍塚の変化、土地利用図、小地名及び寺社、年表)―から成っている。

聞き取りをさせていただいた方々がご高齢になり、失われてゆく知恵や記憶をすがる思いで追い求めている。会の出版物は土浦市立図書館、つくば市立図書館、国会図書館に寄付。県内の希望する学校すべてに寄贈した。(宍塚の自然と歴史の会代表)

「続 聞き書き 里山の暮らし」の表紙